エンジンは380馬力のブーストアップ仕様!

LINKフルコン制御でハイレスポンスを実現

JAF四国ジムカーナ選手権で何度もシリーズチャンピオンを獲得してきた土居さんが代表を務めるだけに、高知のスペックDにはジムカーナ参戦中のお客さんが数多く集まる。大半を占めるのは、土居さん自身も長年乗ってきたことで勘所を知り尽くしているホンダ車だが、面倒を見ている車種はメーカーを問わず幅広い。

そんな中、「Z32で走っとるヤツがおるんやけど、どうやろ?」と電話口の向こうで話す土居さん。今まで遭遇したことがないジムカーナ仕様となれば興味をそそられないわけがない。こうして9ヵ月ぶりに高知へ向かうことにした。

早速、オーナーの岡村さんに話を聞いてみる。

「始めは2by2のNAでジムカーナに参戦してたんですが、最終型2シーターのノーマルルーフという珍しい個体が出てきたので即買いしました。ただ、前をぶつけていて。2by2からフロント周りをごっそり移植したんです。それと、エンジンも元々のVG30DEからVG30DETTに載せ換えました。ジムカーナを戦うのにNAじゃ話になりませんからね」とのこと。

シャシーにおけるNAモデルとターボモデルの大きな違いはHICASの有無だ。HICASは限界域でのシビアな挙動やトラブルなどを招く可能性が高く、最終的にはキャンセルしなければならない手間も考えると、ジムカーナに適するのはむしろHICASレスのNAモデル。それにターボエンジンを搭載すれば、より戦闘力に優れたマシンとなることは明らかだ。

エンジンは基本的にノーマル。ヘッドガスケットをメタル製に交換して最大ブースト圧を1・2kg/cm2に設定し、380psを発揮する。また、制御系は5年ほど前にLINK G4プラスに変更。きめ細かいセッティングによってエンジンブローを防ぐと同時に、大幅なレスポンスアップも実現している。

また、ラジエターはアルミ3層、インタークーラーはHKS純正置き換えタイプに交換して冷却系を強化。狭いエンジンルームにV6ターボを押し込めたZ32特有のクーリング問題はダクト付きボンネットで対策している。ちなみに、ボンネットもフロントバンパーもFRP製とされ、軽量化が図られる。

オートスタッフの汎用砲弾型サイレンサーを使ってワンオフされたチタンマフラー。メインパイプ径は80φとされる。「余りにも爆音すぎるのでジュラテックのインナーサイレンサーを追加してます」と岡村さん。

アンダーコートまで剥がされたフロアが競技車両の証。ディープコーンタイプのナルディクラシックと、ソフトウレタン製のニスモGTシフトノブで操作性を高める。ステアリングコラムにはGReddyインテリジェントインフォメータータッチが装着され、油温と油圧を表示。ダッシュボード中央にはデフィー製ブースト計、オートゲージ製デジタル式水温計、イノベート製A/F計が並ぶ。

駆動系はカッパーシングルクラッチ、機械式LSD共にクスコ製を投入。クラッチは400psを許容しながら半クラッチ操作性に優れ、ストリートでも扱い易い特性を見せる。イニシャルトルクを高めにセットした機械式LSDはトラクションを最優先したセットアップだ。

運転席はブリッド製フルバケの中で最も高いホールド性を誇ったジーグⅢを装着。ローマックスシステムによりポジションも可能な限り低められ、横にも前後にも大きなGが掛かるジムカーナで的確なドライビングをサポートする。

足回りにセットされるのはオーリンズ車高調。フロント12kg/mm、リヤ8kg/mmのスプリングが組まれ、ステアリング操作初期のレスポンスを重視したセッティングがジムカーナ仕様らしい。併せて、前後ブレーキはBCNR33純正ブレンボ製キャリパーを流用して大容量化。パッドにはウインマックスを組み合わせ、荷重移動のコントロール性を高める。

この原稿を書いている8月上旬の時点で全7戦中、第5戦までを終えた今シーズンのJAF四国ジムカーナ選手権。岡村さんは第2戦を除き、車検&ナンバー付きの後輪駆動車で争われるR3クラスに参戦。コースによってはZN6やZC6、AW11を上回り、AP1やNA1に迫るタイムを記録している。

「2by2に比べて2シーターの方がホイールベースは短いですけど、走りで大きな違いを感じることはありませんね」。

もちろん、タイムを左右する要素として、ドライバーの技量やコースに対する慣れはあるだろう。それでも、そんなイメージが全くなかったZ32が、ジムカーナで健闘しているのは痛快以外の何物でもない。ステージに合わせてセットアップを詰めれば速さを引き出せる。その舞台がジムカーナであっても、だ。今まで知らなかったZ32の新たな一面。今回、それを見た気がした。

●TEXT&PHOTO:廣嶋健太郎(Kentaro HIROSHIMA)

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