「新基準原付」とは?

新基準原付とは、これまで50cc未満と規定されてきた原付一種最の排気量を、最高出力4.0kW(約5.4ps)以下に制限した125ccまでとする規格である。

新基準原付発表会資料より

ホンダはこの新基準原付に適合した「スーパーカブ110Lite」「スーパーカブ110プロLite」「クロスカブ110Lite」そして「ディオ110Lite」を「Lite」シリーズとして発表、ディオが11月20日に、スーパーカブシリーズが12月11日に発売される。

ホンダ新基準原付発表会。

新基準原付は全国の約3700店の店舗で取り扱い、スーパーカブ110Liteシリーズはすでに年間目標販売台数6500台のところ販売店からはすでに1700台の先行受注が入っているという(10月16日現在・ホンダ調べ)。

新基準原付発表会資料より

原付はその用途を考えると電動化しやすく、ホンダも原付一種扱いのEVスクーター「EM1 e:」を2023年から販売している。また、コミューターとしては電動アシスト自転車や特定小型原付(電動キックボード等)とも競合する。それゆえ、旧来の原付一種の市場は縮小傾向にあった。

新基準原付発表会資料より

しかし、国内には未だ約418万台の原付一種があり、これらを一足跳びに電動化することは難しい。さらに原付一種ユーザーが電動アシスト自転車や特定小型原付よりも距離を走ることも考慮し、新基準原付をリリースするに至ったということだ。

110と110Liteはどこが違う?

ベースとなったのはその車名の通り「スーパーカブ110」「スーパーカブ110プロ」「クロスカブ110」。では、新基準原付としてどこが変わったのだろうか?

・Liteステッカー
Liteシリーズとして、フロントグリルに小ぶりな「Lite」ステッカーが貼ってある。

スーパーカブエンブレムの下に貼られたスーパーカブLiteステッカー。
スーパーカブ110プロLiteはフロントカウル中央上端。
クロスカブ110Liteのステッカー位置はプロと同様だが、ステッカーはクロスカブ専用。

・原付二種ステッカー
原付二種(50cc以上125cc未満の原動機付自転車/要小型二輪免許)にはフロントフェンダー前端に白い太線ステッカー、リヤフェンダーに白い三角ステッカーが貼られているが、新基準原付はこれまでの原付(一種)同様にこれらのステッカーが無い。

スーパーカブ110Lite
スーパーカブ110プロLite
クロスカブ110Lite

・タンデムステップ
新基準原付はこれまでの原付同様に2人乗りは許されていないため、タンデムステップが省略されている。ただし、「プロ」は110でも1名乗車のため元々タンデムステップは装備されていない。

スーパーカブ110Lite
スーパーカブ110プロLite
スーパーカブ110プロLite

・最高出力
新基準原付の最高出力は4.0kW(約5.4ps)以下に規定されているため、110ccモデルに対し吸気量を絞るとともにECUで燃調を制御して規定内の出力に設定している。

エンジンは110と110Liteで基本的に共通のボア47.0mm×ストローク63.1mm、圧縮比10.0:1のJA59E型空冷4ストローク単気筒OHC。

原付一種の馬力規制が7.2ps(約5.3kW)であったことから考えると規制上限は低下しているが、この規制も出力的に有利な2ストローク全盛期のもの。むしろ、50cc4ストロークエンジンでは(環境規制も含めて)この上限まで出力を出すことは難しい。トルク面で有利な4ストロークエンジンで110ccまで許容されたことで、日常での使い勝手はむしろ向上すると思われる。

吸気を絞流と共に燃調セッティングで規定値以下の出力である3.5kW(4.8ps)/6000rpmにセッティングされている。

・メーター
新基準原付はこれまでの原付同様に制限速度は30km/hとなるため、スピードメーターは60km/hスケール専用品になっている。

スーパーカブ110Lite専用のメーター。メータースケールは60km/hとなった。ニュートラルランプだけでなく、液晶画面にはシフトポジションも表示されるので、『水曜どうでしょう』の「原付東日本縦断ラリー」における”だるま屋ウイリー事件”のような惨劇(スーパーカブでは意外と発生する)は起きにくくなるだろう。
スーパーカブ110プロLite専用のメーター。液晶画面は燃料計と距離計を基本に時計表示も選択可能になった。
クロスカブ110Lite専用のメーター。

