ホンダはエンジン開発を止めていない!?

2030年代後半に訪れるであろうBEV普及期を見据えた、中長期的な事業基盤の構築を進めているホンダ。2050年のカーボンニュートラル達成に向けて「2040年にBEV、FCEVの販売比率100%」とする目標を掲げているが、これは言い換えればエンジン搭載車両はなくなるということ。そのためもうエンジン開発を止めてしまった、といった印象を外部に与えていたのも事実だ。取材会の冒頭で本田技研工業 執行役 四輪事業本部長である林 克人氏はこの点を反省し、BEVの仕込みとe:HEV進化を同時に推進しているホンダの姿勢を正しく伝えることが重要だと語った。

内燃エンジンとモーター/バッテリーをセットで使うハイブリッド、e:HEVはBEV普及期までの架け橋として重要であり、今後も積極的に開発を進めるが、そこで求められるのが他社とは違う個性や独自性によって、高いブランドポジションを創造することであると定義。同社のエンジン搭載車両であるかつてのプレリュードやオデッセイ、CR-Vやフィット、N−BOXなどのように、ハイブリッドモデルで時代に名を残すエポックメイキングな技術・商品が必要という強い意志で、新しいe:HEVを生み出していくという。コスト低減にも注力し、さらなる販売台数拡大と収益性の向上を目指す構えだ。

全域ストイキ燃焼の1.5L/2.0Lハイブリッド用新エンジン

ここからは展示されていたメカニカルコンポーネントを見ていこう。フィットやヴェゼルなどが該当する次世代 小型e:HEVシステムは新開発の1.5Lエンジンが注目される。既存エンジンとボア・ストロークを共通とする直列4気筒エンジンだが、ポート噴射から直噴に改めグローバルでの環境規制に対応した環境性能を確保。そして全領域で理論空燃比のストイキ燃焼を実現し高効率領域、いわゆる燃費目玉の面積をさらに拡大した。

これに次世代のエネマネ制御やフリクション低減を進めた小型電動ドライブユニット、高出力バッテリーパックを組み合わせ、幅広いコンパクト機種群に搭載可能なシステムを構築。また四輪駆動は従来のプロペラシャフトによる後輪への出力伝達ではなく、リヤモーターによる電動AWDに変更。リヤモーターはBEVや中型モデルに使われるものと骨格を共用したほか、インバーターもフロントドライブユニットのフロントモーター用パワーコントロールユニットに内蔵させることで車両搭載性を高めている。


シビック、アコード、CR-Vなどが該当する次世代 中型e:HEVシステムは2.0L直噴エンジンをさらに進化させるほか、シャシーも世代交代するタイミングを活かしパワートレーン冷却システムの統合モジュール化を実施。加えてバッテリーパックを車両骨格部品としても使う機能統合によるパーツ小型化などにより、コストを大幅に低減。室内空間の自由度をより高めるフロントドライブユニットの採用などで商品力をより高めている。

次世代技術「Honda S+ Shift(ホンダ エスプラスシフト)」
また次世代技術である「Honda S+ Shift(ホンダ エスプラスシフト)」も今回、世界初公開された。エンジンとモーターの制御でよりスポーティかつドライバーの運転操作にリニアに反応する、意のままの走りを実現する。2025年発売予定のプレリュードに搭載したのち、次世代e:HEV搭載の全機種に順次搭載していく予定だ。


ホンダは2020年に発表した現行フィットe:HEVですでに、車速とエンジンサウンドを連動させた「リニアシフトコントロール」を採用した実績があるが、このロジックをより進化させボタン操作でHonda S+ Shiftモードを選択すると、加減速時により緻密にエンジン回転数をコントロール。加えてエンジン回転数と同期したサウンドを車内スピーカーから出力し、スポーツドライビングのイメージを提供。全車速域で運転操作や走行環境に応じて、まるでマニュアルシフト変速を行なっているかのような加速Gとエンジン回転数の変化が楽しめる。プレリュートのプロトタイプ・テスト車両に同乗したが、ドライバーの操作を見ていないとMT車に乗っているとしか思えないほどだ。


燃費目玉の面積が少ないエンジンで回転数を変動させると燃費悪化が激しいが、全域ストイキ燃焼によって燃費目玉の面積を拡大した新世代エンジンであればスポーツドライビングと低燃費の両立が可能とホンダは説明。またコーナーからの脱出に備えてシフトホールドが作動する状態では運転状況に合わせた最適なエンジン回転数を維持し、加速時にはエンジン発電を駆動力に活用。BEVよりはるかに少ない電池容量のハイブリッドでも、リニアで強力なモーター駆動を実現したという。
Honda S+ Shiftのネーミングには、S600やS2000、TYPE Sといったホンダの歴史に残るモデルに冠された「S」に加え、SynchronizeやSpecial,Sensationalといった価値を+(プラス)するという思いを込めた。ホンダはハイブリッドでも走りの魅力をより強くアピールしていく姿勢を明らかにしたわけだ。

今回の「Honda e:HEV 事業・技術取材会」ではこうしたパワートレーンの新技術に加えて、次世代 中型プラットフォームや、ハイブリッド・トランスアクスルのより詳細なテクノロジーも展示された。こちらは別記事にて改めて紹介する。
