30年ぶりに2Dの劇場アニメーションとして帰ってきた
『LUPIN THE IIIRD THE MOVIE 不死身の血族』

あのルパン三世が、1996年の『DEAD OR ALIVE』以来、約30年ぶりに2Dの劇場アニメーション『LUPIN THE IIIRD THE MOVIE 不死身の血族』として帰ってきた!物語の舞台は地図に載っていない謎の島。お宝を狙って乗り込んだルパン一行を待ち受けていたのは、“不死身の血族”と呼ばれる正体不明の存在だった。前代未聞のスケールとドラマで描かれ、すべての『ルパン三世』に繋がる原点ともいえる究極の物語が幕を開ける。

『LUPIN THE IIIRD THE MOVIE 不死身の血族』
『LUPIN THE IIIRD THE MOVIE 不死身の血族』
2025年製作/93分/PG12/日本
配給:TOHO NEXT
劇場公開日:2025年6月27日

<STAFF>
原作:モンキー・パンチ
監督:小池健
脚本:高橋悠也
音楽:ジェイムス下地
クリエイティブ・アドバイザー:石井克人
主題歌:B'z
アニメーション制作:テレコム・アニメーションフィルム
製作・著作:トムス・エンタテインメント

<CAST>
ルパン三世:栗田貫一
次元大介:大塚明夫 
石川五ェ門:浪川大輔
峰不二子:沢城みゆき 
銭形警部:山寺宏一  
ムオム:片岡愛之助
サリファ:森川葵
ルウオ:鈴木もぐら
フウア:水川かたまり
映画『LUPIN THE IIIRD THE MOVIE 不死身の血族』公式サイト

あなたはまだ本当の「ルパン三世」を知らない 映画『LUPIN THE IIIRD THE MOVIE 不死身の血族』大ヒット上映中

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『LUPIN THE IIIRD THE MOVIE 不死身の血族』公式サイト

原作はモンキー・パンチ。監督は『次元大介の墓標』(2013年)、『血煙の石川五ェ門』(2015年)、『峰不二子の嘘』(2019年)で構成される『LUPIN THE IIIRD』シリーズ全作を手掛けた小池健氏で、そのスタイリッシュな演出は国内外で高い評価を得ている。そして、脚本は『ルパン三世 PART4』の高橋悠也氏。音楽はCM・映画音楽で活躍するジェイムス下地氏が参加した。

声優陣は、栗田貫一氏、大塚明夫氏、浪川大輔氏、沢城みゆき氏、山寺宏一氏らおなじみのキャストが今回もルパンファミリーを好演。ゲスト声優には片岡愛之助氏、森川葵氏、空気階段(山田もぐら氏&水川かたまり氏)が参加した。主題歌はB’zの書き下ろし楽曲「The IIIRD Eye」。“誰も知らないルパン三世”が、ついにスクリーンに姿を現す。

劇場に行く前に配信サービスで公開中の前日譚
『LUPIN THE IIIRD 銭形と2人のルパン』をは必見!

今回の『LUPIN THE IIIRD THE MOVIE 不死身の血族』は、劇場アニメーション単体としても楽しめるのだが、6月20日(金)からPrime VideoやDMM TV、U-NEXT、dアニメストアなどの各配信サービスで公開を開始した前日譚『LUPIN THE IIIRD 銭形と2人のルパン』を事前に見てから劇場に足を運ぶことで、物語をより深く楽しむことができる。

『LUPIN THE IIIRD 銭形と2人のルパン』
『LUPIN THE IIIRD 銭形と2人のルパン』
<STAFF>
原作:モンキー・パンチ
監督:小池健
脚本:高橋悠也
音楽:ジェイムス下地
クリエイティブ・アドバイザー:石井克人
主題歌:B'z
アニメーション制作:テレコム・アニメーションフィルム
製作・著作:トムス・エンタテインメント

