スズキのフラッグシップといえる立派なスタイリング

スズキ初のEV専用プラットフォーム「ハーテクトe」に基づく、クロスオーバースタイルの電気自動車「eビターラ」。2024年11月にイタリアで世界初公開されたときから期待は高まっていたが、2025年7月には日本向けのティザーサイトを開設、いよいよ日本での販売が近づいてきた。
正式発表に先立ち、日本仕様のプロトタイプをクローズドコースで試乗することができたので、その印象や感想をお伝えしよう。
スタイリングの印象は、いかにもEVらしいフォルムといったもの。床下に積むバッテリーのスペースを確保すべくロングホイールベースとなっている影響もあって、前後オーバーハングが非常に短い印象を受ける。
そこに大径タイヤを履かせることで塊感と力強さを表現、スズキのSUVらしいヘリテージも感じさせる佇まいを実現している。

ご存知の方も多いだろうが「ビターラ」というのは、かつて日本で「エスクード」として売られていたSUVモデルの海外名だ。角張った中にスタイリッシュさを併せ持つフロントマスクの表情や、無骨さとスポーティを感じさせるサイドビューに、初代エスクードノマドの面影を感じてしまうのは筆者だけだろうか。
いずれにしても、全長約4.3m、全幅1.8mのボディサイズは、スズキのラインナップにおいてフラッグシップだ。そして、eビターラのスタイリングは、その立ち位置にふさわしい、新しいスズキ・ブランドのスタイルといえそうだ。


”初物”とは思えないほど走りの作り込みレベルは高い

eビターラには3つのバリエーションが用意される予定だ。
簡単に整理すると、バッテリー総電力が49kWhと61kWhの2種類となり、49kWhはFWDのみ、61kWhにはFWDと4WDが設定される。今回は、61kWhのFWDと4WDのプロトタイプを、それぞれ30分ほど走らせることができた。
クローズドコースで30分の試乗というと、読者の方々から「そんな短時間では何もわからないんじゃないか」という声が上がりそうだが、筆者の感想は「最初にアクセルペダルをひと踏みしただけで完成度の高さが実感できた」というもの。これは大げさな表現ではなく、リアルな印象だ。
なぜ、そう感じたのか。過去の経験からEVの味付けにおける難しさはアクセルレスポンスというのが筆者の持論だからだ。
モーターの反応性を活かすとエンジン車では不可能なハイレスポンスにしたくなるが、それでは日常的には乗りづらい。かといってエンジン車と同じようなレスポンスに鈍らせると今度はEVらしさが薄れてしまう。とくに発進時の味付けは自由度が高いぶんだけ落としどころが難しいという印象もある。
しかも、eビターラはスズキにとって本格的な量産EVとしては初物といえる。アクセルレスポンスの完成度というEVの熟練度を示すファクターが、どういった仕上がりを示すかに大いに注目していた。
そしてeビターラの発進マナーは非常に高いレベルで熟練されていた。EVらしいレスポンスは感じられつつ、ハイレスポンスすぎて乗りづらいという印象もない。それでいてEVに期待するキビキビ感は十分に表現されている。スズキの考えるEVの理想的なアクセルレスポンスはこれだ、とばかりに初物とは思えないほど作り込まれていた。
最初に乗ったのはFWDだったが、ハンドリングも駆動系にマッチしているのが好印象だった。
具体的には、EVらしいトルクを受け止めるメカニカルグリップとキビキビ感を引き出す軽快なハンドリングが、うまくバランスされている。EVであることをことさらに意識することなく、このクラスのSUVとして楽しく運転できる一台に仕上がっている。


4WDの前後駆動力は54:46の比率が基準

つづいて、4WDに試乗すると、そうした印象はさらに強まった。後輪にeアクスルを追加した関係で、重量が100kg増しとなっているためキビキビ感については若干スポイルされる印象もあったが、スラロームでは落ち着いた振る舞いをみせてくれる。大きなコーナーでの安定感も高く、よりフラッグシップらしい走りを実感できた。
ちなみに、4WDの前後駆動力配分は、オートモードで一定速を走っているときは54:46、加速時には50:50、減速時(回生時)や滑りやすい路面では70:30となるよう制御されている。とくにオートモードでの前後比率を見れば、かなりこだわって走り味を作り込んできたことがわかるだろう。ここでも初物と思えない熟成度の高さを感じさせる。
eビターラには、アクセルペダルだけで加減速をコントロールできる「イージードライブペダル」機能が備わるが、前後モーターで回生ブレーキを取れる4WDは、ワンペダルドライブをより深く味わえる印象も受けた。
イージードライブペダルの回生量については、弱/中/強と3段階に切り替える機能も備わっている。ワンペダルに慣れているドライバーであればいきなり強を選んでも自然と運転できるだろうが、EV初心者は弱モードから始めたほうが慣れやすいかもしれない。こうした配慮がされているあたりも、eビターラの作り込みを感じさせるのではないだろうか。
細かいところでは、普通充電の電圧をMAX(32A)/16A/8Aと3段階で切り替えられる機能を備えている点も注目したい。
いわゆる6kW普通充電を利用できる環境であればMAXを選んでおけばいいし、3kWの普通充電ケーブルを使うのであれば16Aを選んでおけば問題ないが、戸建てに普通充電設備を設置したケースでは契約アンペアの関係から普通充電を押さえたいこともある。そうしたケースで8Aという選択肢があるのは非常に助かるはずだ。こうした機能からも、スズキの開発陣が、リアルなEVライフへの理解度が高いことを示している。
現時点では価格は未発表であるし、航続性能についても目標値が示されている(最大500km以上)のみだが、走り味などの作り込み具合から想像するに、初めてのEVでも違和感のない、実用的なモデルとして日本のユーザーに新たな選択肢を与えることになりそうだ。

スズキeビターラ(プロトタイプ)主要スペック
e VITARA 2WD(プロトタイプ・開発目標値)【】内は4WD
全長×全幅×全高:4275mm×1800mm×1640mm
ホイールベース:2700mm
最低地上高:185mm
車重:1790kg【1890kg】
駆動方式:FWD【4WD】
乗車定員:5名
バッテリー種類:リン酸鉄リチウムイオン
バッテリー総電力量:61kWh
システム最高出力:128kW【135kW】
システム最大トルク:193Nm【307Nm】
フロントモーター最高出力:128kW
【リアモーター最高出力:48kW】
一充電走行距離(WLTCモード):500km以上【450km以上】
最高速度:150km/h
サスペンション形式:フロント・ストラット/リヤ・マルチリンク
最小回転半径:5.2m
タイヤサイズ:225/55R18
