1991年に誕生したセレナ、3代目がミニバンブームで大ヒット

日産のファミリーミニバンの原点である初代セレナ「バネット・セレナ」は、1991年に誕生した。従来の商用車ベースの「バネット」を刷新し、長いホイールベースによって広い室内空間と自由度の高いシートレイアウトが特徴だった。


2000年を迎える頃の日本市場は、トヨタ「エスティマ」とホンダ「オデッセイ」がけん引したミニバンが、ファミリーカーの定番として定着していた。特に、扱いやすい5ナンバーのミニバンであるホンダ「ステップワゴン」、トヨタ「ノア&ヴォクシー」とともに、2代目セレナもミニバン初の両側スライドドアを採用して人気を獲得した。

2005年にモデルチェンジで登場した3代目セレナは、大きなサイドウインドウと広い開口のスライドドアで利便性をアピールし、2007年にはステップワゴンやヴォクシー/ノアを抑えて、5ナンバーミニバントップの座に君臨する大ヒットとなった。

さらに2010年の4代目も、自動ブレーキやLDW(車線逸脱警報)、ハイブリッドモデルを追加して人気を継続した。
注目のプロパイロットを搭載した5代目セレナ

人気のミニバンとして成長したセレナは、2016年にモデルチェンジして5代目に移行。ブーメラン型の前後ランプや日産の象徴となっているVモーショングリル、サイドのシュプールラインなどダイナミックなフォルムが採用された。

パワートレインは、4代目と同じ2.0L直4 DOHCエンジンとCVTの組み合わせ、さらにハイブリッドも引き続いて設定され、FFと4WDとも先代を上回る燃費性能が達成された。5代目セレナのアピールポイントは、以下の3つに集約される。

・クラス最大級の室内長と室内幅によって、ゆとりある室内空間と多彩なシートアレンジ。
・「インテリジェントパーキングアシスト」、「スマートリアビューモニター」、「アラウンドビューモニター」の3つの機能によって運転のしやすさを向上。
・同一車線を維持しながら先行車に追従する「プロパイロット」によって、渋滞時や高速巡行時にドライバーの運転負荷を軽減して安全性を向上。最大の注目は、運転支援技術プロパイロットを搭載。

なかでも最も注目されたのは、やはり運転支援技術プロパイロットである。
プロパイロットの機能と仕組み

プロパイロットは、信号のない高速道路や自動車専用道路の走行に限って、アクセルとブレーキ、ステアリングを自動的に制御して、単一車線を維持しながら先行車に追従するシステムであり、ACCとLKASの2つの機能を融合したものを基本とする自動運転レベル2の技術である。

・ACC(追従機能付クルーズコントロール):車速30km/h~100km/hの範囲で、先行車との車間距離を維持する追従走行機能。
・LKAS(車線維持支援システム):走行レーンの白線を認識して車線中央を走行するように、ステアリングの操作を支援する機能。

同一車線の走行なら、ステアリングを軽く握っていれば(ハンズオン)、ステアリング操作を自動で操作し、またドライバーが手動に切り替えたいと意識して少しでもハンドルを操作すると、すぐに制御は解除される。
当時は、ハンズオフ(手放し運転)に関する法規が禁止を明記していたわけではないが、当然ながらハンズオフ運転は危険だと認識されていた。したがって、セレナでは完全にハンズオフ運転をすると5秒後には警報が鳴り、10秒後には自動運転が解除されるように設定されていた。
プロパイロット作動中でも、あくまで運転の責任はドライバーにあることを意識させるための対応である。
プロパイロットの進化

その後、2019年の「スカイランイン」には、進化したプロパイロット2.0が搭載された。最大の特徴は、高速道路の走行車線を走行中に、一定の条件を満たせばハンズオフでの自動運転システムが使えること。具体的な条件は、“3D高精度地図データがカバーしている高速道路区間のみ”、”制限速度内であること“である。
現在プロパイロットと同様の機能を持つレベル2運転支援システムは、スバル「レヴォーグ」の“アイサイトX”やトヨタ「レクサスIS」の“アドバンスドドライブ”などで採用している。

そして、2021年にはホンダから世界初となる自動運転レベル3の“ホンダセンシングエリート”を搭載した「レジェンド」が発売され、大きな注目を集めた。レベル3は、条件付き自動運転で、特定の走行環境条件を満たす限定された領域において、自動運転システムが運転操作の全部を代替する状態を指す。プロパイロット2との大きな違いは、一定条件が満たされればアイズオフも可能なことである。アイズオフとは、ドライバーが車両周囲の監視をしなくてもよい状態(アイズオフ/ただしスマホ操作は不可)を指す。ただし、ホンダは万一の安全を考慮してアイズオフをすることを推奨していない。
5代目セレナが登場した2016年は、どんな年
2016年には5代目セレナ以外にも、スズキ「イグニス」、ダイハツ「ムーヴキャンパス」と「トール」、トヨタが「C-HR」を発売。ホンダからFCEV「クラリティフューエルセル」がリース販売を始め、日産の2代目「ノート」が“e-POWER”ハイブリッドを搭載したモデルを発売した。

イグニスはコンパクトクロスオーバーSUV。ムーヴキャンパスは若い女性をメインターゲットにした軽ハイトワゴン。トールはコンパクトトールワゴンで、トヨタには「ルーミー/タンク」、スバルには「ジャスティ」としてOEM供給された。C-HRはコンパクトなSUV。クラリティフューエルセルは2007年にデビューした「FCXクラリティ」の進化モデル。ノートe-POWERはトヨタやホンダと異なるシリーズハイブリッド方式で注目された。
この年、ダイハツはトヨタの完全子会社になり、スズキはトヨタと先進技術で業務提携を検討することを発表した。
その他、4月に熊本地震が発生し大きな被害をもたらした。東京都知事選で小池百合子氏が圧勝、米国ではトランプ氏が大統領選に勝利した。大隅義典氏がノーベル生理学・医学賞を受賞。ポケモンGOが大ヒットし、スマホ片手にポケモンを探す人々が街角に出現、そしてSMAPが解散した。
また、ガソリン135円/L、缶ビール190円、コーヒー一杯438円、ラーメン568、カレー734円、アンパン174円の時代だった。

・・・・・・・・・・
限定された条件下ではあるが、アクセルとブレーキ、ステアリングを自動的に制御して運転するパイロット運転を搭載した5代目「セレナ」。次の自動運転レベル3に進むための第一歩を踏み出した、日本の歴史に残るクルマであることに、間違いない。



