McLaren GTS

究極のパフォーマンスと実用性との両立

スポーツカーとは科学である、と全身で主張するような現代のマクラーレンの中にあって、「GTS」はちょっと異質である。グランドツアラーを意味するその名もさることながら、最大の特徴はリヤのガラスハッチ下のラゲージスペースだ。ミドシップエンジンの真上だけにフロアというかカバーはフラットではなく凸凹しており、深さはそれほどではないものの420Lの容量を持つ。

実際にスーツケースだけでなく、ゴルフバッグやスキーなどの長いものも収められるという。加えてフロントフード下には、他のマクラーレンと同様、大きくはないが深い150Lのラゲージスペースも設けられている。ピュアスポーツカーの究極のパフォーマンスと高速長距離移動を快適にこなす実用性との両立に挑んだマクラーレン GTSは、いわばコロンブスの卵のようなものかもしれない。

ブルースの悲願

全長は「750S」に比べて110mmほど長い4683mm。
全長は「750S」に比べて110mmほど長い4683mm。

もちろん、ゴルフバッグ云々に拒否反応を示すストイックなスポーツカー・ドライバーもいるだろう。とにかく軽く速くなければならず、スポーツカーに実用性を求めるなんて軟弱だ、という意見も分からないではないが、あくまでロードカーである限り、すべてを削ぎ落せという主張には無理がある。しかもマクラーレンにはそういうピュアなスーパースポーツも存在する。ちょっと古いクルマ好きにとっては、マクラーレンといえばセナ&プロストで無敵を誇ったマクラーレン・ホンダF1のことだろうが、もっと古い話までさかのぼれば、元々はニュージーランド出身のF1ドライバー、ブルース・マクラーレンと仲間たちによって1963年に創設されたレーシングカー・コンストラクターである。

若くして事故死したブルースは、いっぽうでロードゴーイングカー製作も計画していた。その名も「マクラーレン M6GT」というスポーツカー計画はリーダーの死去によって頓挫してしまったが、レーシングチームはその後黄金時代を迎えることになる。GTという名をいただいた市販スポーツカーは創業者の果たせなかった夢とも言えるのである。

しなやかな乗り心地を持つスーパースポーツ

2019年に国内発表された「GT」は、2023年に「GTS」に進化している。フロントのインテーク周りが手直しされ、リヤフェンダーにも新たなインテークが設けられているが全体的なスタイリングは従来型とほとんど変わらず、ボディの寸法も同じである。現在のフラッグシップモデル「750S」に比べると全長は110mmほど長く、車重は1520kgと750Sより130kg重いが、モノセルⅡ-Tと称するカーボン製バスタブ・モノコックを採用するGTSは絶対的には依然として軽量である。細かなことだが、DIN値での発表スペックと車検証記載値重量が一致するのも律儀なマクラーレンらしい。

それ以外の基本的なメカニズムも従来型と大きな違いはない。4.0リッターV8ツインターボエンジンは以前よりも15psパワーアップし、467kW(635PS)/7500rpmと630Nm/5500~6500rpmを生み出し(最大トルクは変わらず)、マクラーレンがSSG(シームレスシフトギアボックス)と呼ぶ7段DCTを介して後輪を駆動することも同じだ。車高はスーパーシリーズよりも10mm高い110mmとされるが、オーバーハングが長いGTSの実用性を考慮してフロントには20mm持ち上げることができるリフターが備わっており、さらに今回その作動速度も速められたという。

サスペンションはマクラーレン自慢のプロアクティブ・サスペンションだが、より快適性を重視したとされている。もともとマクラーレンはしなやかと言っていいほどの乗り心地を持つ珍しいスーパースポーツカーであり、ゴツゴツした剥き出しの突き上げとは無縁だった。コンフォートモードでのGTSはむしろ柔らかめで、おとなしく流す高速道路では若干のピッチングを見せることもあるが、スピードが増すにつれてビシッと安定するから心配無用だ。

圧倒的な速さと快適さに注意

またステアリングフィールも低速ではいささか心許なく感じられるのがマクラーレン流だが、高速になれば格段に正確で安定した手応えになる。低回転では素っ気なくビジネスライクに回るV8ツインターボ(ただし扱いやすい)は4000rmぐらいから豹変し、爆発的に8000rpmを超えるまで瞬時に吹け上がるのも750S同様である。あちらほど切れ味鋭くないとはいえ、その辺のスポーツカーとは比べものにならない。0-100km/h加速が3.2秒、最高速326km/h(GTと同じ)という性能に不満を持つ人はいないだろう。

ひとつ注意すべきは走り方によって大きく燃費が変化すること。高速道路を普通に流すと車載表示では10km/Lを上回るほどだが、山道で気持ち良く走ると3~4km/L台に急降下する。燃料タンクは72L入りというが、そのために航続距離があっという間に100km単位で増減する。圧倒的な速さと快適さに油断すべきではない。

PHOTO/市健治(Kenji ICHI)

SPECIFICATIONS

マクラーレン GTS

ボディサイズ:全長4683 全幅2045 全高1213mm
ホイールベース:2675mm
車両重量:1466kg
エンジン:V型8気筒DOHCツインターボ
総排気量:3994cc
最高出力:586kW(635PS)/7500rpm
最大トルク:630Nm(64.2kgm)/6500rpm
トランスミッション:7速DCT
駆動方式:RWD
サスペンション形式:前後ダブルウイッシュボーン
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク(カーボンセラミック)
タイヤサイズ(リム幅):前225/35R20 後295/30R21
車両本体価格:2970万円

720Sの後継モデルとして2年前に日本上陸した「マクラーレン 750S」。

マクラーレンの中核をなすスーパースポーツカー「750S」に試乗して感動ポイントを改めて検証

硬派なスーパースポーツカーを提供するマクラーレン。その中核となるのがスーパーシリーズ「750S」である。先代となる名作「720S」からさらに大きな進化を遂げたが、その実力はいかほどか? ワインディングで改めてストイックなスーパースポーツカーに試乗した。

「控えめだけどカッコいい」「ゆっくり走っても楽しい」ツウ好みのスーパーカー「マクラーレン GTS」に試乗

スーパーカーメーカー、マクラーレンのラインナップにあって、十分な荷室容量を誇る、最も日常的に使い勝手が優れた「GT」。その名のとおり高いグランドツーリング性能と、もちろん高いスポーツ性能も有しているが、そのマイナーチェンジ版「GTS」に試乗した。