累計1億9000万台!?「ミニ四駆」は今なお熱い!タミヤが生んだ”奇跡”の自動車模型の過去と現在 | Motor-Fan[モーターファン] 自動車関連記事を中心に配信するメディアプラットフォーム

模型界の偉人、株式会社タミヤ代表取締役会長・田宮俊作氏の訃報 クルマ好きであれば間違いなくハマる「ミニ四駆」を提案する記事を書こうと取材を進めていた矢先、タミヤの代表取締役会長・田宮俊作氏が逝去されたというニュースが飛び […]

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前編はこちら。

本番は試走なしの一発勝負!マシンをコースに最適化できるかがポイント?

ご存じの通り、ミニ四駆はステアリングやブレーキ、サスペンションといった機構を持たない極めてシンプルなモーター駆動のプラモデルである。ユーザー自身の手で発展させる余地が多分にあったからこそ、独自のチューニング(ミニ四駆の世界では『チューンナップ』)文化が育まれたといえる。

ミニ四駆レースは、愛車をコースに放ったら、あとはゴールまで無事に走り切ることを祈るしかない。つまり「良いマシンを作ること」がこの競技の本質である。そして良いマシンには、絶対的な正解は存在しない。現代のミニ四駆レースで勝敗を分けるのは、加速力や最高速度といった単純なスピードではなく、コースに最適化した総合的な性能だからである。

ミニ四駆ジャパンカップ2025の公式コース「ウェイクニング ヴェノム サーキット2025」。ほとんどがカーブやスロープで構成されたテクニカルなコース。イン側のレーンはカーブの曲がりがよりきつくなるため、挙動が乱れやすい。

全国11会場16大会で行われる「ミニ四駆ジャパンカップ2025」(以下ジャパンカップ2025)は、ミニ四駆レーサーにとっての夏の甲子園。日本一決定戦である。5レーンのコースは、周回ごとに走行レーンが変わるようになっており、計5周して勝敗を競う。全長約212メートルの巨大なコースは、急カーブ、ジャンプスポット、急スロープといった立体的なセクションが間断なく組み合わさったもの。走行レーンごとにコーナーの曲率も変わるため、1周、2周と調子よく周回を重ねたマシンが最終周であえなくコースアウトしてしまうこともある。

実車のサーキットと同様、大会の協賛スポンサーの名を冠したセクションもある。こちらは「ADVAN クライマックススネイク」という連続コーナー。

ジャパンカップのコースは毎年変更される。今年は大会のおよそ2か月前に発表されたが、本番は試走なしの一発勝負だ。選手はコースを攻略するために、物理に基づく考察力や分析力、課題を解決する創造力のほか、コース発表から本番までの限られた時間のなか、論理的かつ効率的にセッティングを煮詰めていく能力が求められる。

こちらは「YAMAHA MOTOR レヴズ チェンジャー」と名付けられたセクション。ミニ四駆の主なブレーキ機構は、車体前後下にスポンジなどの摩擦力の高い素材を貼り付け、傾斜にさしかかると路面と接触して減速させるというもの。つまり、あまり効きを強く(減速する)すると、こういうセクションはクリアできなくなる。ミニ四駆レースのチューンナップでは、このような相反する条件を絶妙なバランスでクリアするための「最適化」が重要な要素となる。

ハイレベル化は進んでも新規参入が増え続ける理由とは?

筆者が子どもの頃とは違い、現在はインターネットを通じて上級者によるチューンナップ技術が広く共有され、全体的なハイレベル化が進んでいる。こうした現象は10年以上前から進行しており、ともすれば新規ユーザーの参入を阻んで、ミニ四駆全体の衰退を招く要因ともなりかねないところだが、じつは現在も新規参入者が絶えていない。その理由は、やはりリアル模型ならではの予測不能なハプニングが存在するからではないだろうか。ミニ四駆は結局のところ「走ってみなければ分からない」のである。

決して広いとは言えない会場だが、とてもシステマティックかつスムーズにレースが進行し、大会運営の面でも従来から大きな進化を感じた。

今回の取材では、品川シーサイドフォレストで開催された「ジャパンカップ 東京大会1」の会場を訪れた。7月26~27日の二日間にわたって開催され、合計1757名が参加したという。ここでは主に初心者向けカテゴリーである「トライアルクラス」の様子をじっくりと見学。あまりスピードの出ないモーターのみ搭載可能なクラスだが、それでも多くのマシンがコースアウトや転倒、トラブルによってレース半ばでリタイアしていたのが印象的だ。

この日、多くのマシンが脱落したジャンプスポット「XLARGEスロープ」。ブレーキを効かせて過度な飛距離にならないよう制御するほか、車体の重量配分を適切に調整し、安定した姿勢で飛べるようにすることも重要である。写真のマシンはボディが浮いているように見えると思うが、もちろん意図的にそうなるようチューニングされたものだ。ジャンプ着地時の衝撃を、マスダンパーを装着したボディ全体で減衰して安定させる「ボディ提灯」と呼ばれるギミックである。こうしたパーツや車体の加工を必要とするチューンナップを適切に行うと、市販パーツのポン付けでは不可能なレベルの最適化が可能となる。

