コスパに優れた“非2JZ”の選択肢

和洋折衷のサスにシルビアの心が宿る

個性派が多く集うフォーミュラドリフトジャパンの中でも、ひときわ異彩を放つのが塙選手のドライブするVQ35ターボ搭載Z4だ。

「打倒2JZエンジン勢」を掲げ、リーズナブルな選択肢を自らの手で具現化したプライベートチームならではの創意工夫に満ちたマシン。その詳細を見ていこう。

現代のドリフト競技において主流となっているのは2JZ-GTE。しかし塙選手のマシンがVQ35エンジンを採用したのには、明確で切実な理由があった。

「FDJの中でもウチは特に規模の小さいプライベートチームなので、まずはエンジンコストをできるだけ抑えたいと考えました」と語るのは、チーム監督でありマシン製作も手がけた T’s square代表・高木さん。

トップカテゴリーで戦うとなれば、たとえ3.0Lの2JZをベースにしても、目標とするピークパワーを狙うためにはタービンサイズの拡大が不可欠となる。

その結果、低中回転域のトルク補填を目的に排気量アップ、すなわち3.4L化が避けられず、エンジン単体の価格もパーツ点数も増加。1基を仕上げるのに300万円を超えるのが一般的だ。

「でも、VQ35DEならエンジン本体が10万円以下で手に入ります。そこにターボ用のピストンとコンロッドを用意し、オープンデッキ補強のピン加工を出す程度で済む。Z4に積み込むまでを含めても、100万円ちょっとで収まりました」と高木さんは振り返る。

ベース車が上位モデルに3.0L直6を積むZ4だったことで、エンジンルームにも余裕があり、吸排気系統は一から設計。タービンはコスト面からシングルを選択し、当初はG35、現在はG40-1150タービンを装着。最大出力800〜900ps、トルク100kgmオーバー、レブは8000rpmに設定されている。

エンジン本体はVQ35DEをベースに、CP製オーダーピストンで圧縮比を8.6:1に設定したローコンプ仕様。0.5mmオーバーサイズに合わせ、オーバーホール時にはオープンデッキ部に補強ピンも追加した。NA用社外エキマニをベースに、フランジを逆向きに装着できるよう加工して前方排気化。これによりタービンレイアウトを最適化している。

高回転域での伸びを求め、純正サージタンクにはアダプターを介してかさ上げ加工を施し、容量を拡大。Z33後期以降のVQ35HRがツインスロットル化されているが、製作当時はECUセッティング面の不安からDEを選択。

オイルパンはステアリングラックとの干渉を避けるため、エルグランド純正を流用し容量アップしている。

トランク内は一見すっきりしているが、これは純正燃料タンクをフロア下に残せている現状ゆえ。今後R200デフからクイックチェンジへ変更する際には安全タンクをトランク内に設置する必要があり、その際ウォータースプレータンクは助手席側へ移設される予定だ。

「3年使ってみて、かなり頑丈だと分かりました。このコストで2JZと十分戦えるんだから、他のチームにも真似してほしいくらいです。2JZに比べてピストン径が大きくストロークが短いぶん、低回転トルクは少し薄いですが、乗り方で十分カバーできます。今はECUの進化でツインスロットル制御も問題ないので、今後はVQ35HRや37HRを積むのもありだと思っています」と高木さん。

ドリフトチューンにおけるVQエンジンの可能性は、まだまだ広がりを見せている。

D1GPやFDJにおけるBMW勢といえばE92型M3が注目されがちだが、このE89型Z4は設計思想が根本的に異なり、M3のノウハウを流用できる部分はほとんどないという。

E92のように完成度の高い市販サスキットが存在しないZ4は、リヤに一式交換可能なアームキットがなく、フロントも海外製アングルキットは競技用として不満が多かった。そこで、Z4の製作にあたっては、高木さんが自らドライバーとしてFDJ参戦する前提で、シルビア/180SXのような理想的なドリフト特性を再現するために独自ノウハウを注ぎ込んだのである。

