「RS」のみに設定された2.4L デュアルブーストハイブリッドシステム


見下ろす運転感覚で視界良好、軽快で意のままの走りも好感
新世代クラウンシリーズのトップバッターとして登場したのがクロスオーバーだ。SUVほどではないが、セダンより背の高いプロポーションのため、当然、重心は高くなる。でも、開発陣はセダンと同様にフラット感があり、クルマとの一体感が味わえる旋回性能を与えたいと考えた。そこで、特別なデバイスをクラウンシリーズに与えることにした。
四輪駆動と後輪操舵機構のDRSである。クラウンシリーズはセダンを除きパワートレイン横置きレイアウトのGA-Kプラットフォームで開発することは決まっていた。カムリやレクサスES、RAV4やハリアーなどと共用になる。だが、クラウンらしい走りを実現するためにはリアサスペンションを専用に開発する必要があると判断し、実行した。GA-Kのリアサスペンションは本来トレーリングウィッシュボーン式だが、クラウンで採用したリアサスペンションはマルチリンク式である。リンク類のレイアウトが異なるだけでなく、リンク類を取り付けるサブフレームも新たに設計。剛性を高めるため前後のマウント間を大きくとった。
DRSは低速域で前輪と逆相に切り小回り性を確保。中速域も逆相に切り、軽快なハンドリングに貢献する。高速域は同相に切ることでロール速度を抑え、フラットで安定した走りを実現する。後輪操舵はとかく小回り性が重視されるが(実際、クロスオーバーの最小回転半径は5.4mで車両サイズを考えると小回りが利く)、クラウンシリーズの場合は走りを重視しての採用だ。同じGA-Kファミリーに属するアルファード/ヴェルファイアはホイールベースが3000㎜あるのにDRSは非適用。ホイールベース2850㎜のクラウンシリーズにDRSを適用している点に、運動性能を重視した考え方が感じ取れる。実際、クロスオーバーの「走り」は背の高さに起因するネガを感じさせない。ドライバーの意のままに、軽い身のこなしでコーナーを駆け抜けていく。「走り」とあえて強調したのは、視点にクロスオーバーならではの高さを感じるからだ。しかしこれはネガ要素ではなく、むしろプラス要素。セダンに比べて高い位置から見下ろす感覚となり視界が良く、気持ちのゆとりにつながるからだ。
パワートレインは2種類。シリーズに共通する(セダンは除く)2.5Lハイブリッド車と、クロスオーバーにのみ設定がある2.4Lターボハイブリッド車だ。2.5Lハイブリッド車は、「このサイズと重量でこの燃費?」との驚きを禁じ得ないほど、良好な数値を叩き出す。前述したように、走りは軽快で意のまま。「ザ・クラウン」とでも呼ぶべき、クラウンシリーズの中心的な存在だ。デビュー当初はエンジンがかかったときに音が耳障りに感じたが、「スパイラルアップ活動」によって商品改良時に改善され、エンジン始動後の静粛性が格段に向上。非の打ち所がないモデルへと進化している。
2.4Lターボハイブリッド車は、フロントに搭載する過給エンジンと、フロントとリアに搭載するモーターの組み合わせによる、パワフルかつリニアな加速が持ち味。レスポンス良くリニアで、力強い走りが味わえる個性的なバリエーションだ。

運転好きなら間違いなく虜に、「RS」の力強い走りは別格
これがクラウンなの?
ひさびさにひとつのボディではなく複数のボディタイプで“クラウン群”となった16代目クラウン。そのトップバッターとなったクロスオーバーを目にして、そう感じたのは筆者だけではないはず。デビュー時は「大胆に変わった」と思っていた15代目なんて、今にして思えばクロスオーバーSUVスタイルのセダンに比べるとまだまだ保守的だった。これがクラウンだなんて、10年前の人に見せたって誰も信じてくれないだろう。
しかも変化は見た目だけじゃない。エンジン搭載位置は横置きとなり、駆動方式は全車4WDとはいえFFベース。「こんなのクラウンじゃない!」なんて言うのは簡単だ。
だけど、いざ乗ってみれば、まったくもってそうは思えなくなった。しっかりとクラウンを実感できるのだから。
なによりクラウンらしいのは乗り心地で、段差や凹凸を超えた際に乗員へ伝わる衝撃の緩和や車体のフラット感はさすが。快適性が高い。
FFベースになったことで気になるハンドリングも、滑りやすい路面だけでなく舗装路でも走行状況に応じて後輪が積極的に駆動する4WDのおかげで後輪駆動に近いハンドリングを実現できているのだから驚いた。峠道の深く曲がりこんでいくコーナーで、アクセルを踏みながら曲がっていく感覚はあたかも後輪駆動のようだ。その実力に感動を覚える。
注目したいのは「クロスオーバーRS」である。4タイプで構成するクラウンシリーズのうちセダンを除く3つのモデルにRSがあるけれど、「クロスオーバーRS」だけはほかの「RS」とは別格。なぜなら心臓が違うからだ。いずれもハイブリッドだが、ほかが2.5Lの自然吸気エンジンを搭載するのに対し、クロスオーバーだけはひときわパワフルな2.4Lターボエンジンを積む特別なモデルと言っていい。
そのうえトランスミッションも電気式無段変速機ではなくダイレクト感が強いトルコンAT。ひときわ走りに振ったパワートレインなのだ。
その走りを端的にいえば、ハイブリッド感がまるでなし。モーターの感覚が希薄だからである。ひとまわり大きなエンジンを積んでいるような感覚といえば、わかりやすい。実はハイブリッドシステム自体も他の仕様とは異なるもので、クロスオーバーの標準車をはじめスポーツとその「RS」やエステートとその「RS」とも違う。「クロスオーバーRS」以外のハイブリッドが燃費型の2モーター式(&それをベースにしたプラグインハイブリッド)なのに対し「クロスオーバーRS」は燃費をひとまず忘れたパフォーマンス型のシステムなのだ。確かに燃費はあまりよくない。でもそれと引き換えにパワートレインのパワー感やダイレクト感はエンジン横置き系クラウンのなかでは最高。心ゆくまで運転を楽しめるクラウンになっている。
もちろんハンドリングのピュアさでいえばクラウンスポーツにはかなわないのは事実。でも、パワートレインのアグレッシブさでいえば「スポーツRS」すら上回るのだから、運転好きとしてはなんとも悩ましい。

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TOYOTA・クラウン購入ガイドより




