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自衛隊新戦力図鑑

九州・沖縄方面の対艦ミサイル部隊を増強

防衛省・自衛隊は、日本に侵攻する敵を阻止する手段として「スタンドオフ・ミサイル」の整備に力を入れている。「スタンドオフ」とは「相手と離れている」という意味であり、ざっくり言えば「侵攻部隊の武器(ミサイルなど)が届かない遠く離れた場所から一方的に攻撃できるミサイル」ということだ。12式地対艦誘導弾能力向上型も、スタンドオフ・ミサイルのひとつであり、今年度末の配備開始が予定されている。

今年6月の富士総合火力演習で初公開された12式地対艦誘導弾能力向上型の発射車両。4本のキャニスターを搭載している(写真/筆者)

陸上自衛隊はこれまでも、海を渡って来る侵攻部隊を洋上で撃破するため「88式地対艦誘導弾」(1988年導入)や「12式地対艦誘導弾」(2012年導入)などを保有しており、これを運用する部隊として複数の「地対艦ミサイル連隊」を編成している(装備品の名前は「地対艦誘導弾」だが、部隊名が「地対艦ミサイル」連隊なので、少々ややこしい…)。

地対艦ミサイル連隊は、もともとソ連の侵略に対抗するため、主に北海道に置かれたが、近年は中国の脅威の高まりから九州や南西諸島に重点が移っている。健軍駐屯地には1998年に第5地対艦ミサイル連隊が新編されており、現在は12式地対艦誘導弾を装備している。12式地対艦誘導弾能力向上型も、第5地対艦ミサイル連隊に配備されるのだろう。

長射程対艦ミサイルで中国を牽制する

これまでの88式や12式が射程200kmであったのに対して、スタンドオフ・ミサイルである12式能力向上型の射程は900~1500kmに達する。単純計算で言えば、九州に置いても広く南西諸島や東シナ海をカバーすることができる。

ランチャーを起立させ、発射姿勢のデモンストレーションを行なう12式地対艦誘導弾能力向上型。報道席からは車体の後部しか撮影できなかった…(写真/筆者)
熊本を中心とした1500kmの円と、沖縄本島を中心とした200kmの円。12式地対艦誘導弾能力向上型の射程は、当初900km程度で、最終的に1500kmまで延伸される見込み。900kmでも宮古海峡なかほどまで届く計算になる

射程を見てもわかるとおり、12式地対艦誘導弾“能力向上型”と言っているが、新規開発と言っていいくらい12式とは異なるミサイルだ。これまでの12式が円筒形であるのに対して、12式能力向上型は対レーダー・ステルス性を考慮した独特の形状となり、長距離を飛行するため主翼が展開する。さらに、敵艦への命中直前には複雑な軌道を描くことで、迎撃を回避する能力も持つようだ。

上は既存の12式地対艦誘導弾、下が同 能力向上型。車両はどちらも重装輪回収車だが、キャニスターは能力向上型のほうが長さも太さも一回り大きくなっている(上写真/U.S. Army、下写真/筆者)
上は既存の12式地対艦誘導弾、下が同 能力向上型(模型)。従来の円筒形ミサイルに対して、能力向上型の形状がまったく異なることがわかる(上写真/U.S. Army、下写真/筆者)

地対艦ミサイル連隊は南西諸島にも置かれており、今後はこれら部隊にも配備されていくことにもなるだろう。この地域に、高性能で長射程の対艦ミサイルによる防衛体制を築くことにより、中国の水上艦艇の動きは大きな制約を受ける。たとえば、台湾有事では中国が空母などを太平洋に進出させ東から台湾を海上封鎖することが懸念されているが、こうした動きを阻止することも期待できるだろう。

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