テクノロジーショーケースとしての役割は不変

1970年代以前に生まれた世代にとって、とても懐かしい名前のモデルがホンダから誕生した。言うまでもないだろう、それが「プレリュード」だ。日本経済にとっての全盛期ともいえるバブル経済前後の、元気だった時代に「デートカー」として一世を風靡したスペシャリティモデルの復活だ。

ホンダ・プレリュード(メテオロイドグレー・メタリック)

筆者の印象では”デートカー”と認識呼ばれたプレリュードはリトラクタブルヘッドライトを採用した2代目(1982年誕生)と3代目(1987年誕生)だが、この2台はけっしてスタイルだけの”軟派”なモデルではなかったとも記憶している。

2代目では、ホンダ初の4輪アンチロックブレーキ(当時の名称は「4WALB」)を採用していたし、3代目では世界初となる四輪操舵システムを搭載していた。ホンダの最新テクノロジーを披露するショーケース的モデルでもあったのだ。

故アイルトン・セナの出演したCMで話題となった4代目(1991年誕生)では前輪駆動とは思えないロングノーズをイメージさせるスタイルや、200馬力を超えたVTECエンジンが注目されるテクノロジーだった。

1996年に生まれた5代目モデルにおいては時代を先取りしたトルクベクタリング機構「ATTS」を搭載したことが注目のトピックス。前輪駆動の常識を覆す「駆動力によって曲がる」を実現していたことは記憶に残る。

そうしたテクノロジー・ショーケースというプレリュードの伝統は、最新モデルにも継承されている。

2モーターハイブリッドでバーチャル8速シフトを実現

大排気量エンジンのような余裕感と、リッターバイクのような切れ味を両立したハイブリッドシステム

あらためて新型プレリュードのアーキテクチャーを整理しよう。

基本となるメカニズムを荒っぽく表現すると「シビックタイプRのホイールベースを短くして、2.0Lハイブリッドパワートレインを載せたクルマ」となる。つまり、タイプRの優れたハンドリング性能を生む”デュアルアクシス・ストラット”サスペンションや緻密な制御のアダプティブ・ダンパーと、エンジン直結モードを持つ2モーターハイブリッドを組み合わせているのだ。

しかしながら、シビックタイプRとシビックハイブリッドのメカニズムを組み合わせただけのモデルと捉えてしまうのは間違いだ。テクノロジー・ショーケースというプレリュードの伝統に恥じない、独自の最新技術が投入されている。

たとえば、ブレーキ制御によるハンドリング向上テクノロジーである「アジャイルハンドリングアシスト」は、これまでにないターンイン(進入)領域でのアシストも可能にしている。コーナーの最初から最後まで抜群のライントレース性を目指した進化を遂げている。

ADAS(先進運転支援システム)の主要機能である「LKAS(車線維持支援システム)」についても、先読みした制御を取り入れている。しかも高速道路限定ではなく、いつでもどこでもLKASが使えるようになった。すなわち、幅広い領域において、ドライバーとクルマが一体になってステアリング操作を行えるわけだ。

こうしたハンドリング面での進化は4WSやATTSといった過去のプレリュードが示したハンドリング系テクノロジーの現代的な解釈と考えることもできそうだ。前述したタイプRゆずりのサスペンションや、青く塗られたブレンボ製ブレーキシステムといった高性能ハードウェアを活かす電子制御になっているともいえる。

ドライブモードを切り替えスイッチの上に置かれた「S+」ボタンが新型プレリュードの特徴

しかし、最注目なのは新型プレリュードで初採用された「ホンダS+(エスプラス)シフト」であろう。ひと言でいえば、多段トランスミッションを持たない2モーターハイブリッドで「F1のような8段変速を楽しめる」システムである。

つまり、バーチャルにマニュアルシフト操作感を演出するものであり、シニカルにいえば疑似マニュアルトランスミッションともいえる。

もともとホンダの2.0Lハイブリッドにはパドル操作により回生ブレーキの強弱をコントロールする減速セレクターが備わっている。新型プレリュードでは、減速セレクターを-0.02Gのコースティングモードから+0.20Gの最強モードまで7段からセレクトできるように進化している。

試乗前の筆者は、「どうせ減速セレクターの操作に合わせて、疑似エンジン音を室内に流すくらいのシステムだろう」と、S+シフトにそれほど期待をしてはいなかった。ハードウェアとして有段ギアを持たないのだから、それっぽいバーチャル感のある機能だと思っていた。

しかし、新型プレリュードのS+シフトを試した瞬間、ホンダの本気を感じることになる。

バイワイヤシステムながらブレンボらしいフィーリングを味わうことができる

エンジン回転とサウンドがリンク、切れのよさはリッターバイク並み

ホンダ・プレリュード(メテオロイドグレー・メタリック)

