イナズマワークスが刻む、FR最後のカローラの美学

WeKFestでベスト・オブ・ショーを獲得

和歌山県でINAZUMA WORX(イナズマワークス)という屋号のもと、プライベートビルダーとして活躍している池田将隆さん。今回、取材したのは、池田さんのプライベートカーである82年式のトヨタ・カローラだ。

FR時代最後のカローラとして、ファンの間では70(ナナマル)の愛称で知られるモデル。4ドアセダンのほかに2ドアハードトップやクーペなど様々なバリエーションが存在した。

「足グルマとして使えるおしゃれな旧車が欲しくて、自分と同年式のカローラを買ったのが製作のきっかけです。ベースは3A-U型の1.5Lエンジンを搭載したSEというグレードで、型式はAE70になります」。

70カローラは搭載エンジンによって型式がTEやKEなどに変わるのだが、AE70はエンジンメンバーもAE86と共通。なので、4A-GEがボルトオンで載せられ、ステアリング形式もその他がボールナットなのに対して、AE70はラックアンドピニオンというメリットもある。

「当時は70を買ったら、息を吸ったり吐いたりするのと同じくらい自然にAE86の丸車も買ってきて、エンジンから足回りまで総移植するのが当たり前でした(笑)。正直、エンジンスワップというほど大層なことではないんですけど、せっかくなら綺麗にしたいし、エアサスも入れてみたいなと思って。自分の中ではライトな部類の作り込みをしてあります」。

池田さんはあくまで「ライト」と表現するが、そのエンジンルームは相変わらず美麗。とても「家族を乗せて走れるプライベートカー」というコンセプトで作られたとは思えない。本来は左右で形が整っていないインナーフェンダーも鈑金で左右対称の見た目になるよう成形されている。AE86から移植した4A-Gには戸田レーシングのハイカムが組まれ、ヘッド面研も行なっている。

エキマニはケイワークスに依頼してワンオフで製作された逸品。等長、手曲げ、継ぎ目なしに拘って作られ、見た目上のアイキャッチにもなっている。それより後ろのエキゾーストとマフラーは池田さんがワンオフ製作。出口のみフジツボ製を使用している。

吸気系はミクニソレックスの44φを備えるキャブ仕様。デスビはプラグコードの出る方向が都合が良かったという理由でAE92の純正を流用しているが、今後時間があれば点火制御をフルコンで行なう仕様にアップデートするのもアリと考えている。

トランクルームにエアリフトの3Pエアサスシステムを搭載。エアタンクを奥に、コントロールユニットとコンプレッサー2機を手前にレイアウトし、左右対称の美しいインストールを実現している。

エアサス本体は既製品でなく、自分で用意した車高調とエアバッグを組み合わせてインストール。ショックとエアバッグそれぞれの長さ、下げた時にフェンダーをぎりぎりかわす角度とキャンバー調整、タイヤホイールの幅をすべて一度机上で計算し、試作をしてから微調整する工程を経て完成させている。

70カローラの前期型のほか、TE27やダルマセリカにも設定された「GT」グレード用の純正ホイールをベースに、ショーでのディスプレイ用としてアルミリムを組み合わせたリバレルホイールを製作。小径に拘り、サイズは8.5J×14に設定。

トランスミッションもエンジンと一緒にAE86のT50に換装しているが、クラッチを切る機構をワイヤー式から油圧式にコンバート。ホーシングと前後ブレーキもAE86から移植している。

若い頃に初めて買ったナルディのステアリングなど、個人的なお気に入りアイテムを随所に使うインテリア。水温、油温、油圧の三連メーターは往年の大森メーター製。その隣にエアリフトのエアサスコントローラーが備わるところがユニークだ。

SEグレードは本来デカバンパーと呼ばれる大きく前にせり出したバンパーが標準だが、それを他グレード用のスモールバンパーにコンバート。フロントエンブレムも本来は「SE」となるが、カローラのCを模ったエンブレムに交換するなど、70マニアにはググッと来るディテールアップも施してある。

全般的に70乗りにとってはド定番とも言えるメニューではあるが、ディテールの処理やひと味加えるアクセントは、さすがイナズマワークスと唸らせる内容。池田さん本人にとっては過去最も肩の力が抜けた製作車両だったのだが、2019年のWeKFestでは期せずしてベスト・オブ・ショーを獲得。本人が思う以上に周囲の評価だけが高くなる現象は、いつの時代も天性のアーティストが抱える悩みなのかもしれない。

Photo:Akio HIRANO Text:Hideo KOBAYASHI

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