令和に蘇る20代の熱き記憶!
当時を知るからこそ醸し出せる90年代の空気感
秋田県で唯一、ドリフト走行が可能なサーキット「新協和カートランド」。かつて秋田のストリートを席巻した老舗ドリフトチーム『EXCESSIVE』のメンバーである三浦さんにとって、ここは今も変わらぬ“ホームコース”だ。
普段は“ちょいボロ”のS14シルビア前期で走っている地元のレジェンドが、この日に限ってピカピカの後期型で登場したものだから、いつも走りを教わっている若者たちが驚くのも無理はない。

パッと見はノーマルバンパー仕様の地味なスタイルだが、「昔はこういう普通っぽい仕様でガンガン走ってたんですよ」と笑う三浦さん。90年代当時、これこそがスタンダードであり最先端の姿だった。当時を知る人にはたまらない、渋いパーツチョイスが随所に光る。

このシルビアは、「当時乗っていたS14と同じ仕様を再現しつつ、今だからできることを盛り込む」というテーマで製作されたもの。19歳の頃、手取り10万円の給料で勢いのまま新車購入したS14シルビア後期(K’sエアロ)には、純正オプションのリップやサイドステップ、そしてナバーンウイングが標準装着されていた。そのルックスを忠実に再現しながら、当時は諦めたカスタムを加えた“令和版ストリート仕様”を目指している。

3年前、ついに走行4万km・無事故・サンルーフ付きという極上車を発見。しかしその価格はなんと400万円(当時の新車価格は230〜270万円)。さらに90年代当時のパーツも軒並み高騰中で、いくら仕事を頑張っているとはいえ予算はカツカツだったという。
人気車種ゆえ、部品探しにも苦労は絶えない。ナバーンウイングこそ入手できたが、愛用していたGPスポーツのフロントバンパーはいまだ捜索中。廃盤となったGPスポーツのマフラーは現行モデルで代用しており、再現度は約90%といったところだ。

「今の時代、エンジンがドノーマルって逆にインパクトありませんか!?」と語るように、純正のエアクリーナーボックスを敢えて購入してまでノーマル感を追求。数少ない社外パーツであるシンコー製エキマニも、「純正より地味な色だから」という理由で選び、全体の“黒さ”を引き立てる演出をしている。

Y31セダン流用のブレーキマスターシリンダーは、ブレーキラインが横出しになるため、GKテック製の黒いラインに交換してエンジン裏を通す小技も光る。ボンネット裏はボディ同色のツヤ消し塗装仕上げで、インシュレーターや注意書きラベルも日産部販で新品を購入して貼り直すなど、純正再現へのこだわりは徹底している。

製作テーマのひとつが“当時できなかったけど、今だからこそやりたいこと”。その中で最もこだわったのが、R33GT-R純正ホイールのバフ掛け仕様だ。
S14後期を新車で購入した当時、ストリートドリフトの震源地は横浜の埠頭。シーンの中心にいた『ナイトウォーカーズ』が生み出したのが、BCNR33純正17インチホイール流用のムーブメントだった。
「赤いボディにバフ掛けホイールの組み合わせが最高に格好良かった」と振り返るように、三浦さんの中で赤いS14=青春そのもの。チームメンバーが赤で統一していた光景はいまも忘れられないという。
ただし現在のS14は、R35GT-Rニスモのステルスグレーにオールペン済み。「GT-Rニスモが格好良かったから塗ってみただけ。いずれは赤に戻します」と笑う三浦さん。

内装には、当時のドリ車カルチャーを象徴するBRIDEのグラデーション生地を使用。シートだけでなく、リヤシートやドアトリムも張り替え済みだ。選んだのは現行モデルではなく、当時を意識してベルトホール形状がシャープなジータⅢ。かつて、谷口信輝選手や熊久保信重選手らが採用していた仕様そのものだ。

BNR32純正シフトノブと旧ロゴのmomoヴェローチェは当時の愛機を再現していて、ニスモのキルスイッチ風シガーソケットは90年代から愛用し続けている自慢の当時モノ。
S15ルームミラーの流用やドアキャッチに被せた日産の他車種純正カバーで内装の黒感をアップし、S15(Lパッケージ)のアクセルペダル&BNR34ペダルカバーや純正オプションのアルミスカッフプレート、白のトラスト・ブーストメーターで黒を引き立てている。

外装では、三分割構造のナバーンウイング装着に伴い、左サイドのオートアンテナ穴や中央のハイマウントランプをスムージング。助手席Aピラーのグリップも「外から見えると格好悪い」と撤去し、穴をパテ埋め。リヤワイパーも取り外し、モーター穴は前期用リヤガラスへの交換で対応するなど、細部まで徹底した美意識を貫いている。もちろんニスモ製リヤバンパーも当時モノを入手済みだ。

若い頃は走りに夢中で気にしてなかったが、このシルビアではドリフトをしない事もあって、周囲から見られる事を意識。覗き込まれても恥ずかしくないように…と、足回りも見栄えを重視する。
カラフルなD-MAXのD1スペック車高調や各アーム類に負けないため、ハイキャス無しリヤメンバーの交換時にシルバーに塗装。さらに、デフカバーは手磨きで鏡面処理して、それが映えるようにとデフケースはツヤ消し黒で塗装している。LSDは新車で乗っていた頃と同じKAAZ(カーツ)1.5WAYを選んだ。

ここまで美しく仕上げたなら、ぜひホームコースでドリフト姿も見たいところ。だが本人は「飛び石でもショックなのに、壊したら立ち直れません(笑)」と笑い飛ばす。ドリフト用は前期、観賞用は後期。シルビアを2台に分けて愛でる三浦さん流の楽しみ方が、令和の秋田にあの熱気を再び呼び戻している。
●取材協力:新協和カートランド 秋田県大仙市協和荒川嗽沢1-2
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