新型プレリュードにはSPORT/GT/COMFORTと3つのドライブモードがプリセットされているが、新機能であるS+シフトは、どのドライブモードでも活用できる。モードによっては車内スピーカーからエンジンサウンドを流す「アクティブサウンドコントロール」機能もオンになり、ハイブリッドと思えないほどホンダエンジンサウンドを楽しめる仕様になっている。

驚いたのは、アクティブサウンドコントロールはリアルなエンジンサウンドをリンクしていることに気付いたときだ。S+シフトにするとデジタルメーターのデザインが切り替わり、向かって左側にタコメーターが映し出されるが、その動きとエンジンサウンドの演出はリンクしているのだ。バーチャル的な演出だが、リアルに基づいたサウンドとなっているのは、まじめなホンダのエンジニアらしい。

そして、アクティブサウンドコントロールの見どころ(聴きどころ?)といえるのがダウンシフトの瞬間だ。DCTなどのリアルな有段トランスミッションよりも圧倒的にシャープなシフトダウンフィールを聴覚でも感じさせてkれる。正直、四輪では体感した記憶がないレベルに思えた。

筆者は、ホンダのリッターバイクCBR1000RR-Rに乗っているが、まさにサーキット向け大型バイクが備えるクイックシフター(クラッチ操作不要で素早くシフトチェンジできる機能)のシフトダウンに匹敵する切れ味を感じることができた。このあたり、二輪メーカーでもあるホンダの面目躍如といったところだろうか。

ホンダCBR1000RR-R FIREBLADE

また、S+シフトを使っているとハイブリッドにありがちなアクセルオフで空走するような感覚がない。大排気量エンジンの変速段を固定して走っているような、アクセル操作に対するリニアリティとトルクコントロール性がある。しかも、変速比は厳密にいえば固定ではない。常に理想の変速比に設定されているような感覚も嬉しい。

加えて、前述したアジャイルハンドリングアシストなどのおかげで、ラインが乱れることもない。思い通りにクルマを操るという楽しみにあふれている。

伝統を受け継いだスペシャリティカーに似合う色は?

そうして、S+シフトを存分に味わいながらワインディングを走っていると、ひとつだけ残念に感じることがあった。

筆者が試乗した個体は、メテオロイドグレー・メタリックという渋めのボディカラーだったのだが、その色がずっと目に入る状況が不自然に感じたのだ。クーペ的なフォルムからすると存外に視界のよい新型プレリュードは、じつはボンネットもよく見える。

リッターバイクのシフトダウン感、大排気量エンジン車のようなトルク感を視覚的にも楽しむには、「やっぱり赤いボディ(フレームレッド)でしょう」という思いが強くなった。冒頭で記した1980年代のプレリュードも赤いボディのイメージが強いが、よりスーパーカーに近いニュアンスで赤いボディが似合うと感じたのだ。

スーパーカーといえば、2018年に同じワインディングコースでNSXを味わっている。フロントの左右独立モーターが実現した体と車体がひとつになったかのようなホンダらしい電子制御ハンドリングは、新型プレリュードでも同じ匂いを感じることができた。

COMFORTモードを選ぶとアダプティブダンパーはかなりソフトタッチになり、ボディもしなやかさを意識して設計されたという新型プレリュードは、けっしてハードコアなスポーツカーではない。運転席と助手席で形状を変えているという設計思想も、デートカーとしての伝統を受け継いだスペシャリティカーらしい。

600万円を超える価格は購買層を選んでしまうだろうが、あらゆる意味でプレリュードという車名への期待を裏切らない出来栄えになっていると感じさせられたし、イメージカラーが赤になっていることも大いに納得できる初試乗となった。

運転席のホールド性も秀逸、ワインディングを肩肘はることなく、楽しく運転できた

新型プレリュード主要スペック

ホンダ・プレリュード(メテオロイドグレー・メタリック)
全長×全幅×全高:4520mm×1880mm×1355mm
ホイールベース:2605mm
車重:1460kg
サスペンション:Fストラット式 R マルチリンク式
駆動方式:FWD
エンジン型式:LFC
エンジン形式:4気筒 DOHC
総排気量:1993cc
エンジン最高出力:104kW
エンジン最大トルク:182Nm
電動機型式:H4
種類:交流同期電動機
最高出力:135kW
最大トルク:315Nm
駆動用バッテリー
種類:リチウムイオン電池
燃料消費率(WLTCモード):23.6km/L
タイヤサイズ:235/40R19
車両本体価格:617万9800円
新型プレリュードのパワートレインは2.0Lエンジン+2モーターのハイブリッドのみ
実用的なトランクスペースを用意する