「可能性にかけていこう」がコンセプトの多目的次世代アリーナが10月3日開業

2025年9月15日、新たなスポーツ・エンターテインメントの拠点「TOYOTA ARENA TOKYO(トヨタアリーナ東京)」の開業記念式典が開催された。式典には東京都知事の小池百合子氏、ジャパン・プロフェッショナル・バスケットボールリーグ代表理事CEOの島田慎二氏、トヨタアルバルク東京社長の林邦彦氏、そしてトヨタ自動車会長の豊田章男氏らが登壇し、それぞれの言葉で臨海副都心に開業する新アリーナの意義を語った。

TOYOTA ARENA TOKYO
TOYOTA ARENA TOKYO

冒頭、小池知事は「東京2020大会の素晴らしいレガシーを引き継ぎ、この臨海副都心で再び花が開こうとしています」と切り出し、3×3バスケットボールをはじめ多様な競技の舞台として世界の記憶に刻まれた街に、新たにアリーナが誕生したことを「心から喜ばしく思います」と語った。さらに「この場所は車いすバスケットボールなどパラスポーツを含む幅広いスポーツの活動拠点となり、多くの方々にスポーツの価値と素晴らしさを届けることを期待しています」と強調した。

小池百合子 東京都知事

続いて島田CEOは、この日がBリーグ設立10周年にあたることを紹介。「この節目に世界でもトップクラスのアリーナが誕生したことに縁を感じます」と述べた。特徴として「国内初のリボンビジョン、巨大なセンターハングビジョン、そしてオーバル型構造による見切れの少ない観戦環境」を挙げ、「何よりも“ファンの体験を高めたい”という情熱が随所に込められています」と熱く語った。

島田慎二 Bリーグ チェアマン

林社長は、アルバルク東京が長年「真のホームアリーナ」を持てず苦労した経緯を振り返り、「地域と一体になれる場所を持つことがクラブにとってどれほど大切かを痛感しました」と明かした。その上で「歌舞伎の舞台のように、役者(チーム)と舞台(アリーナ)が一体化することで価値が高まります。トヨタアリーナ東京も、チームと施設の一体経営で新しい価値を生み出していきたい」と語った。さらにスポーツだけでなく音楽や地域コミュニティをつなぐ拠点とする構想を紹介。「世界でも権威あるLEED認証ゴールド取得を目指し、再エネ活用やごみの全量リサイクルなどサステナブルな運営にも挑戦します」と力を込めた。

林 邦彦 トヨタアルバルク東京社長

テープカットでは、トヨタが開発した次世代モビリティ「e-Palette(イーパレット)」がアリーナに現れ、中から財満いずみ選手(車いすバスケットボール選手/パラリンピアン)、TAKUMI選手(D.LEAGUE CyberAgent Legit所属)、ザック・バランスキー選手(B.LEAGUE アルバルク東京所属)が登場した。豊田会長は「発表から7年、ついに今日(9月15日)、発売することになりました」と笑顔を見せ、「アルファードほどのサイズに小型化し、運転席の位置も(中央に)変わりました。まずは安全第一で使っていただき、不便な点を皆さんと改善していきたい」と述べた。

テープカットの様子

冒頭の挨拶の中で、林社長は臨海副都心という立地に言及。「この街には大きな可能性がある一方で、事業者の方々と話すと“エリア外とのアクセス性が課題”という声が多い。魅力を輝かせるには輸送能力の向上が不可欠であり、その支えとしてモビリティの力が欠かせない」と語っていた。そうした課題を解決するため、トヨタグループは今年度から東京都のコミュニティ公募事業に参画し、プロムナード公園でのモビリティ事業に挑戦するという。その新たなモビリティサービスの中核を担うのが、このイーパレットというわけだ。また、イーパレットは「トヨタアリーナ東京」内では、物品等を販売する移動型店舗としても利用される。

e-Palette

若き日の豊田章男会長がフィールドホッケーに汗を流す写真も

開業式典の後半は雰囲気を変え、アスリートやパフォーマーによるトークショーが始まった。テーマは「アスリートにとって戦う場所が持つ意味」。コートには室伏広治理スポーツ庁長官のほか、テープカットを行ったD.LEAGUEダンサーのTAKUMI、車いすバスケ日本代表の財満いずみ選手、アルバルク東京のバランスキー選手が並ぶ。そしてコートで呼び止められた豊田会長も、そのまま残って参加することに。司会者が「会長ご自身も、アスリートとしていろいろ話を聞かせてください」と振ると、豊田会長は笑みを浮かべてこう答えた。

「モータースポーツをアスリートと呼んでいただけるなら、今も現役ドライバーです。特に水素のクルマ。どうしても“水素=爆発”というイメージがありますが、私自身が運転することで未来のエネルギーとしての姿を伝えたい。その思いで今もステアリングを握っています」

豊田章男 トヨタ自動車会長/トヨタ不動産会長

そして、会場のスクリーンには、豊田会長の若き日の写真が映し出された。慶應義塾高校時代、フィールドホッケーに打ち込んでいる姿だ。実は豊田会長は、フィールドホッケーの日本代表に選ばれたこともあるのだ。セピア色の写真を前に本人は「これは大学2年生の時かな……いや、高校2年生ですね」と照れ笑い。「3年生の卒業アルバムに2年生の自分が大きく載ってしまって、すごく叱られた記憶がある」と当時を振り返ると、会場からも笑いが起きた。

アスリートにとって「戦う場所」とは?

