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自衛隊新戦力図鑑

機動展開に適した小型の対艦ミサイル車両

「レゾリュート・ドラゴン(不屈の龍)」は陸上自衛隊とアメリカ海兵隊を主体として、日米共同による島嶼防衛作戦を演練する年次演習で、今年は5回目にあたる。今回、アメリカ軍は対中国を想定したふたつの新装備を投入した。

ひとつが海兵隊の無人対艦ミサイル車両「NMESIS(海軍・海兵隊遠征型船舶阻止システム)」だ。アメリカ軍で広く使用されている汎用車両JLTVをベースに2基の対艦ミサイル発射機を搭載したもの。射程300kmのノルウェー・コングスベルグ社製対艦ミサイル「NSM(海軍攻撃ミサイル)」を搭載する。今年5月に沖縄に配備されたばかりだ。

ミサイルやロケットの搭載を前提としてJLTVを無人化した「ROGUE-Fires」に、NSM用ランチャーを搭載したNMESIS。自走式の地対艦ミサイル・システムとしては、他に例を見ないほど小型な車両である(写真/筆者)

海兵隊は対中国の戦い、つまり西太平洋の戦いにおいて、点在する島々や重要な海峡付近に対艦ミサイルを機動的に展開させ、敵の艦艇の行動を牽制・抑止する一方、味方の艦艇を支援する作戦構想を描いている。その重要なアセットとして開発されたのが、このNMESISだ。

島嶼部での迅速な展開・撤収のためには、固定翼輸送機や大型ヘリによる空輸が不可欠であり、NMESISは運転席をなくした無人車両とすることで空輸可能なサイズに小型・軽量化している。オペレーターは遠隔で移動や射撃を操作し、また移動時には有人の先導車両に追随して走行する。今回の演習では石垣島に展開し、陸上自衛隊の12式地対艦誘導弾とともに共同対艦訓練を実施している。

遠隔操作のほか、有線操作モードがあり基地内などで使用する。操作はゲーム機のようなコントローラーで行なう(写真/アメリカ海兵隊)

敵の拠点や艦艇を叩く移動式長射程ミサイル

もうひとつの新装備が、陸軍の中距離ミサイル・システム「タイフォン」だ。大型トレーラー内部に起倒式の4連装ランチャーを備えており、射程1600kmの巡航ミサイル「トマホーク」、または多用途対空ミサイル「SM-6」を搭載できる。今回の訓練のため、日本に初めて展開した。

岩国基地に展開した陸軍の中距離ミサイル・システム「タイフォン」。「Typhon」はギリシア神話の怪物のこと(日本では「テュポン」や「テュポーン」と呼ばれる)。ランチャーは、艦艇に搭載されているMk41垂直発射装置の改良型であるMk70(写真/アメリカ陸軍)

トマホークは最新型のブロックVaを装備し、対地・対艦両方の能力を持つ。また、SM-6は一般的に艦対空ミサイルとして知られているが、タイフォンには対空目標を捉える能力はないため、対艦・対地攻撃に用いられる。実際、今年6月にオーストラリアで実施された「タリズマン・セイバー25」演習では、タイフォンから発射されたSM-6が洋上の標的艦を攻撃し、見事に撃沈している。

タリズマン・セイバー演習でSM-6ミサイルを発射するタイフォン(写真/アメリカ陸軍)

陸軍は、1980年代に地上発射式トマホーク「BGM-109G」を導入したことがあったが、米ソ(米露)のあいだで地上発射式中距離ミサイル(射程500~5500km)を相互に全廃する条約が結ばれたことから、以降は長射程ミサイルを持っていなかった。しかし近年、ロシアの違反行為が原因で同条約が破棄され、さらに中国が多数の中距離ミサイルを開発・配備していることから、陸軍は再び長射程打撃能力の獲得に動いた。射程の異なる3種類のミサイルが計画され、タイフォンはその一つにあたる。

1980年代に配備されていた地上発射式トマホークであるBGM-109G。しかし、射程500~5500kmの地上発射式ミサイル(核弾頭・通常弾頭とわず)の全廃を約した中距離核戦略全廃条約に基づき廃止され、以降のアメリカ陸軍は500km以下の短距離ミサイルのみを(写真/米国立公文書館)

さて、NMESISは今年5月にフィリピンで、タイフォンは前述したように6月にオーストラリアで演習に参加しており、両者とも西太平洋地域での訓練参加が続いている。これらミサイル・システムの、この地域における展開能力や同盟国との連携能力向上を着実に進めていることがわかる。また、こうした能力を示すことは、中国やロシア、北朝鮮といった国々に対する抑止力としての意味も大きいだろう。

陸上自衛隊:長距離阻止砲撃! 遥か遠方の目標を粉砕する地対地ロケット弾「多連装ロケットシステムMLRS」|Motor-Fan[モーターファン]

陸上自衛隊の火砲・ミサイル部隊である野戦特科職種が装備する長距離砲撃装備が「多連装ロケットシステムMLRS」だ。当初、日産がライセンス生産していたMLRS。日産が軍事部門が閉じたあとは、IHIエアロスペースが引き継ぎ、生産を担当した。TEXT&PHOTO◎貝方士英樹(KAIHOSHI Hideki)

https://car.motor-fan.jp/article/10017890

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