今回の「ラウンジ」は、いまホンダ車に乗っているひと、あるいはホンダに興味があるひと、ホンダ車購入を検討しているひと向けになりそうな気配。

かつて自動車のガラスは、断面がN字型の「Nゴム」を介して車体に固定されていたが、いまは接着剤で固定されている。
もちろんこれは昇降やスライドしない、フロントやリヤなど固定されたガラスの話。
フロントガラスであれリヤガラスであれ、ガラス周囲には黒のセラミック塗装が施され、これは接着剤ののりしろとしてあてがわれている。
筆者が使っている旧ジムニーシエラのリヤガラスなど、納車は2018年3月でも、まだNゴム固定が残っていた1998年1月登場のクルマだから、後ろのガラスの姿は前時代的だ。

めずらしい例では1999年発売のS200型ハイゼットトラックがある。
このクルマのフロントガラスは、素のモデルはNゴム固定なのだが、助手席エアバッグ付き車になると接着式になるという芸の細かい造り分けがされていた。
同じクルマなのに、助手席エアバッグの有無でガラスの固定方式が変わる格好だ。
バン型カーゴは覚えていない。

ハイゼットトラックS210型(1999年1月)。ほんとうは助手席エアバッグ付車との比較写真があってこそ載せる意味があるのだが。あいにくこれしかない。

こんなちっこい2つのマークにいったい何の意味がある?

さてこのセラミック塗装である。

いまホンダ車にお乗りの方、あるいは身近にホンダディーラーがおありの方は、ホンダの新車の前に立ち、フロントガラス両脇(=フロントピラー沿い)のセラミック塗装部に目を近づけているといい。
クルマによって多少違うが、ピラー上から1/3~1/4あたりの位置だ。

小さな三角(▲)マークが記されていることがわかるだろう。
さあ、これはいったい何か?

現行ステップワゴンを例に、目を凝らして見てみる。
これだ。写真は現行ステップワゴンの左フロントピラー沿い。
こちら運転席側。
これ。
外から見るとわからないが・・・
この位置にある。

実はこのマーク、ドライバーの視線を安定させるためのものだ。

このマークを刻むことにより、ドライバーが「意識せずとも視線が安定するようになり、効果としては狭路通過時にバラツキが少なくなる=視線がふらつかないので、同じところを通れるようになる(ホンダ)」というのだ。

筆者がホンダの方から、このマークについて教えられたのは2011年のことだった。
これはHonda SENSINGが導入される前のことだ。
それまでにもLKAS(レーンキープアシスト)は単発的に存在していたし、いまのHonda SENSINGなんて軽自動車にも標準搭載されている時代だが、かなりの、かなりの無理を承知でいうなら、この三角マークはHonda SENSINGの路外逸脱抑制機能の超簡易版にして超低コスト版といっていいかも知れぬ。

2011年のときは、てっきり「知らぬ間に目に入るこの三角マークを目安にまっすぐ駐車できるもの」と誤認識し、「なぜそうなるかはわかっていいない」とのことだったのだが、その後・・・いまから4年ほど前にホンダ車に接する機会があり、曖昧な記憶をはっきりさせるべく、あらためてこの三角マークの効用についてたずねたら、以下のような答えをちょうだいしたので記載しておく。

【ホンダ回答】

視線が安定するというのが三角マークによる効果となります

具体的には、意識せずとも視線が安定するようになり、効果としては狭路通過時にバラツキが少なくなる(=視線がふらつかないので、同じところを通れるようになる)というものです。

ただ、それがどのようなメカニズムなのかまでは解明しておらず、推察となっております。

1.人は、一つの環境の安定した世界を認識しているが、脳内では、頭部、身体、環境など様々な座標系があり、頭頂野で統合されている。

2.目を動かしても、視界が揺れないのは、随伴反射によって目の動きがキャンセルされるため。
とはいっても若干のぶれはある。

3.そのため、三角マークによって視線が安定すれば、環境と車両近くの精度が高まり、同じ所が通れるようになると考えられる(仮説)。

これは2022年1月にいただいたときの回答だ。

最初「クルマをまっすぐ置ける」と勘違いしていたのは、2011年にホンダの方に教えられたとき、資料としてどこかの雑誌が採り上げた三角マークの記事のコピーを見せてもらったのだが、その記事で前向き駐車・バック駐車にも効果があることを写真とともに紹介していたのを強烈に刻んでしまったためだ。

本当は「視線が安定することで、狭い道でも右に左にふらつくことなく、安定して走ることができる」だ。
それが結果的に、まっすぐ駐車できることにもつながるのだろう。

私がこのマークで好きなのは、その理由が解明できておらず、そして当のホンダが堂々と「わかっていない」といってのけているところ。
これだけ科学が進み、完全自動運転がすぐそこの曲がり角まで来ているというのに、ひとの動作にはまだまだ解明できていないなんて、「宇宙人はいるか・いないか」にも似た神秘的なものを感じるじゃないか!

実践再録

私は駐車場で区画線に対してクルマを平行に置くことついては感覚的にできるほうだ。

ただ、いまのクルマは出てくる新型車新型車、まっすぐ駐車しにくいクルマが多いとは感じている。
以前、現行のフィットやステップワゴンに乗ったとき、三角マークを意識しているのかしていなのか、あえて自分でもよくわからない状態で駐車し、降りたら白線に対してまっすぐに止まっていた。

以下にそのときの写真を並べておく。
わざとらしく見えるだろうが、そこは見逃していただける読者のみなさまの優しさがほしい。

現行フィットのModulo X。
まっすぐ!
まっすぐ!
現行フィット、自宅の車庫の場合。
まっすぐ。
まっすぐ。
先代N-BOX、自宅の車庫の場合。
まっすぐ。
まっすぐ。
現行ステップワゴン、自宅の車庫の場合。
まっすぐ。
まっすぐ。

・・・・・・・・・。

われながら少々出来レースくさい感じがする・・・

まあ、ホンダ車乗りの方やこれからホンダ車を買おうとしている方は、実際に意識してみるといい。

なお、これは三角マークがまっすぐ駐車のためのものであると勘違いしているときに撮った写真だから、せまい道での安定走行の効果は試していない。
だいたい、借りたクルマでヘンな道を走るわけにはいかない。
勘違いを改めたのは、この写真を撮った後に上記の回答をちょうだいした後のことだ。

このマーク、最近ではちょいちょい他のメディアでもときおり紹介されているが、ホンダがことさらPRしていないこともあってか、定着しないようだ。

そりゃそうだ。
ホンダ自身「理由はよくわかっていない」のに推測にすぎない理由で効果があるものはPRしにくいだろう。
事実、ホンダの中にも知らないひとがいるし、ホンダ販売店でたずねたら、マークの存在は知ってはいても、ドライブレコーダー貼っつけ位置の下限マークと思い込んでいるひともいた。

でも、おもしろいから、知っているひとだけが知っている、PR不足のままの三角マークでいいと思っている。
視線が安定する効果だけは明白なのに、その理由をホンダ自身がよくわかっていないなんて、なんかミステリアスでいいじゃないの。
何でもかんでも明らかになるのもつまらないものだ。
ひとつやふたつ、謎のまま残しておくものがあってもいい。

私にとって、ホンダのこの三角マークは、「宇宙人はいるか・いないか」「幽霊はいるか・いないか」「超能力はほんとうか」と同列のサスペンス、あるいはミステリーなのである。

それにしても、いったい何をきっかけに「三角マークをつけたら視線が安定する」と考えたのか。
いつかインタビューしてみたいものだ。