日本でも自然災害が頻発する今、クロカン四駆の存在感が強まる
昨今の気象変化に伴い、日本でも自然災害の激甚化・頻発化が顕著になっている。そんな状況の中で、改めて注目されているのが「クロスカントリー4WD」、通称クロカン四駆だ。

メディアで流される自然災害の映像の中には、道路冠水により走行が困難だったり、水没した車両の様子などがある。大方、大きな被害を被りやすいのは、最低地上高の低いフツーのクルマ。SUVは比較的こうした状況でも対応できるが、あまりに路上冠水が酷かったり、大量の土砂が堆積したような場合は、やはり走行不能に陥ることがある。
つい先だって発生した三重県四日市の地下駐車場水没事故においても、多数のクルマが動かすことさえままならない中で、ジムニーは車内への浸水こそあれ、ほぼ無傷で自力脱出できたという。
苛酷な状況でも、比較的“通常運行状態”なのがクロカン四駆。なぜクロカン四駆が、自然災害に強いと言われるのか、その理由を改めて検証しよう。
第二次世界大戦中に活躍したジープ(ウイリス「MB」/フォード「GPW」)が、すべてのクロカン四駆の源流であることは周知のとおりだ。このクルマは、戦場での迅速な移動を目的として多目的車で、当時ではスーパーカーであった。

四輪駆動という動力伝達方式により、未舗装路や泥濘路、そしてオフロードを走ることができる。さらに、サブトランスファー(副変速機)を採用したことにより、自分より遙かに大きな車両を牽引することもできる。場合によってはタイヤを車輪に交換して、列車を牽引することさえあった。
戦場で実証された小型四輪駆動車のマルチパーパスぶりは、戦後に民間用車両にそのまま踏襲された。トヨタ「ランドクルーザー」、日産「パトロール」、三菱「パジェロ」、スズキ「ジムニー」といったモデルは、大なり小なりジープの影響を受けてつくられたのである。
過酷な条件下でタフさが際立つ堅牢なラダーフレーム
では、クロカン4WDとSUVの違いは何なのか。まずクロカン4WDは一般的なクルマの構造「モノコック」ではなく、鋼鉄製のハシゴ形フレームの上にアッパーボディを載せた「ラダーフレーム(ボディ・オン・フレームとも)構造」を採用している。

この構造のメリットは多い。まず鉄板を折り畳んで造るモノコックボディに比べると、路面から伝わる強い力に対して強いということだ。リジッドアクスル式サスペンションと相まって(後述)、その衝撃をラダーフレームで分散させるため、ボディまで力が伝わりにくい。そのため、苛酷な状況下を走り続けていてもボディが歪むリスクが少なく、車両自体の耐久性も高いわけだ。
リスクヘッジという点でも、ラダーフレーム構造は優秀だ。例えば、走行中に車両前部を激しくぶつけたとする。一般的なクルマはこのような時、大抵はエンジンルーム、フロア、ボディサイドに大きなダメージを受けて走行不能に陥るだろう。だがラダーフレームを有していると、こうした前後、サイド、上方からの衝撃力でボディが大きく歪んだとしても、フレームから下のダメージが少なければ自走が可能だったりする。
頑丈なだけでなく、荒れた路面での優れた路面追従性も武器
こうした頑丈さを支えているファクターは、リジッドアクスル式サスペンションにもある。ホーシングという鋼鉄製のケースの中に車軸やディファレンシャルギアを内包するリジッドアクスルは、路面からの強い衝撃を吸収するだけでなく、岩などに直接ヒットした場合でも頑丈さを見せる。


さて、優れた操縦安定性や快適な乗り心地を実現する独立懸架式サスペンション。理想的なジオメトリーを実現する形式だが、構成部品が多く、加えて強い衝撃を受けると意外と簡単にダメージを受けてしまう。だがリジッドアクスル式は、非常に堅牢だ。また構造がシンプルなので、メンテナンスや修理が容易だというのも利点と言える。
さらに、アームの長さしかトラベル量が確保できない独立懸架式と違い、リジッドアクスル式はデフを支点とした車軸の長さ分だけ脚が動く。つまり、荒れた路面でも優れた路面追従性を発揮することができるわけだ。
では、サブトランスファー(副変速機)はどんな優位性を発揮するのか。誤解されがちだが、サブトランスファーはパートタイム4WD方式だが有するだけではない。ランドクルーザー250や300はフルタイム4WDだが、ローレンジに切り替えることができる機構を持つ。


サブトランスファーをローレンジにシフトすると、ハイレンジよりもギア比を下げることができる。これにより、エンジンが発生する力を下がったギア比の分だけ強く増幅できるわけだ。この強い力は、泥濘地や岩場での走破力に使うというのが日本では一般的だが、本来は牽引力のためのものだ。
第二次世界大戦でジープは、走行不能や故障した大型車両やハーフトラックなどを軽々と牽引してみせた。数年前に動画サイトで話題になったが、大雪でスタックする10tトラックを、小さなジムニーが牽引する様子は、世界中に衝撃を与えた。
サブトランスファーにニュートラルがある場合は、PTO機構によってエンジンの力をウインチなどに転用することも可能だ。これによって、木材運搬用のリフトを動かしたり、地引き網を引いたりといった使い方をするクロカン四駆もあった。
あらゆる状況でも生き残れる。そんな絶大な信頼感がクロカン4WDの魅力
こうしたクロカン四駆の持つ独特の構造こそが、災害に強いと言われる由縁だ。平均的に200mm以上のロードクリアランスがあれば、路上に散らばる瓦礫をものともしないし、仮に足まわりやボディアンダー、ボディにヒットしても自走不能に陥るまでには至らない。
また限度はあるが、4WD+ローレンジを使えば瓦礫や冠水、泥の中を走破することができる。水中走行に関しても、エンジンがラダーフレームの上、高めにマウントされているため、エンジンに水を吸わない程度の水位であれば走行が可能だ。ディーゼルエンジンに関しては、ウォーターハンマー現象の恐れがあるため、それを留意して走る必要があるが。

クロカン4WDは、カスタムをすることでさらに災害に強い車両にすることができる。日常ではなかなかその凄さを体感することはできないが、ランドクルーザーでいうところの「生きて帰ってこられるクルマ」として設計されている。現在国内で売られているクロカン4WDで優劣はつけがたいが、あえてナンバー1を決めるならジムニーかもしれない。2位はランドクルーザー70だろう。果たして、ランドクルーザーFJの走破性能はどれほどのものなのかも興味がそそられるところだ。
ひょっとすると、クロカン4WDに乗る多くのオーナーは、そのスタイルを優先してチョイスしたのかもしれない。しかし、実は愛車が凄い素性の持ち主だということを実感すれば、さらに愛着が増すことと思う。