紆余曲折の果てに完成した極上のフィーリング
新車ワンオーナーで突き進むパワーチューニング
D1GPでの『のむけん効果』炸裂により、すっかりドリフトのイメージが定着しているER34。そんな中にあって今回取材したのは、最高速ステージを見据えてチューニングが施された異色とも言える一台だ。
オーナーの石渡さんは1998年にRB25DET搭載の25GT-tを新車で購入。それまで乗っていたECR33同様に、名門“RSヤマモト”でチューニングを始めた。

「その頃、すでにRSヤマモトではY32やY33セドリック/グロリアのデモカーで最高速アタックをしてました。僕もその影響を受けて、“ATで速けりゃ良いじゃん”と思い、5速MTでなく4速ATモデルを買ったんですよ」と石渡さん。
話を聞くと、今に至るタービンを含めたエンジンの仕様と駆動系チューンの変遷が凄い。始めはシュベーレンでATを強化し、排気量2.5LのままGT2835→GT30プロとタービンを変更。実測300km/hを目標に掲げてからは排気量アップが必須と考え、2.8L化に合わせてタービンもRX6を組み合わせることになった。その後、タービンをTO4Rに交換するものの、不運にもミッションブローに見舞われてしまう。そこでATに見切りをつけ、ER34純正5速MTに換装された。

石渡さんが言う。「ところが、その5速MTも3速フル加速でブローしてしまって。次は耐久性に不安のないシーケンシャルMTを考えていたんですけど、山本さんから、“ストリート仕様のチューニングカーならHパターンだろ!!”と言われて。結局、BNR34純正ゲトラグ6速MTを載せることにしました」。
ミッションはオーバーホールした上で搭載され、クラッチはエクセディメタルトリプルプレートで強化。聞けば、それも在庫されていた最後の一つだったとか。併せてファイナル比もBNR34純正3.545へとハイギヤード化が図られた。


こうして駆動系の問題は解決。が、今度はタービントラブルが頻発した。都合3基のTO4Rが不調をきたしたため、当時HKSの最新作だったTO4Zが組まれることになった。
これでほぼ今の仕様となったが、2011年3月、主治医の山本代表が亡くなってしまう。そこで熱が冷めてしまった石渡さんは、ER34と距離を置くことに。気持ちの整理に時間を費やし、再び乗る気力が湧いてきた頃、某ショップにECUのリセッティングをお願いした。

しかし、F-CON Vプロを3.3から3.4にバージョンアップしたにも関わらず、戻ってきたER34はどうにも調子が良くない。低速域でギクシャクした動きが出るし、水温も上昇気味。「これはセッティングに問題があるのでは?」と考えた石渡さんは、友人に紹介してもらった“アドミクス”へと足を運んだ。早速パソコンを繋いで各マップを確認し、石渡さんの目の前で数値を打ち替えていくアドミクス代表の本嶋さん。
「時間的には40分くらいだったと思います。本嶋さんがOKと言うので試乗に出てみると、もうアイドリング領域からトルク感が違うわけですよ。よっぽど丁寧にクラッチを繋いでもエンストしそうだったそれまでの雰囲気が完全に解消。全域でレスポンスが良くなってますし、高回転域のパワー感も、“こんなに伸びるの!?”と驚きました。それでいてピーキーな特性はどこにも見られず、普通に街乗りもできる。セッティング一つでこんなに滑らかで上質なフィーリングになるとは想像してませんでした」と、石渡さんが嬉しそうな表情で話してくれた。

ある程度、重さのある方が高速域で安定するという理由から、ステアリングホイールは純正を装着。メインメーターは300km/h、1万rpmフルスケールのニスモ製に交換される。ダッシュボード中央の3連メーターパネルにはデフィー水温計、燃圧計、油温計を装着。ステアリングコラム上には山本さんから譲り受けたGReddyブースト計がセットされる。

運転席、助手席共にシートは純正。必要以上のサポート性は求めないという割り切りから、バケットシートへの交換は見送られた。また、運転席の足下にチラッと写るフロアマットもスカイラインのロゴ入り純正品だ。

足回りはスクート製車高調にスウィフト製スプリング(F8.0kg/mm R4.0kg/mm)の組み合わせ。石渡さんいわく、「乗り心地が良く、280km/hでも安定してます」。リンク類はニスモ製、アッパーアームはクスコ製調整式でリヤメンバーのリジッド化が図られる。ブレーキはフロントブレンボF50キャリパー+355φローター、リヤV36純正キャリパー+ローターで強化。

ホイールはER34と同じ1998年に発売されたAVSモデル6の18インチ。当時を思い出させるセレクトがナイスだ。タイヤはフロント225/40、リヤ265/35サイズのプロクセスR1Rを履く。

マフラーはRSヤマモトのワンオフ品。排気効率を最優先した設計で、メインパイプ径90φのフルストレート構造を採用する。メインとサブ2つのサイレンサーを持つが、排気音はかなり大きめだ。

現状パワーは604ps。300km/hを約束するスペックを誇りながら、外装でソレっぽさを感じさせるのはハイマウントされたBNR34純正リヤウイングくらい。内装も、コーナーを攻めるわけじゃないからバケットシートは不要ということで、前席は2脚とも純正だ。見た目を飾り立てることなく、あくまでも中身で勝負。凛としたその佇まいは、まさにリアルチューンドと呼ぶに相応しい。
●取材協力:アドミクス 埼玉県比企郡川島町上大屋敷403 TEL:049-299-1771
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