日産渾身の新技術をコンパクトな車体に凝縮した3代目

3代目となる新型リーフ。全長4360mm×全幅1810mm×全高1550mm(プロパイロット2.0付きは1565mm)。全長4480mm×全幅1790mm×全高1540〜1560mmだっった先代に対して、全長は120mmも短縮されたのが際立つ。
先代までのハッチバックスタイルから一変して、新型はファストバックスタイルを採用。変更の理由は、空気抵抗を極力低減し、航続可能距離を続伸することにある。

3代目にあたる新型日産リーフが発表された。2017年に登場した2代目は初代のプラットフォームを受け継いでおり、いわば2010年に登場した初代をブラッシュアップした格好だった。だが3代目は違う。プラットフォームは一新し、アリアと共通のCMF-EVを使う。トーションビーム式だったリヤサスペンションはマルチリンク式となっているし、床下を覗くと、フロントのロワーアームやナックルが(スチール板金ではなく)アルミ鋳物であることがわかる。クラスを考えれば贅沢なつくりだ。

フロントサスペンション形式:ストラット
リヤサスペンション形式:マルチリンク式(カバーで覆われてほとんど見えませんが…)

感心するのは床下のフラット具合で、ジャッキアップポイントまで脱着式カバーで覆う徹底ぶり。電動コンポーネントや熱マネジメントの進化だけでなく、空力に気を配ることで航続距離の伸長を図っている。フロントドアハンドルは電動格納式だ。ルーフの傾斜は空力的なロスの少ない17度に設定されている。ホイールは開口部を最小化しつつデザインと両立させた。Cd(空気抵抗係数)値は0.26を達成している。

10月8日に発売された「B7」のバッテリー容量は78kWh(2026年2月頃にバッテリー容量55kWhの「B5」が発売される予定)である。2代目リーフ60kWh仕様のWLTCモードによる一充電走行距離は450kmだった。新型リーフB7は702kmである。kWhあたりの電費は2代目の7.5kmに対し3代目は9kmで、大幅にカタログ電費が向上している。実電費はカタログ値の7掛け程度と厳しめに想定し、満充電から10%まで使うと仮定しても442kmは走る。充電のインターバルが長くなるのは間違いない。

フロントに搭載するパワートレーンは第3世代の3 in 1構造を採用。第2世代はモーターとインバーターは一体だったものの減速機は別体だった。第3世代はモーター、インバーター、減速機のハウジングを一体にした。これにより10%程度容積を低減でき、軽量化にもつながっている。ケースを一体化したことでシャフトの入口から出口までの組み立て誤差を小さくできるため、振動面でもメリットがある。

モーター、減速機、インバーターのハウジングを一体化した3in1構造を採用することで、剛性アップとコンパクト化を実現した。
こちらは3in1ユニット単体の展示モデル。
反対側(車両に搭載した場合は後ろ側)からの様子。コンパクトになったユニットに合わせてサスペンションメンバーの開口部を縮小し、モーターマウントブラケットも最適化することで、大幅な振動低減も実現した。

トルクの変動を減らすには、ローターに斜めの溝を表すスキューを入れるのが効果的であることが知られている。従来は2分割だったスキューを第3世代は6分割とし、トルク変動が滑らかになるようにした。とくに低速域で振動低減効果が感じられる変更だ。

最大トルクは従来の340Nmに対し、355Nmに向上。さらに最高回転数を引き上げたのに合わせ、ギヤ比をロー側に設定。モータートルク×最終減速比で導き出される駆動トルクは20%以上向上しているという。新型の車重は先代に対して200kg程度重い1880-1920kgとなっているが、駆動トルクの向上により重量増過分をカバー。むしろ、加速性能は向上させている。

アクセルオンでの加速は電気自動車らしい力強いもの。ただ、加速し過ぎで扱いづらいということはなく、ちょうどいいアクセル特性になっているのが日産のこだわり。

CMF-EVプラットフォームの採用と新型リーフ専用に設計した上屋により、ボディ剛性は大幅に向上(車体ねじり剛性は先代比+86%)。リヤサスペンションは横剛性を上げながら乗り心地を重視し、前後剛性はあえて落としている。先代はバッテリーケースを補剛部材として使っていなかったが、新型は補剛部材として使用。車体剛性の向上により動的性能が向上するだけでなく、振動騒音面でもメリットが期待できる。

