マツダのパーパスを具体的に表現したブランド拠点

広島・宮島で創業した伊都岐珈琲(いつきコーヒー)監修のカフェを併設している。

マツダが、ブランド体感施設「MAZDA TRANS AOYAMA(マツダ トランス アオヤマ)」を、2025年2月6日にオープンした。

住所でいうと港区南青山、最寄り駅は表参道。東京でも屈指のトップブランドが集まる場所に「MAZDA TRANS AOYAMA」を開設した狙いはどこにあるのだろうか。同社の公式的なコメントを転載すれば次の通りだ。

マツダは、「前向きに今日を生きる人の輪を広げる」というパーパスを掲げ、その実現に向け、マツダに接する全ての人にいきいきする体験をお届けすることを目指しています。この場所では、当社のお客さまやファンの皆さまをはじめ、これまでマツダと接点がなかった方々にも、マツダブランドの体感を通じて、新しい発見をしていただき、前向きな気持ちを感じていただける空間・体験を提供するとともに、さまざまな情報を発信してまいります

南青山の、それも国道246沿いの路面店という立地条件からすると、高級モデルをセレブに販売するためのアンテナショップを想像してしまうが、マツダの狙いは直接的に新車を販売することではないようだ。ブランド認知度を高めるための施設という位置づけである。

最寄りは表参道駅 B1出口だが、渋谷駅からも徒歩15分ぐらいの距離だ。

オープン初日にはマツダの次世代スポーツカー像を示すコンセプトカー「ICONIC SP(アイコニックSP)」が飾られていたため、熱心なマツダファンにとっての新たな聖地といった雰囲気もあったが、むしろマツダを知らないユーザーとの接点になることを強く意識した物理的なタッチポイントといった意味合いが強いだろう。

エスプレッソの味調整でどうしても余ってしまうコーヒーをアップサイクルしたソフトクリームは軽やかな甘みが美味。

熱心なファンが家族や仲間を巻き込むのに活用したい

階段を上がった壁はアート作品の展示スペースとなっている。

「MAZDA TRANS AOYAMA」は2フロアで構成されている。

1階入り口の左手にあるカフェは、広島の観光名所である宮島で生まれ、宮島で育ったスペシャルティコーヒーの専門店「伊都岐珈琲」とコラボしたもの。ここでしか飲めない限定ブレンドのコーヒーほか、みかんジュースやソフトクリーム、レモンケーキなどの甘味、また軽食を味わうこともできる。

1階奥にクルマが飾られていなければ、スペースに余裕のあるカフェがオープンした…といった雰囲気になっている。

カフェで購入した飲料を片手に、階段を上がっていくと、くつろぎのカフェスペースが広がっている。柱の壁やテーブルに展示された歴代マツダ車のミニカーや、おしゃれで希少なエンブレムを眺めていると、ここが自動車メーカーのブランド体感施設であることは確認できるが、それもことさらにアピールするものではない。

とはいえ、階段を上がって右方向にUターンした瞬間、目に飛び込んでくる光景は自動車メーカーらしいものだ。

明るい光が並行に何本も並んでいる天井は、自動車工場の完成車検査、塗装チェック行程を思わせるもので、その先にデジタル時代に合わせたマツダの2Dエンブレムが置かれている様は、ものづくり企業の誇りと自負を感じさせる。

塗装検査を思わせるライティングの先にデジタル時代に合わせたエンブレムが飾られているのは象徴的。

とはいえ、言われてみれば…というレベルであり、自動車に興味がない層が引いてしまうようなことはないだろう。

熱心なマツダファンの多くは、「SKYACTIVが~」や「魂動デザインは~」などと語りたくなってしまうだろうし、この時代に直列6気筒エンジンのFRプラットフォームを新設計するマツダのエンジニアリングに魅力を感じてしまうだろう。しかし、それをクルマへの興味が薄い家族やパートナーに熱弁して引かれてしまった経験はないだろうか。

そうしたマツダファンが、マツダの魅力を伝えたい家族やパートナーを連れてくる場所として、「MAZDA TRANS AOYAMA」は機能するかもしれない。メカメカしくない空間で、マツダというブランドに親しみを覚えてもらえば、マツダの魅力を伝えるきっかけになるだろうからだ。

たとえば、2階の柱に展示されている昔のエンブレムには、マツダ初のロータリーエンジン搭載モデル「コスモスポーツ」の、それもプロトタイプにつけられていた「L402A」エンブレムの実物が展示されている。こんな薀蓄を交えつつ、自身のマツダ愛を家族やパートナーに伝えていくのも、マツダ車を購入・所有することへの理解と応援が得られそうだ。

二階の柱には歴代マツダ車のミニカーやエンブレムが展示される。超レアなエンブレムを見ることもできる。

最寄り駅は地下鉄・表参道、B1出口の目の前にある

よく言われるように、自動車業界は100年に一度の大変革期にある。エンジンの魅力を伝えても電動化時代にはナンセンスかもしれないし、自動運転が広がっていけばハンドリング自慢は意味をなくしてしまう。

そうした時代に、ブランドのロイヤリティを高めていくための試行錯誤のひとつが、「MAZDA TRANS AOYAMA」なのかもしれない。じつはロードスターの試乗体験などもできるのだが、いかにもクルマのショールームといった雰囲気を薄くした店舗デザインからも、そうした狙いは感じられる。

アクセスは地下鉄・表参道駅のB1出口を出た目の前という超・好立地。南青山に行く機会あれば、おいしいコーヒーやソフトクリームを味わうために立ち寄ってみてはいかがだろうか。

MAZDA TRANS AOYAMA
所在地: 東京都港区南青山5丁目6-19
営業時間: 午前8時30分~午後6時30分 (午前8時30分~午前10時00分 1Fカフェのみ営業)
定休日: 月曜日