AT車が性能面でMT車を凌駕した

MTは6速が主流であるのに対し、ATでは8速や10速といった多段化が進んでいる。こうしたレシオカバレッジの拡大は、近年主流となっている低回転/高トルク型エンジンの燃費性能向上に効果的だ。

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かつてのMT車は、燃費や加速性能でAT車に勝っていたが、現代のAT車は多段化やCVTなどの技術によって、燃費性能の差はほとんどなくなっている。

また、ロックアップ制御機構の進化やデュアルクラッチトランスミッションの登場により、動力伝達効率もMT車とほぼ変わらないうえ、変速速度においてはMT車を凌駕することも少なくない。

さらに現代のクルマは、衝突被害軽減ブレーキやアダプティブクルーズコントロールといった最新の運転支援システムが不可欠となっている。これらの仕組みはエンジンやブレーキ、駆動系などあらゆる部分を電子制御する必要があるためAT車との相性がよい。

ドライバーの操作が直接介入するMT車に、同様の組み込むにはシステムとの協調制御が必要になりAT車に比べて開発コストが引き上がる。MT車にはこうした最新技術を導入しづらいといった明確なデメリットがある。

快適性と利便性が求められる時代に

近年のMT車のクラッチペダルは軽くなっているが、それでも渋滞路での発進操作の連続は苦痛以外のなにものでもない。AT車ならブレーキペダルを踏み込む力を緩めるだけで発進できる。全車速追従式のACC搭載車ならアクセルやブレーキ操作すら不要だ。

MT車が減少したもうひとつの理由は、時代のニーズの変化にある。現代の自動車に求められるのは、運転のしやすさと快適性だ。

MT車のもっとも大きな特徴は、駆動力伝達を足で制御するクラッチペダルが備わる点と言えるだろう。とくに交通量の多い都市部では、頻繁なクラッチ操作は大きな負担となる。

それに対して、アクセルとブレーキの操作だけで運転できるAT車なら、渋滞時の疲労はMTとは比べ物ならないほど小さい。

また、AT限定免許の取得が主流となっている日本では、そもそもMT車を運転できるドライバーが少ないこともMTが減った大きな要因だ。

ATなら発進時のエンストの心配がなく、坂道発進も容易であるため初心者でも安心して運転できる。こうした事情もAT車の普及を大きく後押しした。

MT車に残された唯一のメリットは…

スポーツにはゲーム性が付きものだ。スポーツカーがなくならない限り、MT車も残り続けるだろう

MT車に実利的なメリットはもうないのだろうか。

かつては燃費の良さや単純な構造による安価な車両価格や維持費に加え、バッテリー上がりの際に「押しがけ始動」が可能であることなど、MT車を選ぶことには多くのメリットがあった。

しかし、現代のAT車は燃費性能でMT車に引けを取らず、車両価格にも大きな差はない。また、押しがけが可能なMT車もほとんどなくなっている。

維持費に関しては、AT車はトランスミッション本体の故障という偶発的かつ高額な出費のリスクを抱えているが、MT車も定期的なクラッチ交換という明確な出費があるため、メンテナンス費用については一概にどちらが安価であるとは断言できない。

すでにMT車に残されたメリットは、純粋に運転を楽しむことのみと言えるだろう。クラッチ操作による加速のダイレクト感や、自らの手でギアを操ることで得られるクルマとの一体感は、何物にも代えがたい魅力だ。

その代わりMT車は、良くも悪くもあらゆる操作がダイレクトに反映される。丁寧に乗れば、AT以上に変速ショックを少なくできるうえ、燃料代の節約やクラッチ交換時期を大きく伸ばすことも可能だ。その代わり、手荒に扱えば容易にクルマを壊してしまう。

MTの操作には運転者の技量が問われる。このように能動的にクルマと関われることが、MTが面白いと感じられる理由であり醍醐味だ。これは一種のゲーム性と呼べるかもしれない。

トヨタやマツダといった自動車メーカーは、スポーツカーの分野で今も積極的にMT車を設定している。MT車は今後さらに減少すると予想されるが、スポーツカーがなくならない限り、MT車が完全に消え去ることもないだろう。