以上の点を除けばエンジンや車体、パーツなどは基本的に共通となっている。そのため、アクセサリー類は110ccモデルのものがそのまま装着できるようになっている。

スーパーカブ110Lite

最もオーソドックスなスーパーカブ。ホンダ伝統のスーパーカブのスタイルを受け継ぐデザインで、スーパーカブ110とほぼ同じ車体となっている。

スーパーカブ110Lite

最大の変更点はエンジンのセッティング(エンジンそのものは同様)だが、新基準原付として最高出力3.5kW(4.8ps)/6000rpm・最大トルク6.9Nm(0.70kgm)/3750rpmとされている。新基準原付の上限である4.0kWとしなかった点については、使い勝手の良い出力特性を重視したためと説明された。

スーパーカブ110Lite出力特性

とはいえ、スーパーカブ50に対してはパワーもトルクも全域で上回っており、特にトルクについては低回転域で最大トルクが出るセッティングとなっている。スーパーカブ50より5kgの重量が増加しているが、使い勝手では重量増を相殺して余りあるのは間違いないだろう。

スーパーカブ110Lite

また、カブシリーズは長らくスポークホイール+前後ドラムブレーキだったが、バイクへのABS(またはCBS=前後コンビブレーキ)装着が義務化されたことにより、スポークホイール+フロントディスクブレーキ(ABS)になった。その点もLiteと110で同様だ。

17インチキャストホイールに前:70/90-17・後:80/90-17サイズのタイヤを装着。フロントはディスクブレーキでABSを備える。
車名スーパーカブ110スーパーカブ110Liteスーパーカブ50
(2022年)
全長1860mm1860mm1860mm
全幅705mm705mm695mm
全高1040mm1040mm1040mm
シート高738mm738mm735mm
車両重量101kg101kg96kg
定員2名1名1名
最小回転半径1.9m1.9m1.9m
エンジン空冷4ストローク単気筒OHC空冷4ストローク単気筒OHC空冷4ストローク単気筒OHC
排気量109cc109cc49cc
最高出力5.9kW(8.0ps)/7500rpm3.5kW(4.8ps)/6000rpm2.7kW(3.7ps)/7500rpm
最大トルク8.8Nm(0.90kgm)/5500rpm6.9Nm(0.70kgm)/3750rpm3.8Nm(0.39kgm)/5500rpm
燃料タンク4.1L4.1L4.3L
トランスミッション自動遠心クラッチ+4速リターン自動遠心クラッチ+4速リターン自動遠心クラッチ+4速リターン
タイヤサイズ前:70/90-17
後:80/90-17
前:70/90-17
後:80/90-17
前:60/ 100-17
後:60/ 100-17
ブレーキ前:ディスク(ABS)
後:ドラム
前:ディスク(ABS)
後:ドラム
前:ドラム
後:ドラム
価格35万2000円34万1000円24万7500円
スーパーカブ110/スーパーカブ110Lite/スーパーカブ50諸元比較

スーパーカブ110プロLite

スーパーカブ110プロLite

フロントにカゴを装着し、ヘッドライトをカゴの前面に移設。大型リヤキャリアを装備したビジネスユースモデル。主に新聞配達などのデリバリー系での使用が想定されている。クロスカブ110Liteがクロスカブ50と異なり、クロスカブ110同様の17インチタイヤとなったため、Liteも含むプロが唯一の14インチタイヤ仕様となっている。

大型リヤキャリアとリヤキャリア積載時の重心変化を想定してオフセットされた強化サイドスタンドもスーパーカブ110プロと共通。

エンジンと出力に関してはスーパーカブ110Liteと同様。14インチでもスポークホイール+フロントディスクブレーキとなる点も変わらない。

前:70/ 100-14・後:80/ 100-14サイズのタイヤを装着する14インチキャストホイール。ABS付きディスクブレーキにはディスクカバーが装着されている。
車名スーパーカブ110プロスーパーカブ110プロLiteスーパーカブ50プロ
(2022年)
全長1860mm1860mm1860mm
全幅730mm730mm720mm
全高1065mm1065mm1050mm
シート高740mm740mm740mm
車両重量111kg111kg108kg
定員1名1名1名
最小回転半径1.9m1.9m1.9m
エンジン空冷4ストローク単気筒OHC空冷4ストローク単気筒OHC空冷4ストローク単気筒OHC
排気量109cc109cc49cc
最高出力5.9kW(8.0ps)/7500rpm3.5kW(4.8ps)/6000rpm2.7kW(3.7ps)/7500rpm
最大トルク8.8Nm(0.90kgm)/5500rpm6.9Nm(0.70kgm)/3750rpm3.8Nm(0.39kgm)/5500rpm
燃料タンク4.1L4.1L4.3L
トランスミッション自動遠心クラッチ+4速リターン自動遠心クラッチ+4速リターン自動遠心クラッチ+4速リターン
タイヤサイズ前:70/ 100-14
後:80/ 100-14
前:70/ 100-14
後:80/ 100-14
前:70/ 100-14
後:80/ 100-14
ブレーキ前:ディスク(ABS)
後:ドラム
前:ディスク(ABS)
後:ドラム
前:ドラム
後:ドラム
価格39万6000円38万5000円26万9500円
スーパーカブ110プロ/スーパーカブ110プロLite/スーパーカブ50プロ諸元比較

