ホンダに代わって夢を実現!

ドナーのFK8も購入し実現した夢のプロジェクト!

クルマ一台を作るにあたって、人それぞれテーマを掲げることはよく有ることだが、広島県にある“ワイズナーオートモーティブ”の代表、安成憂也さんのそれは、かなり壮大だ。

バブル景気を背景にホンダが総力を結集して開発したNSXは、F1から技術を応用したミッドシップを採用。世界初となるオールアルミボディも実現するなど、当時の最新技術がこれでもかと盛り込まれていたことはご存知の通りである。

だが、安成さんが個人的にずっと不思議に感じていたのが、そこまでこだわり抜いて開発されたNSXの前後重量配分が50:50ではないこと。現実は42:58とリヤ荷重が大きいのだ。

「それで色々と調べてみたら、実は開発当初は2.0Lの直4が搭載される計画だったらしいんですよね。だとするとV6を積んでリヤヘビーになったこととも辻褄が合う。じゃあ、当時ホンダができなかったことを自分でやっちゃおうと思ったのがきっかけで、せっかくならその時の最新のタイプRだったFK8のK20Cターボに換装しようと考えたんです」。

2019年からNSXのAT車を所有していた安成さんは、思い立ったが吉日とドナーのFK8型シビックタイプRも購入し、NSXの30周年に間に合わせようとプロジェクトを発足。神奈川県にある“S&Aオートクリエイト”にNSXとFK8を同時に持ち込み、製作を依頼した。

エンジンスワップの実績に長けるS&Aにとって、エンジンとミッションを物理的にマウントすること自体は、それほど高いハードルではない。最大のポイントは燃料供給システムが直噴で、しかも電動ウエストゲートまで備えるK20Cをどうやって制御するか。純正ECUはCAN通信対応でシャシー系の制御も統合されており、FK8以外の車体で使うことは現実的に不可能である。

そこでリサーチをかけたところ可能性が高かったのが、モーテックのM1、オーストラリアのEMtron(エムトロン)、そしてイギリスのSyvecs(サイベックス)の三択。中でもサイベックスはFK8にカプラーオンで装着できるプラグインキットが設定されていたため、第一候補に浮上した。

入手したサイベックスのECUは、S&Aの中戸川さん曰く「コンピューターの知識がある人がその気になれば、セッティングのさらに手前のロジックから定義することができる奥の深いECU」だったとのこと。実際に何をどう弄ったのかは「もう何年も前なので忘れちゃいました」とはぐらかされてしまったが、結果的にNSXに搭載したK20Cを手中に収めることに成功した。

しかも、ダイナパックでのパワーチェックでは385psを計測。1.1の補正値を掛けると約423ps相当の最高出力を実現させたことになる。

K20Cをリヤミッドに載せると、FK8純正位置のインタークーラーはバルクヘッドの前に吊り下げたような格好となる。ただでさえ冷えにくい上、FK8も前期型は熱を持ちやすく、後期型で対策された事実を考慮し、ワンオフの水冷式インタークーラーを導入。XRPのPTFEホースやクランプなど、ディテールにもこだわった作り物もS&Aオートクリエイトの得意技だ。

マフラーはセンター3本出しのFK8純正を流用し、テールパイプのみREMARKを流用。リヤのディフューザーはFL5の純正を使い、ほぼノーマル然としたエクステリアのままタイプRエンジン搭載をこっそりとアピールしている。

サスペンションはJRZの3WAYダンパーを装備。幅広いセッティングに対応し、ストリートからサーキットまで、あらゆるシーンで最適な減衰特性を実現することができる。

ホイールは安成さんが日本総輸入元を務めるアメリカの鍛造1ピースメーカー“Titan7(タイタンセブン)”のT-C5を装着。サイズは車種別専用の設定となっており、NSXはフロントが8Jプラス37×17インチ、リヤが10Jプラス40×18インチとなる。ブレーキはBiot(ビオ)のブレンボキャリパーキットを装着。

ドライブシャフトもカスタムメイド。駆動系にはATSのカーボンデフとツインプレートクラッチも装備されており、将来的には富士スピードウェイでタイムを出すプランも練られている。

本来はFF用であるK20Cをリヤミッドに搭載するため、シフトリンケージも課題の一つだった。意外な解決法がS660の純正シフター流用。リンケージを5cm足しただけで、違和感無くFK8純正ミッションが使えるようになったそうだ。

なお、「ノーマル風で涼しい顔して速い」というのも狙いの一つであるため、インテリアのカスタマイズは最小限に抑えられている。個性的なフルバケットシートはレカロのRCSだ。

「V6から直4ターボになって車両重量は80kgくらい軽くなってますから十分でしょ」とは、オーナーである安成さんの弁。ホンダが本当にやりたかったことはこれなんじゃないか? という自ら立てた命題をクリアし、その走りをストリートで堪能する贅沢を味わっている。

●取材協力:ワイズナーオートモーティブ TEL:082-961-3984/S&Aオートクリエイト 神奈川県平塚市大神3341-15 TEL 0463-75-9622

「走ってこそ光るホンダ魂!」C30A改3.1LフルメカチューンNSXの圧倒的走り

初代NSXの走りを極めるなら、これ以上ない選択…C30A改3.1Lエンジンにフルチューンを施したペントルーフのマシンが、NAならではの高回転型V6を力強く響かせる。エアロ、ブレーキ、サスペンションも全て機能優先で揃え、見る者の目も、乗る者の手も、存分に楽しませる一台となった。

【関連リンク】
ワイズナーオートモーティブ
https://www.ysnerautomotive.com/
S&Aオートクリエイト
http://sa-autocreate.jp/