こうしたやりとりで会場の空気が和んだ後、本題となるテーマ「アスリートにとって戦う場所が持つ意味」が示され、ゲストアスリートたちとの本格的なトークが始まった。

司会が問いかけると、豊田会長は真っ先に「感動の場」と答えた。「戦う場所は、ぎりぎりまで努力したアスリートが自分を超える瞬間を見せる舞台。その姿に観客は自分を重ねて応援し、感動が生まれる。戦いの場は美しさを放つんです」

続いてTAKUMIは『感動を生む』と記したフリップを掲げた。「僕がイギリスのオーディション番組に出たとき、会場全体からスタンディングオベーションを受けました。あの瞬間、ダンスを一生続けたいと思った。観客と一体になるからこそ、会場はアスリートにとって忘れられない景色になるんです」

TAKUMI選手(D.LEAGUE CyberAgent Legit所属)
音楽に合わせてダンスパフォーマンスを披露してくれたTAKUMI選手。

財満選手は『熱狂』の二文字を示した。「Bリーグの試合を見に行ったとき、観客の熱気に憧れました。パラリンピックは無観客で悔しかったけど、天皇杯で初めて大勢の観客に後押しされたとき、背中を押される力を実感しました。だから、熱狂してもらえる選手であり続けたい」。室伏長官も「観客と舞台とパフォーマーが一体となって初めて感動は生まれる。まさに“一座建立”ですね」とうなずいた。

財満いずみ選手(車いすバスケットボール選手/パラリンピアン)
財満選手の華麗なドリブルのデモンストレーション。

最後にバランスキー選手は『キャンバス』と書かれたフリップを掲げた。「バスケの試合は毎日が白紙のキャンバスのようなもの。そこに選手と観客でストーリーを描いていくんです」と述べると、司会が「ここトヨタアリーナ東京という真っ白なキャンバスに、10月3日からどんな物語が描かれるか楽しみですね」と応えた。実はバランスキー選手、トークショーの前に行われたパフォーマンスでは残念ながらスリーポイントシュートを失敗してしまったのだが、「僕がシュートを外したことも、10月3日には白紙になります」と、座布団1枚な答えで観客の笑いを誘った。

ザック・バランスキー選手(B.LEAGUE アルバルク東京所属)
バランスキー選手のスリーポイントシュート! が、ボールは無情にもリングに弾かれてしまった…。

トークの話題はさらに広がった。豊田会長は「来年はここでミュージックアワードジャパンを開催する予定」と発表し、「アスリートもダンサーもミュージシャンも“ここでやりたい”と思える場に育てたい」と語った。また「相撲もやります。白鵬杯をこのアリーナで」と明かし、会場を驚かせた。「相撲は世界150か国で競技人口がある。日本発祥の国技を世界へ広げる舞台として、この場所を活用したい」と熱を込める。

さまざまな人に観戦しもらうため、多様なシートを用意する

さらに話題はアリーナ内の上部に設けられた特別な部屋に及んだ。そこは、豊田会長がプロデュースした「オーナールーム」だ。

「私自身、トヨタのいろんな運動部を応援に行きますが、最初は“役員席”が用意されていた。でもそれをやめて、一般の従業員と同じ応援席に座ったんです。そうしたら、野球部の応援にバスケ部が来たり、横のつながりが生まれていった。やっぱり“同じ場所で応援する”のは大事なんですよね」

さらに豊田会長はアメリカで体験した大リーグ観戦を例に挙げた。「満員で席がないと言われたのに、オーナールームが用意された。『これがあれば特別なお客様を迎えられる』と感じました。日本にはそういう仕組みがまだ少ない。だから今回、このアリーナにはオーナールームをつくったんです」

ただし、その狙いは単なるVIP専用ではない。「席には限りがあります。だからこそ余裕のある方には高い席に座っていただき、その分、未来を担う若者や、これから競技や音楽に興味を持つ人たちがアフォーダブルに入れる席も残すべき。オポチュニティはフェアでなくてはならない。そういう多様な席のバリエーションがあるアリーナにしたいんです」と豊田会長。室伏長官も「スポーツは見てもらわなければ理解されない。どんな人でも楽しめる環境を用意することが重要」とその考えに賛同した。

最後に室伏長官が「今日がスタート。この場から世界に感動を届けてほしい」とアスリートを激励し、豊田会長も「皆さんと一緒にこの場所を育て、熱狂を描いていきたい」と呼びかけて締めくくった。

トヨタアリーナ東京の開業日は10月3日、アルバルク東京のホーム開幕戦が行われる予定だ。

ダイキンの屋外用エアコン「OUTER TOWER」を、トヨタMIRAIの電力で稼働させるデモも実施されていた。

トヨタがつくったアリーナは見どころだらけ! TOYOTA ARENA TOKYO(トヨタアリーナ東京)が10月3日に青海でオープン

かつて「メガウェブ」があったお台場の地に、トヨタグループによる新拠点「TOYOTA ARENA TOKYO(トヨタアリーナ東京)」が誕生する。スポーツと音楽、食やホスピタリティを融合させた最新鋭のアリーナは、バスケットボール界のみならず、都市型エンターテインメントの新時代を切り拓く注目の施設となりそうだ。 TEXT:MotorFan.jp PHOTO:TOYOTA ARENA TOKYO/MotorFan.jp