オンボロトラックと侮るべからず!

エンジニア魂炸裂のフルカスタム仕様!

ハイラックスのルーツとも言えるトヨタのピックアップトラック、スタウト。ドラマ『北の国から』に登場することでも知られ、どちらかと言うと昭和レトロの文脈で語られることの多いクルマだ。

当時アメリカにも輸出されたが、セールス的には成功せず、多くのアメリカ人にとっても「この古いトラック、何?」という感じのレア車である。

スタウトのオーナーにしてビルダーでもある、ジェームス・ヌーナン。環境規制の厳しさで知られるカリフォルニアだが、1976年より前のモデルであればスモッグチェック(排ガス検査)を受ける必要がない。ジェームスがスタウトを選択したのもそれがひとつの理由で、溢れ出るアイデアとエンジニアリングを思う存分ぶつけまくっている。ちなみに「イーロンってどんな人?」と聞くと、「みんなが知ってるまんまの人だよ(笑)」と教えてくれた。

そんなスタウトをベースに、エンジンスワップや自ら設計したサスペンションなど、自由奔放なカスタマイズを楽しんでいるのが、カリフォルニア州在住のジェームス・ヌーナン。子どもの頃からクルマが好きで、親が4ランナーやハイラックスなどに乗っていたため、自然とオールド・トヨタの愛好家になったそうだ。

実は職業はテスラのエンジニア。しかも、プロトタイプの企画・開発という要職についており、イーロン・マスクとも一緒に仕事をしたことがあるそうだ。本業で最新EVの先行開発に携わる人物が、趣味で66年式のトヨタ製トラックを弄り倒しているのだから、やはりクルマ文化は奥が深い。

ジェームスがスタウトのエンジンルームにぶち込んだのは、セルシオやクラウンマジェスタのエンジンとして知られる3UZ-FE型V8。ベースのスタウト1900が搭載していたのは1897ccの3R-B型直4OHVなので、約2.3倍の排気量アップである。

北米仕様のレクサスLSやGSにも搭載されていたため、アメリカにも流通している3UZ-FE型V8エンジン。だが、EGR(排ガス循環装置)がつかない日本仕様にこだわり、わざわざ輸入して換装した。スーパーチャージャーはもともと付いていた“FORD”と“SVT”のロゴを削り落として、“トヨタ”のロゴを貼り付けるこだわりよう。

スーチャー本体の下側にニュージーランドのELATE製水冷式マニホールドを装着し、外付けインタークーラーもリヤの下回りにマウント。その近くにはエアサスのエアタンクとVIAIRのコンプレッサーも配置されている。フレームは一切カットせず、アルミラジエターを収めるためにコアサポートの一部を切ったのと、もともとコラムシフトのため、フロアトンネルの一部を切ってCUBEスピードのショートシフターを取り付けてあるのが数少ない切開ポイントだ。

トランスミッションはA70スープラ純正のR154 5速MT。タイのKSレーシングタイランドが製作した鋳造ベルハウジングと専用フライホイールで3UZと接続した。ホーシングは84-95モデルのハイラックス2WD用を流用し、カスタムメイドのプロペラシャフトで繋げてある。

3UZの制御にはCAN通信が採用されているためエンジンスワップのハードルが高いのだが、そこはフロリダ州にあるレクサスV8.comという、ECUとワイヤリングの専門店がサポート。

純正のECUとハーネスを送り、「3UZのスーチャー付きで、ブーストは8psi(約0.56キロ)くらい。あ、クルマはスタウトね」と伝えると、書き換えたECUと作り変えたワイヤリングハーネスを送り返してくれるのだそう。

前後ディスクブレーキはLS430から移植。本来のサス形式はフロントがコイルスプリング式のソリッドアクスル、リヤがリーフスプリング式リジッドだが、それをロワアームでキャンバー調整ができるフロントダブルウィッシュボーン、コントロールリンクとショックアブソーバーを追加したリヤ4リンクに作り変えた。

外装の状態は購入した時のままを敢えて維持しており、下地や表面錆が露出した塗装も経年によりできあがったオリジナルだ。唯一のイミテーションは、ボディと同じ感じに塗装したエンジンのヘッドカバーである。

置きはエアサスでがっつりローダウンする一方、タイヤはスタウトにはファットなミシュランのパイロットスーパースポーツ4Sと、グリップを意識したセットアップ。唯一テスラの部品を使ったのが前後のスタビで、モデル3の純正部品をナロー化して取り付けた。

インテリアもパッと見はノーマルを維持しているが、電動パワステとヴィンテージ・エア製のエアコンを備える快適仕様。エアサスの車高コントローラーも、敢えて古臭く見える汎用スイッチを使っている。

運転席の座面下にはエアサスの電磁弁と配管、ヒューズボックスなどが隠され、サイドにはエアコンプレッサー、フューエルポンプのトグルスイッチ、電動パワステのアシスト量を調節するノブが備わっている。ちなみに、エンジンルームにはBluetoothでOBDデータをスマホに転送できるVEEPEAKというコネクタも装備。

全体を通してこだわっているのは、年式なりの古さとスタウトの純正っぽさを残しながら、デイリードライバーとして快適に使える仕様に仕上げること。ステアリングは電動アシスト式のラック&ピニオンをプリウスから移植してある。

また、3UZの電子制御スロットルを動かすアクセルペダルは、カローラの吊り下げ式とスタウトのオルガン式ペダルを手製のリンクで接続。ペダルを踏むとロッドがスライドしてアクセルを開く(=センサーがアクセル開度を読む)仕組み。誰しも一瞥して「ボロいトラックだなあ」と思ってしまうスタウトは、見えないところにジェームスの緻密な創作がてんこ盛りされた、リ・エンジニアード・クラシック・トラックだったのだ。

PHOTO:Akio HIRANO/TEXT:Hideo KOBAYASHI

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