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自衛隊新戦力図鑑

メガワット級のレーザーを開発!?

8月29日、防衛省は「令和8年度概算要求の概要」を公表した。そこには戦闘機や艦艇など新型装備の取得や、各種の能力強化に向けた取組みと並び、「ミサイル対処用レーザーシステムの研究」という一文が掲載された。それは以下のような内容だ。

「低コストでミサイルに対処するため、高効率なビーム集光技術や高度なターゲット追尾技術を備え、ドローン等対処用レーザーシステムの10倍以上の出力を可能とするメガワット級レーザーシステムを実現するために必要な技術の研究」

昨年公開された10キロワット級レーザーを装備する「車両搭載高出力レーザ実証装置」。小型のホビードローンへの迎撃を目的としている(写真/防衛装備庁)

現在、日本では防衛装備庁のもとで車載式10キロワット級と艦載型100キロワット級、2種類のレーザーシステムの研究・開発が進んでいる。10キロワット級は小型ホビードローンへの対処を、100キロワット級は軍用レベルの自爆型ドローンまでを含めた対処を想定したものだが、「メガワット級レーザー」とは、どのようなものだろうか?

アメリカ軍の「指向性エネルギー兵器ロードマップ」。100キロワット以下の「戦術用途:対無人機・ロケット弾・砲弾」、200~500キロワットの「戦術用途:対-対艦ミサイル・対地巡航ミサイル・航空機」、メガワット級の「戦略用途:対弾道弾・極超音速兵器」の三段階を記している。

アメリカ国防総省の資料によれば「100キロワット級は無人航空機システム(ドローン)、小型ボート、ロケット弾、砲弾に対処でき、300キロワット級は巡航ミサイルまで対処可能となる。1メガワット級は弾道弾や極超音速兵器をも無力化できる可能性がある」と説明している。つまり、概算要求の「ミサイル対処用レーザーシステム」とは、対弾道弾・極超音速兵器用の可能性がある。

念のため、弾道弾(弾道ミサイル)と巡航ミサイルについての基本的な解説をしておこう。まず、巡航ミサイルとは、エンジンと翼によって大気圏内を長距離水平飛行するミサイルで、たいていは亜音速で飛行する。発見さえできれば、迎撃はそれほど難しくない。 次に、弾道弾(弾道ミサイル)とは、ロケットによって宇宙空間に打ち上げられたのち、慣性によって落下してくるミサイルだ。落下速度がマッハ5~16に達するため、迎撃はとても難しい。さらに極超音速兵器は、最近登場した新型長距離兵器で、文字通り極超音速(マッハ5以上)で既存の迎撃ミサイルが対処しにくい高度・軌道を飛翔する。メガワット級レーザーが狙っているのは、この迎撃が難しい相手なのだ。

弾道弾迎撃に有利な点も多いが…

日本の周辺では北朝鮮や中国が、弾道弾と極超音速兵器の開発・配備を進めており、大きな脅威となっている。日本としては、新たな迎撃ミサイルの開発も進める一方で、多層的な防衛体制を築くため、レーザーを活用する考えなのだろう。

レーザーは弾道弾・極超音速兵器に対して有利な側面も多い。まず、レーザーは光速で目標に到達するため、迎撃ミサイルのように複雑な精密誘導・コース計算が必要ない。そして、電力供給さえあれば無尽蔵に射撃できるため理論上、弾切れの心配がない。また、電子機器のカタマリである迎撃ミサイルと違い、レーザーは一発あたりのコストが比較にならないほど安価だ。

一方で、レーザーには課題も多い。多くの方がご存じのように大気中の物質(水蒸気や砂塵など)で威力が減衰するので、天候等によって射程が変化してしまう。また、一定方向に照射し続けると、レーザーにより大気が加熱されて焦点が歪む「サーマル・ブルーミング」を生じる。これは出力が大きいほど影響が生じやすいため、落下してくる弾道弾を地表から正対して迎撃するような場合、問題となる可能性がある。そもそも、メガワット級のレーザーシステムの開発そのものが、カンタンな話ではない。

アメリカ海軍は60キロワット級で対ドローン用の「HELIOS(光学式眩惑・観測統合型高出力レーザー)」を一部の艦艇に搭載している。また、対艦ミサイルへの迎撃も可能な300キロワット級の開発も進めている(写真/アメリカ海軍)

このように利点は多くとも、課題も多い。前述したアメリカ国防総省の資料でも、弾道弾迎撃は「with Advanced Technology(さらなる技術発展により)」とある。日本にしても、まだまだ検討や技術検証の段階だろう(今回計上された予算額も10億円と少ない)。今後の展開に期待したいところだ。

防衛装備庁が以前より公開していた「高出力レーザのロードマップ」。そこには「ミサイル対処用レーザ装置」も含まれていたのだが、まさかメガワット級とは驚きだ(図/防衛装備庁)

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