<CAST>
ルパン三世:栗田貫一
次元大介:大塚明夫 
石川五ェ門:浪川大輔
峰不二子:沢城みゆき 
銭形警部:山寺宏一  
偽ルパン:堀内賢雄
ブレーリン: 壤晴彦
カラシコフ:北西純子
イワノフ:山野井仁
オーラン: 綱島郷太郎

この作品は銭形警部を主人公に据えた渾身のハードアクションで、監督はもちろん『LUPIN THE IIIRD THE MOVIE 不死身の血族』を手掛けた小池健氏。劇場版の単なる前日譚ということではなく、ひとつのアニメ作品として楽しめる内容となっている。

<STORY>
銭形警部はロビエト連邦の空港で爆破テロに遭遇し、犯人の顔がルパン三世だったことに驚く。すぐに見失うが駅で別の“ルパン”を発見し列車内でルパンを拘束するも、次元大介の助けで脱走を許してしまう。一方、峰不二子はサーカス団に潜入し、空中ブランコの乗り手として最高指導者ブレーリンの寵愛を受けていた。軍縮条約パレードを目前に控え、国家保安委員会(KGB)のカラシコフは、ルパンをテロ実行犯かつアルカ合衆国のスパイと断定し追跡するが、銭形は疑念を抱いていた。そして、首都で国家保安委員会に追い詰められたルパンの前に立ちはだかったのは、彼の無実を信じる銭形だった――。だが、その瞬間、新たな爆破が銭形を襲う……。
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『LUPIN THE IIIRD 銭形と2人のルパン』公式サイト

ルパンシリーズの見どころのひとつとなるカーアクションは健在

『LUPIN THE IIIRD 銭形と2人のルパン』の舞台となるロビエト連邦は、デタントによる米ソの雪解けムード漂う1970年代中頃のソビエト連邦(以下、ソ連)がモチーフとなっているようだ。年代を直接示した描写はないのだが、携帯電話やパソコンなどのデジタル機器が登場せず、登場するクルマや銃器、航空機などのメカニズム、人々のファッションや街の様子から判断してほぼ間違いはないだろう。

ルパン三世シリーズといえばカーアクションも見どころのひとつとなっているが、本作もその伝統に則り、実在主義に基づくリアルなクルマが多数登場する。都市の風景描写などに登場するクルマは3DCGで描かれたはいるものの、肝心のカーアクションはシリーズの伝統に従って、アニメーターの実力が問われる手書きで表現されている。

そして、アニメーションとしての作画や動きは素晴らしいの一言に尽きる。以前、『LUPIN ZERO』の紹介記事で最終話のバイクアクションを絶賛したが、本作はそれに勝るとも劣らない。まさに実力派のアニメーターを数多く抱える老舗アニメスタジオのテレコム・アニメーションフィルムの面目躍如といったところだ。

旧ソ連がモチーフのロビエト連邦が舞台となることから共産趣味車が多数登場!

さて、三度のメシよりもクルマが好きな読者にとって、気になるのは『LUPIN THE IIIRD 銭形と2人のルパン』にどんなクルマが登場し、どのような活躍を見せるのかが気になるところだろう。

言うまでもなく、映像作品においてクルマは重要な小道具となる。そして、登場人物にどの車種を乗せるかは、キャラクターの性格や背景、映画のジャンルやストーリー、そして時代設定など、さまざまな要素を考慮して決定されるべきことなのだ。

ところが、残念なことに日本映画(とくに実写)は、監督や脚本家などの制作スタッフのクルマに関する知識が乏しいケースが少なくない。そうなると、こうしたことがほとんど考慮されず、考えなしに選んだかスポンサーの意向(これは製作上重要だったりするが)など、ミスキャストのクルマが登場する作品が多い。

しかしながら、ルパンシリーズに関していえば、劇中に登場するクルマの選択を間違えたことはないと断言できる。歴代の制作スタッフは小道具としての車の重要性を完全に理解しており、登場人物とクルマの個性や性格を見極めた上で、慎重な車種選択が行われてきたのだ。