現在のミニ四駆はブレーキなどのグレードアップパーツを駆使し、確実に完走できるよう速度を抑えるセッティングも可能なのだが、「誰よりも速く走りたい」というレーサーの本能とのせめぎ合いである。
優れた性能を持つマシンを作り上げても、最終判断を誤れば完走すらままならない。これもまた、ミニ四駆レースの醍醐味である。

もちろんミニ四駆自体も昔と比べて格段に進化している。シャーシは強靭で駆動効率も高く、重量配分を適正化するためにモーターを中央に配置したモデルまである。単にスピードを高めるだけなら誰でもできる。今のミニ四駆レースでは、むしろスピードを各セクションに応じて適切に「制御する」ことこそ、チューンナップにおける重要な要素である。

現在、もっとも設計の新しいシャーシがこちらのVZシャーシ。ホイールベースが短く回頭性に優れるほか、分割式の前後バンパーやパーツ取付用のビス穴が多く設けるなどし、カスタマイズの自由度が高いのが特徴。
いわゆる第一次ブーム、第二次ブーム以来ミニ四駆から遠ざかっていた方は恐らくご存じないであろう、モーターを車体中央にレイアウトしたMAシャーシ。Z軸回りの慣性モーメント低減やトラクション向上など、ミッドシップレイアウトがもたらす高い運動性能は、実車、とくにレーシングカーの世界ではお馴染みである。前後に出力軸を備えた両軸タイプのモーターで4輪を駆動する。

参考までにトライアルクラスの完走タイムを計測したところ、一周約45~46秒だった。平均時速は16~17km/hといったところ。ジャンプやカーブが連続するコースをこの速度で駆け抜ける様は目で追うのがやっとである。

誰でもどんな人でも公平に競える最もフェアなモータースポーツ

先ほど、良いマシンを作ることがミニ四駆レースの本質だと述べたが、もう一歩進んだ見方をすれば。ミニ四駆レースは選手同士の「知恵比べ」ともいえる。そして勝利への道筋は一本だけではなく、無数に存在するのだ。

美しくチューンナップされた現代ミニ四駆の例。レギュレーションによってボディサイズは全長165㎜以下、全幅105㎜以下、全高70㎜以下と規定されており、最低地上高1㎜以上でなければならない。ガイドローラーの数は長らく最大6個とされていたが、近年の公式レースでは無制限となっている。部品ひとつひとつは数百円程度だが、最適なセッティングを出すためにはスペアパーツも豊富に用意する必要がある。ここまで仕上げると車体込みで1万円~はかかるだろう。
上で紹介したマシンで参加した親子。お父さんは、息子さんと一緒に楽しめるものを探していたところ、子どもの頃に熱中したミニ四駆を思い出して再開したという。「大人の技術をもってしても完走が難しい点にやりがいを感じている」とのこと。
お子さんが生まれたのをきっかけに約3年前からミニ四駆に復帰したというお父さん。「試行錯誤を重ねてセッティングしても、なかなか思うようにいかない点が奥深くて面白いです」とのこと。
こちらは2010年から家族で大会に参加しているというベテラン。子どもたちはレースによって喜びや悔しさを学び、人間的な成長の機会にもなっているという。着用している「XLARGE×ダッシュ!四駆郎」コラボTシャツは過去の大会で景品として作成されたマニア垂涎のアイテムだ。
車椅子の男性に声をかけたところ、デイサービスの入所者同士でチームを組んで大会に参加しているとのこと。施設にはミニ四駆のコースがあり、そこで初めてミニ四駆に触れてハマったメンバーもいるそう。介護の現場でも楽しまれ、さらに競技にまで参加することができるミニ四駆のフェアネスにあらためて感心してしまう。
何とアメリカからジャパンカップ2025に参加するために来日したという親子。お母さんもタミヤTシャツを着用し、自分で制作した美しいマシンで参加していた。
7月28日 ジャパンカップ東京大会1 トライアルクラスの表彰台。優勝したのは女性選手だが、ミニ四駆レースの世界では特段珍しいことではない。

年齢、性別、国籍、障がいの有無を問わず、誰もが同じ条件で競える。
ミニ四駆レースはこの上なくフェアな競技だ。たとえ筆者のように手先が少しばかり不器用でも、複雑な加工を避けてセッティングに時間をかければ十分補うことができる。

もちろん、予選、決勝とレースを勝ち抜いて優勝を狙うなら、高度な加工によって最適化レベルを引き上げ、時間や資金も惜しみなく投じる必要があるだろう。だが、それでも勝敗は最後までわからない。完成度で他車を圧倒するマシンがコースアウトで敗れる場面など、ミニ四駆の世界では珍しくないのである。

近年は遊べる場所も多様化しており、タミヤ公認の「ミニ四駆ステーション」は全国に500ヵ所以上。ホビーショップや専門店はもちろん、コジマやエディオンといった家電量販店にも常設サーキットがあり、各地で大会が開かれている。さらに初~中級者がより楽しめるよう、パーツや車体の加工を原則禁止とした独自のレギュレーションで日本一の座を競う「B-MAX GP」といった大会も人気を集めている。

ミニ四駆はかねてより「世界最小のモータースポーツ」と呼ばれてきたが、筆者はそこにもう一つ、「世界でもっともフェアなモータースポーツ」という称号を贈りたい。