特に工夫が光るのがフロントの足まわり。純正ストラット式を維持しつつ、JZX100のアップライトと、左右逆向きにしたJZX100ナックルを移植。これにより理想的な切れ角アップを実現した。ホイールベースは2495mmでS13とS14の中間に位置し、その乗り味はシルビアさながらだと高木さんは語る。

JZX100系パーツの向きを変えて使用しているのは、Z4のステアリングラックが前側配置のため。パワステポンプは純正、ラックはBMW E92用を採用。テンションロッドはKTS製JZX100用をベースにオフセット加工している。

リヤサスは車高調をコイルオーバー化した上で、キャンバーアームに調整式を導入する他に大きな変更はなし。DGRの車高調の特徴は尖った性能のない扱いやすさにあり、ドライバーがピーキーさを感じずに理想のセッティングを出せるのが利点。アメリカのFDJでは上位陣がこぞって愛用している。

塙彰拡選手:茨城県出身、1992年7月27日生まれの33歳。茨城大学在学中に全日本学生ドリフト王座決定戦に4回出場し、最高位は2016年の4位。卒業後は一般企業に就職し、DIYで仕上げたプライベートカーのFD3Sに乗りサンデードライバー兼プライベーターとしてD1地方戦での経験を経てD1ライツに出場する。2022年にもFDJ2に参戦しシリーズ9位を獲得すると現在所属するチーム監督の高木さんにスカウトされ、2023年からZ4に乗りプロドライバーとしてFDJデビュー。

「ドライバーの塙選手が乗るのは今年で3年目になります。去年の後半戦から、それまでドライバーも遠慮して出し切れていなかったZ4とVQの良さを使っていこうと、タイヤのセッティングを中心にトラクションをガンガン掛けて踏んでいこうと方針を変えてから、結果も出るようになってきました」と高木さん。

Z4のリヤメンバーにはS13マルチリンクのデフマウント部を前後移植し、R200デフを使用可能に。ハブもS13用を流用し、サイドフランジを加工してZ33用の強化ドライブシャフトを組み合わせた。

オープンカーゆえのタイトな室内は、バッテリーを助手席足元に置かざるを得ないほど。ミッションはRB26用のOS-88シーケンシャル6速を、ベルハウジングを加工して搭載している。

GT300で走るレーシングカーの姿を見てZ4に憧れを抱いたという高木さんが、勝つことよりも好きなクルマで大会に出てドリフトをしたいという考えから選んだE89型Z4。FDJではハードトップを開放した状態でも走行できるが、防火隔壁のレギュレーションの都合により参戦中は常に装着している。

エアロはオリジンラボ製の汎用パーツを中心に構成。アンダーパネルには180SX用を流用し、ぴたりとフィット。ボンネットは純正アルミにFPR製ダクトを追加している。

リヤタイヤは285/35R18のグッドライドスポーツRS。昨年前半までは操作性を重視してエア圧3キロ付近で運用していたが、後半からはトラクション性能向上を狙い1キロ以下での使用に変更。これが功を奏し、今季は好調を維持している。

唯一の弱点は、BMWオープンボディ設計由来のフレーム重量と、軽量化できる余地の少なさ。徹底的に詰めても車重は約1380kgに留まり、トランクにはNOSタンクを搭載するスペースもない。しかし、そのスタイリングの美しさこそがZ4最大の魅力。

「勝つことより、好きなクルマで走ること」にこだわった高木さんと塙選手のZ4は、これからもFDJの中で異彩を放ち続けるに違いない。

PHOTO&REPORT:Miro HASEGAWA (長谷川実路)

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限界を超えるための進化…。RE雨宮が送り出した最新FD3Sは、4ローターターボを搭載し、軽量化と徹底した重量バランス調整で、ロータリー特有のピーキーさを克服。追走戦で勝つために生まれたこのマシンは、松井選手の手により、攻めと安定の両立を実現する。D1GPの激闘を戦うための全てがここにある。