もちろん、現在配信中の『LUPIN THE IIIRD 銭形と2人のルパン』もその例外ではない。本作は旧ソ連がモチーフのロビエト連邦ということで西側の車両は登場しない。ルパンと次元、不二子、銭形、そして彼らと対立するヴィランがステアリングを握るのはすべて旧ソ連製のクルマとなるのだが、そのチョイスは絶妙で、それぞれのキャラクターの個性に合わせた車種選択がなされている。

筆者のようなディープなエンスーでも、本作に登場する車種のほとんどを運転したことがないし、なかには写真だけで実車を見たことがないクルマも存在する。そこで、ここからは『LUPIN THE IIIRD 銭形と2人のルパン』に登場したクルマを写真を交えて紹介して行く。さて、みなさんはここで取り上げたクルマをどれだけご存知だろうか?

『LUPIN THE IIIRD 銭形と2人のルパン』に登場するクルマを一気に紹介!

■ルパンと次元が首都ヴォロクアへの移動のため盗んだUAZ-469B
大陸横断鉄道から逃走したルパンと次元が立ち寄った街で盗んだのがUAZ-469Bだ。このクルマはGAZ-69の後継として1971年に誕生した。開発はクロスカントリー4WD車の開発で定評のあるウリヤノフスク自動車工場(UAZ:ワズ)が担当し、主要コンポーネンツは前任のGAZ-69から流用して開発された。劇中に登場したのは最低地上高220mmの民生モデルのUAZ-469Bであるが、このほかに最低地上高300mmとした軍用モデルのUAZ-469も存在する。

UAZ-469B

UAZ-469シリーズの初期型は、UMZ製2.5L直列4気筒OHVエンジンを搭載していたが、のちに排気量を2.7Lへと拡大している。組み合わされるギヤボックスは副変則付きの4速または5速MTとなる。駆動方式はパートタイム4WDのみで2WDの設定はない。民生モデルのボディバリエーションは近年まで幌型7人乗りだけだったが、最近では輸出市場も考慮してレジントップモデルも製造されている。

UAZ-469Bのインテリア。

軍用モデルのバリエーションは、無線車両、救急車、NBC戦対応型と豊富だ。UAZ-469シリーズは、極寒のシベリアでの使用を考慮して設計されており、キャビンの気密性が高く、シンプルで頑強な作りによって、メンテナンスや修理が容易で、東側諸国や発展途上国で高い人気を誇っていた。

劇中ではルパンと次元が使用。インテリアも正確に描写されている。

UAZ-469シリーズは誕生から半世紀以上が経過した現在でも生産が続いており、西側諸国にも「UAZハンター」の名称で輸出されている。しかし、2022年のウクライナ戦争の勃発により、各国が対露経済制裁を発動したことで、現在では日本を含む西側への輸出は中断している。なお、現在国内販売されているUAZハンターはロシア製ではなくカザフスタン製となる。

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https://motor-fan.jp/mf/article/94965
UAZ-469シリーズについてはこちらの記事も参照。

■峰不二子が使用したVAZ-2101ジグリ
空中ブランコの乗り手としてロビエト連邦に潜入した不二子が愛用していたのが、旧ソ連製の小型乗用車VAZ-2101ジグリだ。ヴォルガ自動車工場(AvtoVAZ:アフトヴァズ)の手で1970~1989年にかけて生産されたこのクルマは、フィアット124ベルリーナのライセンス生産車であるが、過酷なロシアの気候と劣悪な道路事情を考慮して、ボディと足まわりを中心に改造が加えられた。

VAZ-2101ジグリ。一般には「コペイカ」(ロシア語でソ連最小の硬貨の意味)の愛称で親しまれた。

また、リヤブレーキはオリジナルのディスクからアルミニウム製ドラムブレーキへと変更されている。他にも厳冬期のシベリアでバッテリーが上がった時のことを考慮してエンジン始動用のクランクハンドルが標準装備されていた。

