1975年式日産フェアレディZ-L。

1969年に発売された初代フェアレディZは日本国内だけでなく世界中で大ヒットした。比較的安価な価格設定と高価格スポーツカーにも匹敵する動力性能、さらにはロングノーズ・ショートデッキの魅力的なスタイルが重なり大いに人気を博した。特に動力性能は目覚ましいものがあり、1トン前後のボディに直列6気筒エンジンを組み合わせていたからライバルと目されたイギリス製2シータースポーツなどより高性能。市場をリードしていたポルシェ911やジャガーEタイプにも迫るほどだった。

73年のマイナーチェンジでリヤのデザインが変更された後のモデル。

輸出仕様のS30はダットサン240Zという車名の通り、国内市場に導入された2リッター6気筒ではなく2.4リッターの6気筒エンジンが採用された。排気量が大きいだけに国内モデルより高性能であり、事実国内向けでスカイラインGT-Rと同じ6気筒DOHCであるS20型エンジンを搭載する高性能グレードであるZ432から、71年に国内導入された240Zがレースの世界でも主役に取って代わる。とはいえ当時の3ナンバー車には高額な自動車税が課せられたため、国内での販売は73年で打ち切られてしまう。

足元には定番のRSワタナベ8スポークホイールを履く。

73年といえば段階的に排出ガス規制が強化され始めた時期であり、さらにはオイルショックが重なってスポーツカーにとり冬の時代へ突入する。そのため高性能なZ432も生産が中止され国内ではL20型エンジンに一本化されてしまう。スポーツカーが売れなくなる時代だからか74年には生産設備に余裕ができたのだろう、2シーターだけだったフェアレディZに4人乗りとなる2by2が追加された。

ノーマルスペックのままのL20型エンジン。

国内仕様でL20型エンジン搭載のフェアレディZには2種類のグレードがある。単なるZだとトランスミッションが4速であり、上級グレードのZ-Lには5速MTが採用された。またZ-Lには70年から3速ATも用意されたが、こちらは残存数が少なく後にMTへ載せ替えられたケースが多くあったようだ。

エアクリーナーケースもSUツインキャブも純正のままだ。

ZとZ-Lには標準でSUツインキャブが装備された。ところがこちらも後になってソレックス・ツインチョークキャブを3連装することが流行したため、ノーマルで残されている個体は非常に少ない。だから「北本ヘイワールド昭和平成クラシックカーフェスティバル」の会場でSUツインキャブのままのZ-Lを見つけた時は、あまりの珍しさからオーナーに話を聞くことにした。

73年からダッシュボードのデザインが変更された後のモデル。

この75年式フェアレディZ-Lを所有するのは71歳の金子薫さん。聞けば2024年に手に入れたばかりだそうで、まだそれほど走行距離を伸ばしたわけではないとのこと。ではなぜ古いフェアレディZ-Lを選んだのかといえば「若い時に乗っていたので再び乗りたくなったのです」と、若い時代の思い出を大事にされてきた人だった。

5桁メーターのため走行距離は不明。

とはいえ70歳になって50年も前のクルマを買うには相当に勇気が必要なことだろう。ところが金子さんにはすでに免疫ができていた。長く勤めた会社を定年退職すると、これからの人生は趣味を楽しもうと考え国産旧車を手に入れる。それがフェアレディZになる以前のオープン2シーターだったSR311フェアレディ2000だったのだ。

ボードを作成して1DINオーディオに変更している。

S30フェアレディZよりさらに古いSR311に乗っていれば、自然とトラブルを経験されたことだろう。また、旧車に乗るなら程度の良し悪しを見極める目が必要になるもので、SR311を通して金子さんなりの眼力を蓄えたに違いない。トラブルに対処する覚悟も必要だが、やはりこの時代のクルマには今のクルマにないダイレクトな操作感だったりキャブレターならではの吸排気音が楽しめるなど、面白味に溢れている。そこで趣味をさらに広げることにされた。

クーラーを装着しているので夏でも快適に乗れる。

もう1台、旧車を増車することにされたのだ。選んだのはもちろん、若い頃に乗っていた思い出のクルマであるS30フェアレディZ。SR311と乗り比べると非常に乗りやすく、洗練された乗り心地であるS30フェアレディZ。だが、売りに出されている個体の多くがローダウンされワイドタイヤを履かせていたりL28型エンジンに載せ替えられている。カスタムやチューニングベースとして考えるならいいが、金子さんは若かった頃のように楽しみたい。そこで選んだのがノーマルをよく保つ75年式のこの個体だった。

左右とも純正シートのまま乗っている。

これまで全塗装とショックアブソーバーを交換されたが、SUツインキャブのまま排気量を変えていないL20型エンジンだったり、小径タイプに変更されがちなステアリングホイールまでノーマルのまま。変更しているのはRSワタナベ製のアルミホイールくらいで、とても好感の持てる仕様といえるだろう。確かにチューニングエンジンにしてハイパワーを楽しむのは面白いが、必然的にハードな乗り心地のサスペンションだったりブレーキの強化、さらにはボディの補強が必要になる。どんどん日常的に乗れない仕様へ近づいていくわけで、日々楽しむのであればノーマルに近いほどベスト。しかも金子さんのクルマにはクーラーまで装備されているので、夏でも快適に走れるそうだ。猛暑、いや酷暑になる近年の気象を考えたら、旧車にもクーラーが必須な時代になった。これからの旧車の楽しみ方として大いに参考になる個体だった。