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自衛隊新戦力図鑑防空兵器を持っていなかった海兵隊
9月11日から25日の日程で実施された日米共同の大規模島嶼防衛訓練「レゾリュート・ドラゴン25」において、アメリカ海兵隊が新型無人対艦システム「NMESIS」を石垣島に投入したことは、先週の記事で紹介した。このNMESISを守るため、一緒に展開したのが、こちらも新型の防空車両「MADIS(海兵防空統合システム)」だ。汎用車両JLTVに、30mm機関砲塔など対空兵装を搭載したもので、2024年から本格的に配備されている。
さて、一見するとあまり“新兵器”感は無いかもしれないが、そもそも海兵隊は防空兵器というものを、ほとんど失っていた! MADISは海兵隊にとって、実に20年ぶりとなる歴史的な防空兵器なのだ。

たとえば陸上自衛隊の場合、中距離-短距離-近距離という三層の防空システムを配備しているが、海兵隊は冷戦後の1990年代に中距離防空システム(MIM-23 ホーク)の部隊を解体し、続いて2000年代には短-近距離防空システム(AN/TWQ-1 アヴェンジャー)も全廃したことで、地上部隊が持つ防空装備は、個人携行式ミサイルのみとなっていた(こうした野戦防空軽視の傾向は陸軍もほぼ同様)。

こうなったのは、小規模紛争や対テロ戦争など、ロクな航空戦力・長射程ミサイルを持たない(持てない)敵との戦いが続いたことが大きな理由だ。しかし、2010年代後半から中国やロシアといった近代的で強力な兵器を持った国の脅威が復活し、さらにドローンという新しい航空兵器が登場したことで、状況が大きく変化した。
お互いに能力を補完する2両ペアで運用
MADISは短-近距離の防空システムであり、固定翼航空機、ヘリコプター、そしてドローンへの対処を目的としている。「Mk1」と「Mk2」の2両で構成されるシステムで、それぞれが補完的な能力を持っている。

Mk1・Mk2ともに、30mm機関砲を備えたコングスベルグ社(ノルウェー)製の遠隔操作銃塔「プロテクターRS6」を搭載している。Mk1は、銃塔右側にスティンガー対空ミサイルを装備し、物理攻撃(キネティック・キル)能力が高い。2両ペアのうち、Mk1は主に「攻撃」を担当する。

Mk2は主に「指揮」を担当する車両で、車体の四面にRPS-62 aCHR(先進的小型半球レーダー)を装備し、360度・半球型のエリアをカバーする。索敵範囲は、有人航空機なら20km程度、ごく小さなドローンでも3kmだという。こうしたセンサー情報は共通航空指揮統制システム(CAC2S)を介してMk1とシームレスに共有される。また、Mk2は「電子戦」能力を持ち、ドローンに対してジャミング(通信妨害)やスプーフィング(GPS電波の欺瞞)が可能とも言われている。銃塔にはMk1と異なるアンテナなどが確認できる。

さて、「わざわざ2両に分けず、1両にまとめてしまえばいいのでは」と思うかもしれない。しかし、多様な対空機能をひとつにまとめると、必然的に車両が大型化し、移動や輸送が制限されてしまう。迅速な機動作戦を実行する海兵隊にとって、小型・軽量であることが重要なのだ。

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