フォード車に「戦いの化粧」を施したコスワース

今回は、「ブガッティ トゥールビヨン」が搭載するV型16気筒エンジンを開発したコスワース社への潜入記事を教材とした。イギリスの“Car”誌などに執筆するギャビン・グリーン氏の文章から、比喩的な表現や慣用句を使った描写をいくつかピックアップして紹介する。

コスワースは1960年代後半以降、F1をはじめとするモータースポーツで輝かしい成果を挙げたイギリスのエンジンビルダーだ。1980年代には、「フォード シエラ」に同社製エンジンを搭載した量産モデル「シエラ RS コスワース」を生み出した。レースやラリーでも活躍したシエラについて、グリーン氏は以下のように表現している:

“Far from building the engines that power war-painted mass-market Fords, it designs and hand-builds exquisitely detailed V10s, V12s and now V16s…”

「(現在のコスワースは)war-painted mass-market Fordのエンジン開発からは遠く離れた、精巧なディテールをもつV10、V12、そしてV16エンジンの設計と手作業による製造を行っている」

ここでは、“mass-market Fords”つまり「量産型フォード」を“war-painted”と形容している。直訳すると「戦争用の塗装を施された」となるが、この文脈では「モータースポーツ仕様の(派手な)カラーリングをまとった量産型フォード車」を意味する比喩として使われている。市販車でありながら“戦闘的”な雰囲気を醸し出す外観を、独特の言い回しで表現している。

エンジンの“内臓”が動き出す

ブガッティ トゥールビヨンに搭載されたエンジンのヘッドカバー。この下にの「内臓」では毎秒1000回以上の燃焼が起こっている。
ブガッティ トゥールビヨンに搭載されたV16エンジンのヘッドカバー。この下の「内臓」では毎秒1000回以上の燃焼が起こっている。

ブガッティ トゥールビヨンに搭載される新開発エンジンについては、「“わずか”7500回転であっても、V16エンジンの内部では1秒間に1000回もの燃焼(爆発)が起きている」という。

“Even at ‘just’7500rpm, there are 1000 individual explosions per second within the bowels of the V16.”

“bowels”は腸や内臓を意味するが、ここでは「V16エンジンの内部深く/心臓部」というニュアンスで使われている。英語では、たとえば“the bowels of the earth(地球の奥深く)”など、機械や都市の深部を“the bowels”と表現することがある。また、この文脈では金属の集合体であるエンジンに生命が宿っているような印象も受ける。機械が呼吸し、動き、鼓動するようなイメージを醸し出す意図もありそうだ。

エンジンにも“適性”がある

W16からV16に変わったことで、「宝石のように語られる存在」になった新しいブガッティのフラッグシップ。
W16からV16に変わったことで、「宝石のように語られる存在」になった新しいブガッティのフラッグシップ。

先代のヴェイロンやシロンには、フォルクスワーゲングループが手掛けたW型16気筒エンジンが搭載されていた。グリーン氏は、W16がブガッティにはふさわしくないパワーユニットだと感じていたようだ:

“It (W16を指す) didn’t lend itself to high-revving normal aspiration. Nor did it lend itself to being a jewel-like feature that everyone is talking about.”

ここでは、“lend itself to”という慣用句が使われている。“lend”は「貸す」という意味だが、“lend itself to〜”となると、「〜に向いている」「〜に適している」という表現になる。つまり、W16は「高回転型の自然吸気エンジンには向いていなかった。そして、宝石のように語られる存在にもなり得なかった」とグリーン氏は言う。新しいコスワース製のV16の方が、ブガッティのフラッグシップであるトゥールビヨンの心臓部としてはふさわしいと感じているようだ。


ハイパフォーマンスカーの魅力は、馬力や加速タイムといった数値にとどまらない。エンジンの響きや構造の美しさ、開発者の思いまでもが、言葉の選び方ひとつで豊かに表現されている。

新生ブガッティの第一弾モデルとして登場した「ヴェイロン 16.4」。フェルナンド・ピエヒのアイデアを起点とし、4台のコンセプトカーが生み出された。

元祖ハイパーカー、ブガッティ ヴェイロン 16.4に通じる4台のコンセプトカー「ベースはピエヒが描いたスケッチ」

フォルクスワーゲン・グループ傘下のブランドとして生まれ変わったブガッティは、2005年に初のハイパースポーツ「ヴェイロン 16.4」の製造を開始した。1998年から1999年にかけて、フェルディナン・ピエヒの指揮の元、様々なデザインスタディが生み出され、それぞれが最終的な完成形への道を切り開いている。