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今日は何の日?■カローラスポーツをベースにした水素エンジン車がテスト走行
2021年(令和3)年4月28日、ROOKIE Racingは富士スピードウェイで実施されたスーパー耐久シリーズの公式テストにおいて、水素エンジンを搭載したレーシングカーを出走させた。マシンの車体は、「カローラスポーツ」をベースにし、水素エンジンは「GRヤリス」搭載1.6L直3 DOHCをベースにしている。

カーボンニュートラル実現のためには、水素エンジンも必要
トヨタはFCEV(燃料電池車)とともに、水素を燃料とする水素エンジンの開発を積極的に進めているが、それには次の3つの理由がある。

・水素を燃焼させる水素エンジンは、基本的にCO₂を発生しないカーボンニュートラルエンジン
→従来のエンジンの技術が活用できるため、将来的にも自動車に関わる雇用維持に貢献。
・燃料電池車FCEVよりも構造が簡単なので安価に製造可能
→FCEVと水素インフラを共有化できるので、水素自体のコストを抑制できる可能性もある。
・カーボンニュートラルの実現を目指すには、EVだけでなくエンジンの活用も必須
→LAC(ライフサイクルアセスメント)の視点からは、EVだけではカーボンニュートラルの実現は不十分であり、水素や合成燃料、バイオ燃料などを利用したエンジンの投入が必要。

水素エンジンのポテンシャルは高いが、まだ課題も多い

水素エンジンの歴史は古く、日本では武蔵工大(現、東京都市大)の古浜教授らが1970年代に本格的な研究を進めて試作車を製作。2000年頃には、欧州でBMW、日本ではマツダが水素エンジンの開発に注力し、水素エンジン車の市販化(BMW)やリース販売(マツダ)も行なった。しかし、BMWは2009年に開発を中止、マツダも同様に水素ロータリーエンジンの開発を一旦凍結した。

水素エンジンが量産化に至らなかった理由として、次の3つの課題が障壁となっている。
・燃焼速度がガソリンの約7.6倍と圧倒的に速く、プレイグ(熱面着火)や異常燃焼の発生リスクが大きく、燃焼の制御が難しい。
・単位容積あたりの発熱量がガソリンの約1/3.7なので、満タン時の航続距離がガソリン車より圧倒的に不利。また、水素の貯蔵・搭載方法が難しい。
・水素インフラの整備が不十分である。
水素インフラの課題は大きな進展は見られないが、技術的な課題は徐々に改良されている。
車体はカローラ、エンジンはGRヤリスの水素レーシングカー

2021年4月のこの日、富士スピードウェイでテスト出走した水素レーシンカー「ORC ROOKIE Corolla H2 concept」の車体はカローラスポーツ、エンジンはGRヤリス用をベースにしている。GRヤリスには、後部座席部に水素高圧ボンベ4本が搭載できなかったことから、こういう組み合わせになったのだ。

高圧水素ボンベを含めて水素関連部品については、基本的にはFCEV「ミライ」から流用している。エンジンには、デンソー製の水素噴射用インジェクタを取り付けた直噴システムを採用。エンジンの改良点についての詳細は不明だが、プレイグが発生しやすいため出力を下げ、さらに圧縮比も下げて筒内圧センサーでプレイグ発生を回避していることが予想される。さらに、水素エンジンではドライ潤滑になるので、吸排バルブやバルブシートなど各部に特別な対策が施されているはずである。

スーパー耐久24時間レースで完走

「ORC ROOKIE Corolla H2 concept」は無事公式テストを終え、同年5月22日から23日にかけて開催された「スーパー耐久シリーズ2021」の第3戦となる24時間レースに参戦した。

小林可夢偉選手やMORIZO(豊田章男会長)など6人がドライバーを務め、レース結果は周回数が358(1634km)で、総合優勝した車両の半分以下。走行時間は、11時間54分にとどまり、半分以上の時間がピット作業と水素の充填作業に要したという。

水素エンジン車のベストラップは2分4秒。前年参戦したGRヤリスに比べて約10秒遅いが、これはエンジン出力を抑えているのに加えて、車両重量が200kg程度重いことが起因していると思われる。
タイムはさておき、耐久レースに苦闘しながらも完走したことに大きな意味はあったのではないだろうか。

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その後、この水素エンジン車は改良を重ねて進化し続けている。水素エンジン車の実用化には高いハードルがまだ山積しているが、量産エンジンに高圧水素タンクを積んで、水素インジェクタとその補機部品を装備するだけで比較的容易に作れることを考えると、水素エンジンには将来性があると言えるだろう。
毎日が何かの記念日。今日がなにかの記念日になるかもしれない。