VAZ-2101ジグリのインテリア。

初期生産型はフィアット製のエンジンを搭載していたが、のちにNAMI(中央自動車エンジン科学研究所)が開発した1.3L直列4気筒OHVエンジンに換装された。なお、組み合わされるギヤボックスは4速MT、もしくは3速ATとなる。ボディバリエーションは4ドアセダンのほか、ステーションワゴンも用意されていた。

東側諸国にも輸出されたほか、カナダや西欧諸国に「ラーダ1300」の名称で輸出されていた。20年近い生産期間の間、数度にわたる小改良やマイナーチェンジが繰り返されたが、基本設計に大きな変更はない。なお、ソ連警察とKGB向けにはロータリーエンジンを搭載した高性能バージョンも存在した。

■偽ルパンが藤子を襲撃する際に使用したGAZ-21ヴォルガ
GAZ-21ヴォルガはゴーリキー自動車工場(GAZ:ガズ)が、GAZ-M20ポベータの後継として1956~1970年にかけて生産した中型車だ。劇中で偽ルパンが使用したのは、その中でも1962年から生産された第3シリーズ(最終生産型)である。

このクルマが登場した時期の西側乗用車は、フレームよりも低い位置にボディを配置するペリメーターフレームによる設計が主流になりつつあったが、GAZ-21は悪路走破性を重視してボディ・オン・フレーム構造が採用された。ボディは入念な防錆処理が施され、頑丈なサスペンション、強力で扱いやすいエンジンと相まって極めて耐久性の高いクルマとなった。

GAZ-21ヴォルガ・シリーズ3

GAZ-21のエンジンは登場時期を考えれば極めて先進的な設計で、半球形ヘッドを備えた2.5L直列4気筒OHVを採用しており、それに3速AT(保守管理の問題からわずか700台で生産が打ち切られた)もしくは3速MTが組み合わされている。また、KGB向けには5.5L V型8気筒エンジンの設定もあった。

ボディバリエーションは4ドアセダンのほか、ステーションワゴンの設定もあり、東側だけでなく西側諸国にも輸出された。ソ連国内では主に警察用やタクシーとして人気を博したほか、各種行政機関でも使用されたが、当時のソ連政府の商用車や小型大衆車を優先する生産方針に加え、価格が高価だったこともあり、オーナードライバーは少なかったようだ。

GAZ-21ヴォルガ・シリーズ3のリヤビュー。

偽ルパンが使用した第3シリーズは、コストダウンによってボンネット・マスコットが廃止され、細い縦格子の新デザインのフロントグリルが与えられたことが外観上の特徴となる。内装も同様に合理化のためヘッドライニングが布製からビニール製となり、標準装備であったラジオはオプションとなった。

GAZ-21ヴォルガには4ドアセダンのほか、ステーションワゴンの設定もあった。

■カラシニコフら国家保安委員会のUAZ-452
GAZ-69のシャシーとメカニズムを流用して製造されるキャブオーバー型のバン/トラック。特徴的な見た目からロシアのユーザーは親しみを込めて「ブハンカ」(ロシア語で食パンの意味)と呼ぶ。

「ブハンカ」(ロシア語で食パンの意味)の愛称を持つ UAZ-452。

1958年に誕生したUAZ-450の改良型であり、1965年の誕生時から現在まで、内部のメカニズムを改良しつつ、現在でも生産が続いている長寿車だ。およそ20年前から日本市場にも輸出されており、8人乗り+500kgの積載容量を持つマイクロバス型のUAZ=3909が、ウクライナ戦争が勃発するまで正規輸入されていた(現在はカザフスタン製の車両が輸入されている)。

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https://motor-fan.jp/mf/article/92666
詳しくは以前に筆者がリポートした記事を参照してほしい。

