パナソニックが開発、販売している吸収式冷温水機は、国内トップクラスのシェア※2を誇り、50年以上の歴史を持つ省エネルギーで高効率な空調システムである。特定フロンおよび代替フロンを使用せず、自然界にある「水」を冷媒とするため、オゾン層破壊や地球温暖化への影響が小さい環境に配慮したシステムとして知られている。エネルギー源には主にガスや廃熱を用いることから、電力負荷の平準化や、停電、災害時におけるレジリエンス強化に有用とされている。
Daigasグループは、1970年から吸収式冷温水機を事務所ビルなどへ販売している。また、Daigasエナジーは業務用機器や工業炉向けなど数多くの都市ガス用バーナの開発・販売を担い、燃料を効率的かつ安全に燃焼させるための燃焼技術や空気比制御技術などの知見を蓄積している。近年では顧客の要望に応じて、水素やアンモニアといった次世代燃料にも対応できる燃焼技術の開発にも取り組んでいる。
昨今、燃焼時にCO2を排出しない水素は、「クリーンエネルギー」として注目を集めている。一方で、水素は都市ガスと比べて燃焼速度が速く、火炎温度が高いなどの特性があり、燃焼時にNOx(窒素酸化物)が多く発生するという課題がある。今回、3社が共同開発した吸収式冷温水機では、水素および都市ガスの混焼比率や空調負荷に応じて燃焼用空気の流量を最適制御する技術を構築することで、水素と都市ガスの混焼比0%-100%での運転が可能とされた。さらに、水素燃焼時の火炎温度を低減するバーナを組み合わせることで、排気ガス中のNOx値を40 ppm未満に抑制する。また、都市ガスを燃料とする既設機のバーナや燃料配管など一部の部品交換のみで水素対応機にリニューアルすることができるため、吸収式冷温水機本体を買い替えることなく、CO2排出量削減などのニーズへの迅速な対応が可能。燃焼時にCO₂を排出しない水素の活用を通じてカーボンニュートラル社会の実現に貢献するため、今後、3社で商品化に向けた検証が推進される。
【注釈】
- 水素および都市ガス混焼対応の吸収式冷温水機向け技術開発について。2025年8月7日現在。(パナソニックおよびDaigasエナジー調べ)
- 日本冷凍空調工業会「2024年度 吸収式冷凍機国内出荷実績(冷凍トンベース)」からパナソニック試算。
特長
1. 混焼比0%-100%が可能なマルチ燃料対応
今回開発した吸収式冷温水機は、水素、都市ガスそれぞれの専焼運転に加え、水素と都市ガスの混焼運転が可能という業界初の特長がある。従来は、各燃料の燃焼特性の違いから、燃料毎に専用のバーナおよび燃焼用空気の流量調整が必要であったが、新たに開発された「水素/都市ガス兼用バーナ」と「燃焼制御ユニット」によってこれらの課題に対応している。燃料混合比率を設定するだけの簡単な操作で、混焼比0%-100%で運転可能なマルチ燃料対応が実現された。今後、都市ガスを使用しつつ、水素燃料の活用を検討している顧客にも安心して吸収式冷温水機を使用してもらうことができる。

2. 低NOx(40 ppm未満)と高効率運転を実現
NOxは空気中の窒素と酸素が反応することで発生する。水素は都市ガスと比較して燃焼速度が速く、火炎内で局所的な高温部が発生するため、NOxが発生しやすいという特性があるが、今回開発された「水素/都市ガス兼用バーナ」により、急激な燃焼拡大を緩和し、NOx発生量を都市ガス専焼と同等の40 ppm未満に抑制することに成功した。また、燃焼用空気が過大になると排ガスの熱損失によるエネルギーロスが発生するが、水素、都市ガスそれぞれに対する空気の流量を「燃焼制御ユニット」と「燃焼制御盤」が精密にコントロールすることで、排ガスの熱損失を最小限とし、高効率運転かつ全燃焼領域での低NOxが実現された。NOx発生量抑制と高効率運転の実現にあたっては、混焼比率や冷暖房出力に応じた燃焼用空気量の精密な制御が必要。今回、全ての混焼比率・冷暖房出力の条件下において、NOx発生量、冷暖房効率について確認・改善が行われ、全条件下で技術的な課題をクリアし、安定運転が実現された。

3. 既設機の燃焼関連部品の交換のみで水素対応機にリニューアル可能
都市ガスを燃料とする既設機であっても、本体の入れ替えや大掛かりな改造をすることなく、バーナと燃焼制御ユニットを交換、追加するだけで、水素対応機にリニューアルすることができる。現時点では都市ガス仕様の吸収式冷温水機を選択した場合でも、今後、水素燃料を利用することになった時に、部品交換、追加をすれば、水素燃料対応が可能となるため、外部環境変化やお客さまのGX化に速やかに対応することができる。

