ジュークが切り拓いた「個性的なクロスオーバー」という市場

2014年のパリ・サロンのトヨタ・ブースには変わった造形のコンパクトSUVクーペが展示されていた。TOYOTA C-HR Conceptである。
C-HRという車名は、日本では「Compact High Rider」と「Cross Hatch Run-about」の頭文字から命名したと説明される。一方、欧州などでは「Coupe High-Rider」とも説明された。
言うまでもなく2016年に市販されたC-HRのコンセプトモデルである。
個性的なデザインのクロスオーバーSUVの先例としては、2009年のジュネーブ・ショーに日産が出展したQAZANA(カザーナ)がある。もちろん、2010年に登場するジューク(JUKE)を予告するコンセプトカーだった。

ジュークは欧州でスマッシュヒットとなった。2011年に欧州だけで約10.1万台、日本でも3.4万台も売れたのだ。「個性的すぎるコンパクトクロスオーバー」のマーケットが欧州にあったことを証明したわけだ。フォロワーはすぐに現れた。
キャプチャー、プジョー2008、シトロエンC4カクタスを、マツダCX-3、ホンダHR-V(ヴェゼル)などが続々とこのカテゴリーに参入。欧州はコンパクトSUV/クロスオーバー花盛りだったのだ。
3ドアから5ドアへ。それでもサイズはまったく同じだった



そんななか、トヨタが2014年のパリで提示した回答がC-HR Conceptだった。
前述したようにC-HRは「Coupe High-Rider」、そうクーペがキーワードだ。トヨタはC-HRで単に小さいSUVをつくろうとしたのではなく、クーペ/ハッチバック的なスタイルとSUVの車高感を掛け合わせること自体がコンセプトだった……と言えそうだ。
量産車としてのC-HRのPCD(Project Chief Designer)は、伊澤和彦氏だ。C-HRは世界3大陸のデザインスタジオにより共同開発で本社のPCDの伊澤氏が全体をマネージしたという。

オリジナルのエクステリアデザインはアメリカのCALTY(Calty Design Reseach)でイアン・カータビアーノ氏(Ian Cartabiano)が主要な役割を果たした。カータビアーノ氏は2012年にLF-LCコンセプトを手がけ、のちに、トヨタ・カムリ(2018年)、Concept-i、FT-4Xなどのデザインを担当した。
ただし、2014年のC-HR Conceptはカータビアーノ氏の個人名ではなくED²(Toyota Europe Design Development)を含む、複数のトヨタ・デザインセンターの協業によるスタイリングだと説明している。
プロジェクト・チーフデザイナー:伊澤和彦
オリジナル・エクステリア案:CALTY(米国)
CALTY側の主要デザイナー:イアン・カータビアーノ
開発:日本・米国・欧州のデザイン拠点によるグローバル協業
ということだ。

2014年に登場したC-HR Conceptは3ドアで巨大なホイール255/40R21(外径737.4mm)を履き、極端に絞り込んだキャビン、彫刻的なフェンダーなど、コンセプトカーらしいルックスで注目を浴びた。つまり、「これはコンセプトカーなんでしょ?」という見られ方だった。当時、パリ・サロンの会場で実際にC-HR conceptを見たときも、これが実際に量産されるとは思わなかった。
これが翌年のフランクフルト・モーターショーで進化した姿を見せた。C-HR Concept(5ドア)である。

ボディサイズは
2014年 C-HR Concept(3ドア)
全長×全幅×全高:4350mm×1850mm×1500mm ホイールベース2640mm
2015年 C-HR Concept(5ドア)
全長×全幅×全高:4350mm×1850mm×1500mm ホイールベース2640mm


つまりまったく同じなのだ。ホイールサイズも255/40R21で同じである。
サイドミラーが2014年Conceptのカメラから2015年はコンベンショナルなミラーになり、ルーフの処理も常識的なものになった。ドアは3ドアから5ドア化された。それでも2014年Conceptが持っていた強烈な個性はそのまま維持していた。







この当時、トヨタは新世代のプラットフォーム戦略してTNGA(Toyota New Global Architecture)構想を進めていた。構想が発表されたのは2012年4月。TNGA第一弾が2015年発表のプリウスだった。C-HRの量産型が発表されたのは、2016年だから、2014年のパリ・サロンのC-HR Concept(2014年)のときは、当然TNGAがベースとしてあった。さらにいえば、2016年の量産型のC-HRのデザインやパッケージもこの時点では固まっていたと推測できる。量産C-HRの開発を進めながら、そのデザイン思想を強く主張したショーカーを先に世の中へ見せたというわけだ。

かなり尖ったデザインの新型車をいきなり市場へ投入するのではなく、2014年、2015年と2年続けてコンセプトカーを見せることで、その姿を少しずつ人々の目に馴染ませていく。そんな狙いもあったのではないだろうか。
実際、トヨタは2015年のC-HR Conceptをターゲットユーザーに見せて反応を調査し、そのフィードバックをデザイナーやエンジニアに伝え、量産車の開発に反映させていた。
ホイールベースは最初から2640mm! 量産C-HRはすでに見えていた?

そして2016年3月。いよいよ量産型のC-HRがジュネーブ・モーターショーで発表された。

ボディサイズは
2016年 C-HR 量産型
全長×全幅×全高:4350mm×1795mm×1555mm ホイールベース2640mm
ホイールベースは一貫しては2640mm。見事に2014年、2015年から繋がったデザイン&パッケージだ。量産化に際してボディを大きくつくり変えたというより、超ワイド&ローだったコンセプトカーを55mm細く、55mm高くして現実的なクロスオーバーに仕上げた、と言える。

タイヤは常識的な225/50R18(外径682.2mm)へ変わったけれど、十分に迫力あるスタイルは維持された。トヨタが考えたロードマップ通りにC-HRは世に出たのである。



「攻めすぎたデザイン」は大成功! C-HRは欧州トヨタの主力車へ


ロードマップには続きがある。
では、C-HRは想定通り売れたのか?
売れたのだ。ヒット作、いや大ヒット作となった。
日本では発売翌年の2017年に11万7299台を売り、欧州でも2017年に12万750台、18年に14万7276台、19年に13万4442台という販売台数を記録したのだ。
2014年のパリで見たC-HR Conceptは、かなり冒険的なデザインに見えた。ところが、それは一過性のショーカーではなかった。2年後にほぼその姿のまま量産され、日本でも欧州でも大ヒット。さらにその考え方は2代目へと受け継がれた。




2026年6月時点で、C-HRの世界累計販売は210万台、欧州だけでも120万台を超えている。2014年に「これはコンセプトカーだからできるデザインだろう」と思わせたあの姿こそ、その後10年以上にわたってC-HRを支える商品力になったのである。
コンパクトなのに鮮烈で存在感マックス。いまこそ、こんなクロスオーバーが日産には必要だ。ジュークの前身となったあのモデル | Motor Fan|自動車情報のモーターファン
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