劇中では国家保安委員会(KGB)のカラシコフらがルパン暗殺のために使用した。劇中にはオリーブドラブに塗装された複数のUAZ-452が登場する。KGBでも第1総局や第2総局などの国内の防諜活動を行う部門はもっぱらセダンタイプの車両や、ブハンカを使用する場合でも目立たないオフホワイトなどを使用するが、カラシニコフが所属する部署(おそらくは破壊工作や暗殺任務を請け負うKGB第13部)は、軍と同じくオリーブドラブ色の車両を使用していた。

UAZ-452は軍民問わず幅広く使用されている。現在でも基本設計はそのままに改良型の生産が続く。

なお、ルパンと次元は劇中でこのクルマの頑強なボディ構造によって命拾いしている。

■ロビエト連邦最高指導者ブレーリンが乗車したZIL-117
軍用車両や重機、特殊車両などの開発・生産に実績を持つリハチョフ工場(ZIL:ジル)が手掛けた旧ソ連きっての最高級車。1971~1979年にかけてわずか50台がラインオフしたこのクルマは、国家元首などの党幹部にのみ乗車が許された。

ZIL-117から派生したオープンカーのZIL-117V。赤の広場で行なわれるパレードで国家元首クラスのVIPが乗車した。

劇中ではロビエト連邦最高指導者ブレーリンが、アルカ合衆国(アメリカがモデル)との軍縮条約調印式に向かうパレードで派生型のZIL-117V(パレード用のオープンカー)を使用したほか、物語の終盤で隠れ家となった別荘に向かうため、セダン型のZIL-117を使用していた。

旧ソ連の最高級車ZIL-117。

■銭形が首都ヴォロクアの移動に使用したZAZ-968M
ウクライナのザポリージャ工場(ZAZ:ザズ)がZAZ-968の改良型として、1979年にリリースしたRRレイアウトの小型乗用車。同工場の小型車は1960年にフィアット600を無許可でコピーしたZAZ-965に始まるが、エンジンだけはオリジナルとなるメリトポルスキ自動車工場製のMeMZ-965型空冷90度V型2気筒OHVエンジンを搭載しており、その技術を改良して1966年にZAZ-966を完成させる。

劇中で銭形がロビエト連邦国内の移動に使用したZAZ-968M。ZAZ-966から続くシリーズの最終生産型。

スタイリングは当時世界的に流行したシボレー・コルヴェアに強く影響を受けており、NSUプリンツに似たルックスとなった。その後、1968年にブレーキとインテリアに改良を施したZAZ-968が登場。そして、『LUPIN THE IIIRD 銭形と2人のルパン』に登場する最終型のZAZ-968Mへと進化を遂げたのである。

ザポロジェッツの名を冠した最初の乗用車となったZAZ-965。エンジン以外はフィアット600をコピーした。

ZAZ-968Mの主な改良点はクローム外装の大部分が素材色のプラスチック製に置き換えられ、テールランプの形状を丸型から角型へと変更し、内装を近代的にアップグレードしたことにある。また、心臓部にはZAZ-966のMeMZ-968型1.2L V型4気筒OHVエンジンの改良型であるZAZ-968E型とZAZ-968GE型が搭載されており、前者はシングルキャブレター、後者はツインキャブレター装備となる。ZAZ-968Mは非常に息の長いクルマで、最後の生産車両が工場をラインオフしたのは冷戦終結後の1994年のことだった。

ZAZ-968Mのリヤビュー。改良によってZAZ-968までの丸型から角型へとコンビランプの形状が変わった。

劇中では物語の終盤、銭形が首都ヴォロクアから飛行場への移動に使用している。登場シーンは少ないが、ZAZ-966やZAZ-968の外観上の特徴となるリヤフェンダーに設けられたエアインテークが廃され、スリットになっていたことからZAZ-968Mと識別できる。

