ミッドシップ4WDのGRヤリスがついにレースデビュー

とにかく、「風を入れる」ことに注力したMコンセプト。

スーパー耐久のST-Qクラスに参戦したTOYOTA GAZOO ROOKIE RacingのTGRR GR Yaris M conceptがそのクルマだ。

GRヤリスはフロントのに1.6L直3ターボのG16E-GTSエンジンを横置きし、フロントからリヤへトルク配分を行なう4WD機構を持つ。

これに対して今回レースデビューしたGRヤリスMコンセプトは、新開発の2.0L直4ターボエンジンをリヤミッドに横置きし、リヤからフロントにトルクを送るシステムを採用する。ノーマルのGRヤリスの1.6Lエンジンを2.0Lとして、配置を前後反対向きにした、というわけだ。

今年1月の東京オートサロン2025で公開されたGRヤリスMコンセプト。ミッドシップ化で周囲を驚かせた。

ミッドシップ化した理由は、前後重量配分を最適化し、より曲がりやすい、楽しいクルマを開発するため、だという。フロントエンジンのGRヤリスの前後重量配分がほぼ6:4なのに対して、重量物のエンジン+トランスミッションをリヤに配置したことでMコンセプトのそれは「リヤがやや重いバランスで設計している」(GR高橋プレジデント)ということだ。

搭載する新開発エンジン、課題は熱

赤いシリンダーヘッドが特徴的な新型エンジン。2.0L直4エンジンの型式はG20E型。

搭載する2.0L直列4気筒ターボエンジンは、型式をG20E型という。トヨタが開発中の高性能エンジンで、縦置き/横置きどちらにも対応できるように開発している。その特徴は、軽量・コンパクトなこと。従来の2.4L直4ターボ(T24A-FTS型 272ps/460Nm)より、体積と全高を10%コンパクトにしつつ、「400ps以上」という高出力をマークする新世代エンジンである。スポーツカー、モータースポーツ用に特化したエンジンというわけではなく、次世代の高性能エンジンという位置づけだ。

コンパクトにするために、「ミリ単位で」日々改良を行なっているという。G20E型のボア×ストローク値は発表されていないが、T24型のボア×ストロークは87.5mm×99.5mmでボア/ストローク比は1.14。いわゆるロングストローク型だが、G20E型ではもう少しスクエアに近づくのだろう。

Mコンセプトのレースデビューは予定では前戦のオートポリスだったいう。それが岡山戦に延びたのは、エンジンの熱対策の影響だという。

高出力のG20E型をリヤに載せることで、熱対策はかなり厳しくなった。触媒、排熱、エンジンの冷却といったサーマルマネジメントは困難を極めたという。

「とにかく風をどう入れるか、それを主眼に開発してきた」(高橋プレジデント)

大きく張り出したリヤフェンダーの前方にはエアインテークが。ここから空気を採り入れ、エンジンを冷やすのだ。

というだけあって、リヤまわりは大きく変更されている。トレッドは大きく拡がり、タイヤを外側へ置くことでエンジン周りの空気の流れをコントロールしやすくするとともに、張り出したリヤフェンダー前方からフレッシュエアを採り入れ、エンジンの冷却に生かしている。フロントは大きなラジエーターを斜めに配置し、ファンを2基搭載していた。

エンジンの吸気はここから。

左右のボディサイドにはエンジンの吸気用の空気採り入れ口が設けられている。

開発途中では、ルーフ上部に吸気取り入れ口を置いたこともあったというが、岡山に持ち込まれた車両では変更されていた。

Mコンセプトを走らせたドライバーからの反応は、ストレートに「曲がって楽しい」だという。走る・曲がる・止まるのうち、曲がるはすでにかなり実現できているが、止まる=ブレーキや、ハンドリングには改善の余地があるという。

このMコンセプトの役割は、単にサーキットだけにとどまらない。「モータースポーツ起点でもっといいクルマづくり」を掲げるGRだから、当然「最終的なゴールは市販化。課題はたくさんあって、市販化の明確な時期は白紙状態だが、最終的なゴールは市販化である」(高橋プレジデント)と断言する。

リヤミッドシップの4WDスポーツ。プロジェクトがこの先どう展開するか、楽しみだ。