2025年11月で生産終了、レクサス高級FRクーペの実力は?

かつてはクルマといえば3BOXのセダンタイプが代名詞的存在だったが今は昔。SUVがその座を取って代わり、今やスタンダードとなっているのは、多くの読者が知るところだろう。
片やセダンは凋落の一途をたどり、すっかり絶滅危惧種となったのだが、そのあおりを受けて、元々瀕死の状態だったものが一段と苦境に追い込まれたカテゴリーが存在する。それがセダンベースの2+2シータ−2ドアクーペだ。

2代目IS Cの実質的な後継車に位置付けられる、レクサスRCが日本で販売開始されたのは2014年10月。直接的には現行3代目ISとの共通点が多いものの、「レクサス専用」を謳うそのプラットフォームのルーツといえる4代目GSも当時は健在で、それらをベースにクーペ専用のパッケージが与えられた。
その後も毎年のように改良を積み重ねていったものの、寄る年波とカテゴリーそのものの衰退には抗えず。2025年1月に最終モデル「ファイナルエディション」を発売し、既存のカタログモデルの販売を終了するとともに、同年11月の生産終了を予告。2UR-GSE型5.0L V8エンジン+8速ATを搭載する超高性能モデル「RC F」は早々に受注を終えた。


今回テストしたのはこの「ファイナルエディション」へ切り替わる直前のカタログモデルで、8AR-FTS型2.0L直4ターボ+8速ATを搭載する「RC300」のスポーティグレード「Fスポーツ」。撮影車両は下記のメーカーオプション47万7400円分を装着し、車両本体価格634万4000円と合わせて682万1400円の仕様となっていた。
・特別塗装色ヒートブルーコントラストレイヤリング(16万5000円)
・トルセンLSD(4万4000円)
・三眼フルLEDヘッドランプ(7万7000円)
・“Fスポーツ”専用オレンジブレーキキャリパー(4万4000円)
・“Fスポーツ”専用ダークグレーヘアラインオーナメントパネル(−9万5700円)
・“マークレビンソン”プレミアムサラウンドサウンドシステム(24万3100円)



デビュー当時のRCの寸法を同じく3代目ISと比較すると、全幅は30mm広い1840mm、全高は35mm低い1395mm、ホイールベースは70mm短い2730mmとされ、旋回時の俊敏性と安定性向上が同時に図られている。その一方、全長はISよりもむしろ30mm長い4695mm(2019年10月のマイナーチェンジ以降は4700mm)。その30mm延長分+70mmのホイールベース短縮分、合わせて100mmは全てフロントオーバーハングの拡大に充てられている。
これらの結果生まれたのは、FRクーペらしい低くワイドで伸びやかかつ流麗なプロポーション。マイナーチェンジ前後を問わず、細部のデザインはやや要素が多いという印象を拭えないものの、全体的な造形は王道中の王道といえる、非常に好ましいものだ。


また、こうしたパッケージングの恩恵か、前後席ともシートサイズが大きく、身長174cm・座高90cmの筆者が後席に座っても望外に快適だったのもまた事実。頭上はリヤガラス、膝は前席背もたれの裏に触れるものの、窮屈さは見た目よりも遥かに感じられなかった。


それでいながら、その後席は6:4分割可倒式になっており、開口幅約850mmの完全なトランクスルーが可能。最大で約1800mmの奥行き(いずれも筆者実測)も得られるため、ゴルフやドライブ旅行のお供としても役立ちそうだ。

水平基調のインテリアは、適度な包まれ感がありながらも車両感覚は掴みやすい一方、やや統一感に欠けるデザインと質感、操作系には基本設計の古さが感じられる。とりわけインフォテインメント系は物理スイッチが多いながらタッチパッド式の「リモートタッチ」ともども直感的に操作しにくく、近年のトヨタブランド各車にも通じる操作性の好みの分かれる部分は、この頃から顕在化し始めていたのだろうかと邪推せざるを得ない。

乗り心地は硬め、高級車というよりスポーツカーらしい乗り味だが...

では、実際に走ってみるとどうか。まず町中の低速域では、路面の凹凸に応じて左右の揺れは出るものの、ドライバーにとって辛うじて不快ではないレベルに抑えられている。
RCに採用されている前述の「レクサス専用プラットフォーム」、その基本設計は「ゼロクラウン」こと12代目トヨタ・クラウンまでさかのぼるため、この左右の揺れが悪癖としてどの程度残っているか、大きな懸念材料だったのだが、それは杞憂に過ぎなかった。
しかし、ナビ連動電子制御ダンパー「NAVI・AI-AVS」が全車標準装備されているとはいえ、フロントに235/40R19 92Y、リヤに265/35R19 94Yのブリヂストン・ポテンザS001Lというファットなスポーツタイヤを履く「Fスポーツ」の乗り心地は相応に硬め。細かな凹凸は綺麗にいなすものの、大きな凹凸を乗り越えた際の突き上げは強く、またひび割れた路面を走ればロードノイズも少なくない。高級車というよりスポーツカーらしい乗り味と表現した方がより正確であろう。