仕向地に合わせて乗り味はチューニングしており、国内仕様は乗り心地重視の設定。電動パワーステアリング(EPS)は先代のコラムアシスト式からラックアシスト(デュアルピニオン)式に変更し、ステアリング系の剛性は大幅に向上。先代に対し新型は、修正舵が少なく一発で舵が決まるような動きを意識してチューニングしたという。無駄な動きを出さず、コーナリングの姿勢をピタッと決められるようにする狙いだ。

車重の重いEVではどうしても固さが目立ちがちだが、新型リーフは穏やかな乗り心地が好印象だ。

制御のロジックも変更している。従来は操舵量に合わせてアシスト量を制御していたが、新型は規範モデルを持っており、舵角や操舵速度、車両のヨーレートや横Gの情報をもとに、規範モデルとのずれを修正する形でアシストする。この点、先に日産のテストコース(GRANDRIVE)で試乗した際の印象をお伝えしておくと、動きは「意のまま」だった。個人的にはステアリングの反力が強くなるSPORTモード選択時の感触が好み。サスペンションの設定と同様、EPSの制御も扱いやすさ重視で、北米仕様より軽めの設定だという。といって柔らかすぎの印象はない。操舵に対する車両の動きも同様。スッと動いてスッと姿勢が決まる。

静粛性に気を使っているのも新型リーフの特徴だ。「ドアを閉めた瞬間に外界との隔絶感を感じるくらい静かにしたかった」と担当技術者。打った策のひとつは、ドアパネルの穴や隙間をカバーなどで徹底的にふさぐこと。さらに、リヤにある換気経路を長くしたうえで吸音材を配置し、消音性能を高めた。

静粛性に優れた室内で音楽を楽しむために、ヘッドレストにスピーカーを搭載したBOSEパーソナルプラスサウンドシステムを用意。

換気経路の対策はリヤタイヤ起因のシャー音を低減するためだが、これについてはラゲッジフロアボードに新素材を採用することでも手を打っている。寿屋フロンテのM-lightという製品で、樹脂のハニカムコアをフイルムと不織布で挟んだ構造。ハニカムコアの高さや容積で特定の周波数(新型リーフの場合は1kHz付近)の吸音効果が出せるようチューニングしているそうだ。

穴開きフィルムとハニカム内の空気により高い吸音性能をもつ新素材をラゲッジのフロアボードに採用。

ドラミング音と言われる低周波のノイズに関しては、バッテリーケースに格子状の補剛部材を入れることで剛性を上げ、対応した(走りも良くなるのは前述したとおり)。風切り音の低減も図っており、Aピラーとフロントガラスとの段差を従来の12mmから7mmに小さくすることで音の原因となる渦の発生を抑えている。また、先代でボディから約40mm離れていたドアミラーを新型では約65mmにまで遠ざけることで、ボディとドアミラーの間をスムーズに風が流れることで風切り音を低減している。

ドアミラーをキャビンから遠ざけることで、風切り音を低減。

居住性やユーティリティ面のニーズ、あるいは厳しくなる衝突要件に対応するため、モデルチェンジのたびに大きくなるモデルが多いなか、新型リーフは先代並みの居住性と荷室スペースを確保しながら、ボディサイズは縮小した。全長は4360mmで、先代より120mmも短い。大きく短縮したのはフロントのオーバーハングで、先代の1040mmから840mmに短縮している。先代は充電口がフロントにあったが、これをサイドに移した効果が大きい。

先代から全長は120mm、ホイールベースは10mm短くなったが、有効室内長は1765mmと同等をキープしている。
急速充電口は左フロントに配置。
普通充電口は右フロント。

タイヤ外径は先代の640mm(ホイール径は最大17インチ)から690mm(最大19インチ)に拡大しており、前後のショートオーバーハングも相まって、大径タイヤがボディの四隅に配置された安定感あるプロポーションを形づくっている。大径タイヤを採用すると最小回転半径は大きくなりがちだが、新型リーフは先代より0.1m小さな5.3mとしている。サイドメンバーのスパンを狭くすることでタイヤ切れ角を確保し、先代より小さな最小回転半径を実現した。

ホイールベースは2690mmで先代より10mm短い。アクセルペダルから後席ヒップポイントまでの距離は先代と同じで、「大人4人が充分座れるスペースを確保した」というのが日産側の説明だ。コの字型に飛び出すごついドアハンドルを引いて運転席に体を滑り込ませると、フラットで開放感あるインテリアに包まれる。フローティングした格好の横長ディスプレイは、ノートやアリア、セレナなどで採用済み(新型ルークスも同様)で、現行日産車オーナーにとってはおなじみの風景だろう。

