補助金を考慮すると軽スーパーハイトワゴンと同等価格?

ZグレードAWD(492万8000円)

2025年9月に発表されたスズキのEV(電気自動車)「eビターラ」は、インドで生産される世界戦略車。その日本国内での販売が始まり、そうそうに公道試乗する機会を得た。試乗したのは、千葉県幕張の市街地。3車線の広い道から住宅街の一方通行まで、日本の公道におけるリアルを体感できるエリアでもある。

まず、確認しておきたいのはeビターラのポジショニングとグレード構成だ。

全幅こそ1.8mとスズキのラインナップとしては大きめに感じる数値だが、クーペ的なフォルムと床下に駆動用バッテリーを積むパッケージの影響で、後席のヘッドクリアランスは「SUVとしては余裕がない」というのが第一印象。全長は4.3m足らずのコンパクトなボディということからすると、主に1~2人乗車での使用を想定するユーザーが選ぶタイプの、オシャレなコンパクトSUVに分類できる。

EVとして特徴的なのは、駆動用バッテリーにLFP(リン酸鉄)リチウムイオン電池を採用していること。多くのEVが採用するNMC(三元系)リチウムイオン電池に比べて、LFPバッテリーは同等スペックだと容積が大きくなりがちだが、一方でコスト面や安全面そして寿命においては有利な傾向にある。

身近なモビリティを提供し続けるスズキらしいバッテリー選択といえる。

バッテリーのコストを抑えようという意図はしっかり値段に現れている。eビターラは、バッテリー総電力量49kWh仕様と61kWh仕様を用意するが、前者のメーカー希望小売価格は399万3000円。そこからCEV補助金127万円を引くと、おおよそ272万円となる。

オプション盛り盛りの軽スーパーハイトワゴンと同じような予算で、グローバルモデルのEVが買えるというのは、かなり戦略的な価格設定といえるし、庶民がスズキに期待する価格感に合致するものといえるだろう。61kWhバッテリーで、前後にeアクスルを積んだ最上級グレードの4WDであってもメーカー希望小売価格は492万8000円だから、補助金を考慮すると車両については約365万円で買えることになる。ヘタなハイブリッド車よりも手ごろな価格のEVといえるのだ。

XグレードFWD(399万3000円)。一充電航続距離は433km

アクセルを踏み込むと元気、曲がりたがりな4WD

ZグレードAWD(492万8000円)

というわけで、公道試乗は最上級グレードの4WDから始めることにした。

前後の車軸間にバッテリーを積むという設計を受けたEVの常で、eビターラもホイールベースが2700mmと長めだ。ただし、ステアリングの切れ角は十分に確保されているようで、撮影のために狭い場所で向きを変えるといったシチュエーションでもスムースに運転できる。スペックで確認すれば、最小回転半径は5.2m。比較が適切かどうか議論はあるだろうが、ジムニーノマドの最小回転半径5.7mと比べれば、圧倒的な小回り性能を実現している。

運転席からノーズ先端の位置も把握しやすく、全体にスクエアなスタイリングなので初めて乗っても車両感覚が掴みやすい印象も受けた。

アクセルを踏み込んだときのマナーも上々。モーター駆動車では、ともすれば「ギュン」と飛び出してしまうようなセッティングになっていることもあるが、eビターラはアクセルの踏み始めがあえてマイルドに作り込んであるため、エンジン車から乗り換えても違和感なく運転できる。

評価がわかれると感じたのは、中間加速の鋭さ。冒頭で記した3車線の道路で、30km/hくらいからアクセルをグッと踏み込んだところ、それまでのマイルドさがウソのような鋭い加速を見せた。前後モーターを合わせたトルクは300Nmを超えているので、スペック通りの加速感といえる。これを非日常的なEVらしい刺激と評価することもできるが、普段使いでのマイルド感とのギャップが気になると感じるかもしれない。

もっとも、eビターラにはノーマル/エコ/スポーツと3つのドライブモードが設定されている。前述した加速感はノーマルモードで味わった印象だが、もっと刺激がほしければスポーツモードを選べばいいだろうし、EVらしくゆったりとスムースに乗りたいというのであればエコモードを選べばいいだろう。

筆者の好みはスポーツモードだった。

なぜなら、eビターラの4WDについては、非常に曲がりたがるシャシーという印象があり、そのハンドリングには鋭い加速感がマッチすると感じたからだ。エンジニア氏に聞けば、4WDのみリヤにスタビライザーを装着しているのだという。スタビライザーによるロール剛性アップが、ドライバーにメリハリのある走りを誘っているのかもしれない。

前後モーターによるシャープな加速と、それに見合ったハンドリングの味付けが、eビターラ4WDの特徴と感じた。そうしたEVらしさを求めるユーザーには、とくにオススメできる。

インパネからドアトリムにつながるブラウンのソフトパッドが洗練した印象
シフト周りのデザインはトヨタ系と似たものだがスズキが独自に調達したものという
前後モーターに対応したEV専用プラットフォーム「HEARTECT-e」を採用する

乗り心地も加速もマイルドなFWDは、街乗り系ユーザーにおすすめしたい

ZグレードFWD(448万8000円)