町乗りもそこそこに首都高速道路へ乗ると、やはりこのクルマの本領は高速域にあるのだと実感させられる。RC300が搭載する8AR-FTS型2.0L直4ターボは、最高出力が245ps/5200〜5800pm、最大トルクが350Nm/1650〜4400rpmというカタログスペックだが、ターボラグは意外なほど大きく、アクセルペダルを踏み込んだ直後は加速がもたつきがちだ。しかし、ひとたびタービンが回り始めると、車重1700kgの決して軽くはないボディを力強く加速させ、かつその際のサウンドも決して下品ではないのが好印象だった。


一方、前述の「NAVI・AI-AVS」は、ドライブモードが「SPORT S+」の際のみ硬くなり、それ以外では標準的なセットアップになるのだが、後者のモードでは速度域が上がるにつれ、減衰力の不足からくる揺れの収まりの悪さが気になってくる。そこで「SPORT S+」に切り替えれば乗り心地はやはり硬くなるものの、揺れが素早く収まることで不快感はむしろ減り、車体の安定性も高まる。またアクセルの踏み込みが浅ければいたずらに低いギヤを選ばず燃費優先の制御を行うため、積極的に使うのをおすすめしたい。


そして、箱根のワインディングに差し掛かると、その本質は高級車であることが、図らずも露呈してしまう。ほどほどのペースで流している分には快適だが、タイトコーナーを攻めようとすれば、やや深めのロール、強めのアンダーステア傾向とともに、クルマの側から明確に「このクルマは重いのでそんなに攻めないで下さい」とインフォメーションを伝えてくるのだ。
筆者は試乗中、その挙動を体感して「車重は1700kgくらいか…?」と呟いていたが、試乗後に車検証をチェックすると、そこに記載されていた数字は1680kgだった。ドライバーにその質量を正確に伝え、危険を事前に察知させるインフォメーション能力の高さには、舌を巻かざるを得ない。

絶滅危機カテゴリーを生き残ったライバルは極めて強力
では、「モデル末期のレクサスRCは“買い”か“待ち”か?」、その答えはズバリ“待ち”だ。
Dセグメントの高級FRクーペは今や絶対的な車種数が少なく、まさに絶滅の危機に瀕しているのだが、生き残っているライバルが極めて強力だ。一つはメルセデス・ベンツCLEクーペ、そしてもう一つはBMW4シリーズクーペである。


CLEクーペは2.0L直4ターボを搭載する最も安価な「CLE 200クーペスポーツスタイル」でも車両本体価格が830万円と高価だが、BMW4シリーズクーペは同じく2.0L直4ターボを搭載する「420i Mスポーツ」が714万円と、現在購入可能な「RC300“ファイナルエディション”」666万円との価格差は48万円にまで縮まる。

それでも装備の充実度ではRCの方が上回るものの、「ファイナルエディション」は事実上の生産調整モデルのため、従来のカタログモデルのように内装を自由に選ぶことができない。プレミアムブランドの高級車で、内装を自由に選べないのは、オーナーが大枚をはたいて買う喜びの大部分を少なからず損ねているのは言うまでもない。

そして、4シリーズクーペは車重がRCより130kg軽く(420i MスポーツとRC300との比較)、走りの質感やトータルバランスでも4シリーズが上回っている。
現行2代目4シリーズの本国デビューは2020年6月。2024年6月には日本仕様もマイナーチェンジを受けているため、決して最新モデルとは言えないが、それでもRCと4シリーズクーペとの設計年次の差は至る所で顕在化しているのが実情だ。
4シリーズクーペは巨大なキドニーグリルをはじめとしてデザイン要素が非常に多いものの、車両全体のプロポーションは伸びやかで美しい。このBMWのデザインがどうしても気に入らないのでない限り、敢えて4シリーズクーペを選ばずRCを選ぶ理由は少ないように思える。
だが裏を返せば、RCのこのデザインが好き、レクサスが好き、国産車の高級クーペに乗りたい、そんな好みと思い入れこそ最優先事項というのであれば、それを是が非でも止めるほどの理由もない。
そして、RC生産終了の時は近く、次期RCは発売されるとしても遥か先になる可能性が極めて高い。4シリーズに試乗せず、今すぐRCを購入すれば、後悔することはないはずだ。
車両スペック
■レクサスRC300“Fスポーツ”(FR)
全長×全幅×全高:4700×1840×1395mm
ホイールベース:2730mm
車両重量:1680kg
エンジン形式:直列4気筒DOHCターボ
総排気量:1998cc
最高出力:180kW(245ps)/5200-5800rpm
最大トルク:350Nm/1650-4400rpm
トランスミッション:8速AT
サスペンション形式 前/後:ダブルウィッシュボーン/マルチリンク
ブレーキ 前後:ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ 前/後:235/40R19 92Y/265/35R19 94Y
乗車定員:4名
WLTCモード燃費:12.0km/L
市街地モード燃費:8.7km/L
郊外モード燃費:11.9km/L
高速道路モード燃費:14.5km/L
車両価格:634万4000円