クロスカブ110Lite

クロスカブ110Lite

オフロードテイストの人気モデルがクロスカブ。こちらも基本的にはクロスカブ110とクロスカブ110Liteの違いは前述の通り。

しかし、クロスカブ50に対してはタイヤサイズが14インチからクロスカブ110と共通の17インチとなった点が大きな違いだ。

80/90-17サイズのタイヤは前後共通。キャストホイールはデザインはスーパーカブ110Liteと共通だが、カラーはブラックとなっている。もちろんフロントディスクブレーキにはABSが備わる。
車名クロスカブ110クロスカブ110Liteスーパーカブ50
(2022年)
全長1935mm1935mm1840mm
全幅795mm795mm720mm
全高1100mm1100mm1050mm
シート高784mm784mm740mm
車両重量107kg107kg100kg
定員2名1名1名
最小回転半径2.0m2.0m1.9m
エンジン空冷4ストローク単気筒OHC空冷4ストローク単気筒OHC空冷4ストローク単気筒OHC
排気量109cc109cc49cc
最高出力5.9kW(8.0ps)/7500rpm3.5kW(4.8ps)/6000rpm2.7kW(3.7ps)/7500rpm
最大トルク8.8Nm(0.90kgm)/5500rpm6.9Nm(0.70kgm)/3750rpm3.8Nm(0.39kgm)/5500rpm
燃料タンク4.1L4.1L4.3L
トランスミッション自動遠心クラッチ+4速リターン自動遠心クラッチ+4速リターン自動遠心クラッチ+4速リターン
タイヤサイズ前:80/90-17
後:80/90-17
前:70/90-17
後:80/90-17
前:70/ 100-14
後:80/ 100-14
ブレーキ前:ディスク(ABS)
後:ドラム
前:ディスク(ABS)
後:ドラム
前:ドラム
後:ドラム
価格41万2500円 40万1500円30万8000円
クロスカブ110/クロス110Lite/クロスカブ50諸元比較

なお、発表会場にはクロスカブ110Liteのアクセサリー装着車も展示されていた。装着されていたアクセサリーは以下の通り。

クロスカブ110Liteアクセサリー装着車

・サドルバッグ(1万2947円)
・サドルバッグサポート(9900円)
・サドルバッグサポートメンバー(1万890円)
・USBソケットType-C(4840円)
・USBソケット取付アタッチメント(6413円)

サドルバッグ。展示車は片側のみ装着されており、もうひとつはキャリアに載せてあった。
サドルバッグサポート。
サドルバッグサポートを固定するサドルバッグサポートメンバーはキャリアの下に共締めする。

これらは基本的にクロスカブ110Liteとスーパーカブ110Lite共通で装着できるが、USBソケット取付アタッチメントはクロスカブ110Lite用で、スーパーカブ110Liteにはこのアタッチメント無しでUSBソケットType-Cが装着できる。

ハンドル右側に装着されたUSBソケットType-C。クロスカブはUSBソケット取付アタッチメントをブレーキマスターに共締めしてソケット本体を装着している。

旧来の50ccモデルよりは割高だが……

価格面は非常に難しい設定だったことが窺われる。基本的に通常の110と共通のため、タンデムステップレス(プロに関しては元から装備されていない)、原付二種ステッカーレスとしたところで、元の110から安くできる金額はたかがしれている。それどころか専用メーターや専用の制御系、専用ステッカーを設定した分だけ手間暇がかかっているとも言える。

ステッカーとタンデムステップ、専用メーターを除けばルックスは110と変わらない。走行性能的には原付二種の110cc未満、50ccの原付以上といったところ。

そのため、価格は通常の110に対して110Liteは概ね1万円安という価格設定になっている。旧来の50ccモデルが110ccモデルの約10万円安だったことに比べると割高感は否めない。

車名は110でもあくまで原付(一種)なの原付免許や付帯免許で運転できる一方、30km/h制限や二段階右折などの道交法に縛られる。

とはいえ、動力性能については50ccを大きく凌駕している点はプラスに考えられるし、二輪免許ではなく原付免許あるいは付帯免許で原付二種に近い性能を手に入れられるのは大きいかもしれない。