ZAZ-965で培った技術を生かし、1966年に新規開発されたZAZ-966。スタイリングはシボレー・コルヴェアの強い影響を受けており、リヤフェンダーのエアインテークが特徴となる。

しかしながら、映画の時代設定が1970年代中頃だとすると、時代考証的にこのクルマが登場するのは少しおかしい。ひょっとすると小池監督のお気に入りということでZAZ-968Mを登場させたのだろうか? だとすると、監督はクルマに関して共産圏のクルマにも目配せを忘れない筋金入りのカーマニアということになる。

ZAZ-966の改良型として1968年に登場したZAZ-968。写真に映る人物はウラジーミル・プーチン大統領。

日本ではドマイナーなウクライナの小型車についてあーでもない、こーでもないと蘊蓄を垂れるのは筆者のようなクルマバカだけであろう。多少の時代設定に齟齬があろうとも作品のクオリティや面白さとは関係なく、ほとんどの人は気にもしないはずだ。

ZAZ-966のカットモデル。RRレイアウト+空冷V4エンジンの同社の設計がよくわかる。

■そのほかの車両
ほかにも首都ヴォロクアの街行くクルマの中に、VAZ-2106ジグリやGAZ M20、GAZ-24パトカーなどの姿もあった。作品を見返せばまだまだ他にも発見があるかもしれない。共産趣味車が好きな人はコマ送りで映像を楽しんでも良いかもしれない。

VAZ-2106ジグリ
GAZ M20
GAZ-24パトカー

クルマだけじゃない!? 登場する航空機もマニアック!

最後にクルマではないがエピローグにユニークなメカが登場するので紹介したい。それは銭形がロビエト連邦を去るときに操縦する飛行機だ。なんと、それはヤコブレフ設計局が開発した試作VTOL機(垂直離着陸機)のYak-36なのである。

旧ソ連初のVTOL機となったヤコブレフ設計局が開発したYak-36。エピローグで銭形が操縦する航空機だ。

この機体は各国でVTOL機の研究開発がブームになっていた1950年代後半に開発がスタートし、1963年に初飛行したソ連初のVTOL機で、制式採用されたものの、離陸時の過大な燃料消費による航続距離の短さ、兵装搭載量の少なさからわずか12機で生産が打ち切られた幻の機体なのであった。開発のベースとなったのは試作迎撃機のYak-30(初代)で、VTOL方式はその後、Yak-38フォージャーへと発展するリフトエンジン方式を採用する。

飛行試験前のYak-36。

おそらく、アニメでYak-36の離陸シーンが描かれたのがこの作品が初めてのことと思われる。旧ソ連製のVTOL機まで視野を広げても『新世紀エヴァンゲリオン』(1995年)にYak-38の離陸シーンがあるだけだ。

Yak-36に続いて開発されたYak-38フォージャー。旧ソ連海軍がキエフ級重航空巡洋艦の艦載機として採用したVTOL戦闘機だ。

それにしても銭形はいつVTOL機の操縦を習得したのだろうか? Yak-36のホバリングは極めて不安定で、下方視界が劣悪だったことから、テストパイロットの間では「危険な飛行機」として極めて評判が悪かったという。それを難なく乗りこなす銭形の操縦技術は本当に大したものなのだが、一体どんなコネを使えば試作VTOL機を入手できるのだろうか?

思えば、1971年にオンエアされた『ルパン三世』(1st)の第1話「ルパンは燃えているか?!」でも、ロータス72をプロレーサー顔負けのテクニックで操っていた。ルパン三世もメカニズムに対しては天才性を発揮するが、彼のライバルである銭形もまた負けず劣らずのすごいヤツなのである。

ちなみにYak-36は『LUPIN THE IIIRD THE MOVIE 不死身の血族』にも引き続き登場し、本作以上の活躍を見せるらしい。アニメファンはもちろんのこと、メカが好きな人はぜひ劇場に足を運ぶことをオススメする。

アニメ『ルパン三世』公式X