水平基調で薄いインパネには、12.3インチの大型デュアルディスプレイを採用。Aピラーが後退して、ガラスサッシも細くなったことで前側方の視野も向上している。

PRNDのシフトセレクターはボタン式で、現行セレナと同じだ。エクステリアに比べると、インテリアの新鮮味は薄い。と感じるのは最新の日産車を逐一眺めているせいで、先代からの変化代は大きく、一気にモダンになっているのは間違いない。HVAC(空調ユニット)はアリアと同様にモータールームに設置されており、おかげで前席足元空間はフラットだ(センターコンソールが張りだしているので、視覚的な開放感はそこまで感じなかった)。おかげで、車内で前席左右に移動することも可能だ。

シフトセレクターはボタン式。センターコンソールの張り出しがないため、前席での横移動も容易だ。

新型リーフに適用された新装備の代表格が調光パノラミックガラスルーフ(遮熱機能付き)である。電気自動車にグラスルーフ採用車が多いのは、全高を抑えつつ室内高を稼げるから。床下にバッテリーを搭載するため室内空間は高さ方向が圧迫されてしまう。そこで、グラスルーフの採用かつ物理シェードを廃することにより、少しでも室内高を稼ごうというわけ。これで20-30mmは室内高が稼げ、とくに後席ヘッドルームの確保に効く。

日産初の調光パノラミックガラスルーフ。ボタンを押すと…。
まるでスライド式シェードのように、徐々にガラスの透明度が変わっていく。
ガラスに遮熱機能が備わっており、夏場の温度上昇も防いでくれる。

ただし、従来のガラスルーフは頭頂部が熱くなってしまうのが難点だった。新型リーフの調光パノラミックガラスルーフは赤外線を反射するコーティング層が挟み込まれており、ガラス自体が熱を持たず、輻射熱による影響が小さい。という謳い文句で、これについては暑くなること間違いなしの来夏に確かめることにしたい。

身長184cmの筆者がドラポジをとった状態で後席に移動すると、ひざと前席シートバックの間には、わずかに空間が残る程度。ヘッドルームもギリギリで、窮屈ではないが余裕もないといった印象。前後・上下の感覚的、物理的な広さはむしろノートのほうがあるように感じた。もっと余裕のある空間が欲しければアリアという選択になるだろうか。

荷室スペースは充分に確保されているように感じた。先代に設定のなかったバックドアの電動開閉機能(ハンズフリーも可)が設定(B7 Gに標準)されたのは朗報だ。

上級グレードのシート地はテーラーフィットを採用。
センタートンネルがないフラットフロアになったのは新型の美点だ。
ラゲッジルームは後席を倒すことなくゴルフバッグ2セットを横積みできる。

回生ブレーキの強弱を調節できるパドルは上級グレードのGにのみ標準。シフトセレクターの左側にあるe-Pedalのスイッチを押して機能をオンにすると、アクセルペダルの戻し側で減速側の車速コントロールができるようになる。完全停止はせず、停止時はブレーキを踏む必要がある。このあたりの制御の考え方に先代からの変更はない。

新型リーフは「スーッと滑らかで、いつまでも乗っていたい走りの実現」を目指したという。テストコースを少し走らせただけではあるが、より静かになり、より運転が楽しいクルマに仕上がっているのは確認できた。街なかを、大自然のなかを、陽光を浴びながら走ってみたい。イルミネーションが演出する夜の雰囲気も気になる。進化した充電性能や専用ナビの使い勝手も気になるし、実電費も確かめてみたい。気になることがいっぱいだ。

日産リーフ(B7 G) 主要諸元

■ボディサイズ
全長×全幅×全高:4360×1810×1550(プロパイロット2.0装備車は1560)mm
ホイールベース:2690mm
室内長×室内幅×室内高:1970×1540×1160(ガラスルーフ装備車は1200)mm
車両重量:1920kg
乗車定員:5名
最小回転半径:5.3m
最低地上高:135mm

■パワートレーン
モーター種類:交流同期電動機
モーター定格出力:70kW
モーター最高出力:160kW/4400-11700rpm
モーター最大トルク:355Nm/0-4300rpm
総電力量:78kWh
総電圧:353V
一充電走行距離(WLTCモード):685km
交流電力量消費率(WLTCモード):133Wh/km

■シャシー系
サスペンション形式:Fストラット・Rマルチリンク
ブレーキ:Fベンチレーテッドディスク・Rベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:235/45R19

■価格
599万9400円