つづいて、FWD(前輪駆動)のeビターラに乗ってみる。試乗したのは61kWhのバッテリーを積む上級グレード。乗り込んだ際のバッテリー残量は92%で、メーター表示の航続可能距離は410kmを超えていた。なるほど、実用性と価格のバランスを求めるユーザーに合格点を貰えそうな電費が期待できる。

試乗したのは外気温が4℃前後と寒い朝、そのため暖房は必須となる。はたして、暖房を使ったときのリアル電費はどのくらいなのか。eビターラFWDの試乗では、そこをメインテーマとしてみた。

ただし暖を取る手段はエアコンではない。eビターラの暖房は効率に優れたヒートポンプ式なので電費への悪影響は抑えられているのだが、今回はステアリングヒーター&シートヒーターを活用することにした。これは電費を意識した部分もあるが、エアコンより素早く体を温めることができるからだ。

シートヒーターのメリットは音がしない点にもある。エンジン音などのノイズがないEVだからこそ、エアコンファンの音が耳障りに感じる。日常的にEVに乗っている筆者がシートヒーターを愛用しているのも、静かなキャビンを求めての選択という面もある。さらに、eビターラのシートヒーターは3段階にセットできるのも魅力。ある程度、シートが暖まってしまえば、ローモードにすることで快適な環境にすることができるのだ。

空調よりもシートヒーターを活用したほうが、すばやく暖かさを実感できる。センターディスプレイは10.1インチサイズ
eビターラのモータールーム

EVの最高出力はバッテリーの性能に左右される部分もあり、前後モーターを積んだ4WDと、フロントモーターだけのFWDでは、システム最高出力については大差ない(4WD:135kW、FWD:128kW)。ただし、加速感に影響が大きいトルクについてはシングルモーターのFWDは200Nm足らずとなっている。

しかし、このメカニズムはあらゆるシチュエーションでのマイルドさと乗りやすさにつながっている。アクセルを踏み込んだときの加速はエンジン車よりは鋭いが、驚くほどではなく、電動車らしい余裕を感じるレベル。コンパクトSUVスタイルのEVとして、eビターラのキャラクターにマッチしているのはFWDの走り味だと思うのは筆者だけだろうか。

最後に、eビターラFWDの試乗テーマであるリアルワールドの電費について報告しよう。

およそ1時間、市街地をさまざまなシチュエーションで運転したときの電費(メーター表示)は結果的に7.1km/kWhだった。エコドライブを徹底したつもりはないが、eビターラが標準装備する「イージードライブペダル(アクセルだけで加減速をコントロールできる機能)」を多用したことが、この電費に貢献したという印象もある。

はたして、この電費はガソリン車に置き換えると、どの程度のランニングコスト感となるのだろうか。

電気代を1kWh=31円とすると、1kmを走行するのに必要なコスト(電気代)は約4.3円となる。レギュラーガソリンを155円として、同等のランニングコストを実現するエンジン車(ハイブリッドカー)には36km/Lの燃費性能が求められる。カタログ値ならともかく、リアルワールドで36km/Lの燃費を出すことの難しさを考えれば、日常における圧倒な経済性からEVを選ぶというユーザーも増えそうだ。

今回は試乗できなかったが、おそらくバッテリーが小さく、車両重量も1700kgと軽量なエントリーグレードであれば、もっと優れた電費で走行できるだろう。第一章で触れたように、eビターラのエントリーグレードは補助金を考慮すると軽スーパーハイトワゴン並みの価格となる。それでいて、3ナンバーサイズのクーペSUVとしては取り回しが容易で、ランニングコストも圧倒的にオトクとなれば、「eビターラ」は街乗りをメインとしているユーザーの有力な選択肢となり得るのだ。

ZグレードFWD(448万8000円)
10.25インチのフル液晶デジタルメーターで電費を確認できる。撮影した段階での電費は7.3km/kWhだった
ZグレードFWD(448万8000円)
前後ドアとテールゲートを開けたところ

eビターラ主要スペック&メーカー希望小売価格

eビターラ メーカー希望小売価格
X(2WD・49kWh):399万3000円
Z(2WD・61kWh):448万8000円
Z(4WD・61kWh):492万8000円

e VITARA Z 2WD主要スペック【】内は4WD
全長×全幅×全高:4275mm×1800mm×1640mm
ホイールベース:2700mm
最低地上高:185mm
車重:1790kg【1890kg】
駆動方式:FWD【4WD】
乗車定員:5名
バッテリー種類:リン酸鉄リチウムイオン
バッテリー総電力量:61kWh
システム最高出力:128kW【135kW】
システム最大トルク:193Nm【307Nm】
フロントモーター最高出力:128kW
【リアモーター最高出力:48kW】
一充電走行距離(WLTCモード):520km【472km】
サスペンション形式:フロント・ストラット/リヤ・マルチリンク
最小回転半径:5.2m
タイヤサイズ:225/55R18

ZグレードAWD(492万8000円)
ZグレードFWD(448万8000円)
eビターラはスズキ初の本格EVとなる