連載

自衛隊新戦力図鑑

通常のディーゼル潜水艦を上回る長期間潜航能力

10月14日、川崎重工神戸工場で「たいげい」型潜水艦6番艦の進水式・命名式が行なわれ、「そうげい」と名付けられた。「たいげい」型は、クジラにちなむ名前を与えられており、「そうげい」は漢字で「蒼鯨」と書き、鮮やかな蒼いクジラを意味すると説明されている。

海面に浮かぶ「そうげい」。「たいげい」型の外形は、ひとつ前の「そうりゅう」型とほとんど同じで見分けることが難しい。しいて言えば、「たいげい」型のほうがわずかに“ふっくら”した印象(写真/ふにに)

21世紀に入り、中国の潜水艦戦力が急速に整備されるなか、海上自衛隊では潜水艦の隻数を従来の18隻体制から22隻体制に増強し、また連続潜航期間の延長に取り組んできた。日本の潜水艦はディーゼル・エンジンと発電機(および蓄電池)を搭載する「ディーゼル・エレクトリック」方式の機関を搭載しているが、エンジンを動かすためには空気(酸素)が必要なため、数日おきに浮上しなければならず、隠密性を阻害していた。

2009年より就役した「そうりゅう」型では、従来のエンジンに加えて、空気を必要とせず水中でも使える「AIP(非大気依存推進)」機関を搭載し、潜航可能期間を十数日間に延長した。さらに2022年より就役した「たいげい」型はAIPを廃止する一方で、蓄電池を従来の鉛電池から、重量容積比で2倍以上の充電能力があるリチウムイオン電池に替え、潜水可能期間は1ヵ月近くまで延長されたようだ。

「そうりゅう」型11番艦「おうりゅう」。AIPを搭載した「そうりゅう」型だったが、11番艦・12番艦はAIPを廃止し、リチウムイオン電池搭載に切り替えている。「たいげい」型は当初からリチウムイオン電池搭載を考慮した設計がなされている(写真/海上自衛隊)

最新の魚雷を装備し、高い攻撃能力を持つ

「たいげい」型は攻撃力も強化されている。潜水艦の主武装は魚雷だが、「そうりゅう」型までが1989年生まれの「89式魚雷」を搭載しているのに対して、「たいげい」型からは2018年に導入された「18式魚雷」を搭載する。

後からみた「そうげい」。「そうりゅう」型に続き、「たいげい」型は先進的なX舵を備えている(写真/ふにに)

電波(レーダー)が使えない水中では、音波(ソナー)を目標の探知・捕捉に用いるが、18式魚雷は目標の識別に音響画像センサーを備え、目標を「カタチ」で捕捉することで、オトリなどの防御手段に対抗できる。また、音響環境が複雑な浅海域でも、優れた探知能力があるようだ。

さらに、エンジンの雑音を抑制した改良型が「18式魚雷(B)」として導入されている。相手は魚雷のエンジン音を探知することで、自分が攻撃を受けていることを察知するが、雑音を抑制したことで敵に攻撃を察知されにくくなる。

魚雷から発生する雑音を抑えることで、敵に発見される危険性が減り、相手に反撃や対抗手段の余裕を与えない。また、潜水艦自身も攻撃を受ける可能性が大きく減るだろう(画像/事業評価報告書より)

魚雷だけでなく、今後は長射程の巡航ミサイルも装備される予定だ。これまでも、アメリカ製の対艦巡航ミサイル「ハープーン Block2」を搭載できたが、新たに国産の「潜水艦発射型誘導弾」の量産がスタートする。公表されている運用構想図によれば、このミサイルはハープーンを上回る射程を持ち、敵の探知・攻撃圏外から敵艦船を攻撃することを目指している。

潜水艦発射型誘導弾の運用構想図。敵の攻撃の届かない遠距離から、一方的攻撃を加えることが想定されている(画像/事業評価報告書より)

ますます戦闘能力を高める「たいげい」型は、現在のところ合計10隻の建造が計画されている。6番艦「そうげい」は、今後艤装などを行ない再来年2027年3月に就役する見通しだ。

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