スズキ・DR-Z4S……1,199,000円

ボディカラーは、チャンピオンイエローNo.2/ソリッドスペシャルホワイトNo.2と、ソリッドアイアングレーの2色を設定。

前任車に感じたハードルの高さ

初っ端から私的な話で恐縮だが、少し前まではオンロード9:オフロード:1だった僕のバイクライフは、近年は7:3くらいに変化している。具体的な話をするなら、3年ほど前からは定期的に林道ツーリングに出かけているし、今年はクローズドのオフロードコースを5回走行した。

もっとも僕がそういった用途に使っている車両は、各部のヤレが進んだ1997年型のホンダSL230なので、仕事でオフロード系のバイクをテストする際は、最近は次期愛車候補の検討というサブテーマを持って臨んでいる。

スズキが10月から発売を開始したDR-Z4Sの試乗でも、その意識は同様だったのだが……。

DR-Z4Sの前任に当たるモデル、2001~2008年に販売されたDR-Z400S(北米市場では2024年まで現役だった)の乗り味を振り返ると、僕の用途に合致するのは難しそうである。

と言うのもかつてのDR-Z400Sは、エキスパート指向の漢気溢れる特性で、残念ながら僕の技量では、オフロードが楽しいとは思えなかったのだ。

ほとんどの部品を新作し、最新の電子制御を導入

世間では再販や復活などという言葉が使われているけれど、DR-Z400SとDR-Z4Sの共通点はエンジンの基本構成くらいで(と言っても主要部品の多くを新作)、ほとんどの部品が別物である。そしてオフロード性能を強調していた前任車とは異なり、DR-Z4Sの広報資料にはデュアルパーパスというキーワードが記されている。

2種類のセミダブルクレードルフレームは、バックボーンパイプが1本の左が旧DR-Z400S用で、モトクロッサーRM-Zを思わせる構成の右は新型DR-Z4S用。アルミ製のシートレールとスイングアームも完全な別物。

まあでも、フロント:21インチ・リア:18インチというタイヤの外径が不変で、車格やパワーに大差がないことを考えると、基本的な方向性は同様ではないだろうか。ちなみに、新旧DRのホイールベース・シート高・前後ホイールトラベル・最高出力は以下の通りである。

●新DR-Z4S:1490mm・890mm・280/296mm・38ps
●旧DR-Z400S:1475mm・875mm・288/295mm・40ps

ただし前任車とは異なる機構として、DR-Z4Sは多種多様な電子デバイス、S.I.R.S.:SUZUKI INTELLIGENT RIDE SYSTEMを導入している。この機構の目玉は、エンジン特性がA/B/Cの3種、トラクションコントールの利き方が2/1/G(グラベル)+オフの4種から選択できることだが、オフロード好きの視点で見るなら、ABSの設定が前後オン/前後オフ/リアのみオフの3種から選べることも歓迎したくなる要素だろう。

エンジンの黄色で表示した部分が新作。吸気バルブはチタン製で、排気バルブは内部にナトリウム封入した耐熱鋼。スロットルボディは、前任車のキャブレターより6mm大径のφ42mm。

なおスロットルバルブは電子制御式だが、ライダーの感性にフィットしやすいことや遊び調整が容易に行えることを考慮して、スロットルからスロットルポジションセンサーまでは、あえてケーブルを使用している。

その構造はGSX-R1000/Rやハヤブサ、そしておそらくはMotoGPレーサーのGSX-RRも同様で、誤解を恐れずに表現するなら、DR-Z4Sと兄弟車のSMは、オンロードの最高峰モデルと同等の姿勢で開発されたのだ。

あまりに乗りやすさにビックリ

説明するのが遅くなったけれど、当記事は10月中旬に栃木県の丸和オートランド那須で開催された試乗会の報告である。写真を見ていただければわかるように、当日の天気は雨で、路面は朝からグチョグチョ。

スズキが各メディアに設定した走行枠は20分×4本だったものの、かつてのDR-Z400Sにハードルの高さを感じた僕は、試乗前は頑張って2本だろうな……と思っていた。

ところが、2本目でカメラマンから走行写真はOKの合図が出たにも関わらず、僕は20分×4本=80分をきっちり走り切ってしまった。どうしてそんなことができたのかと言うと、DR-Z4Sが外観や車格からは想像できない、優しさを身につけていたから。そのおかげで転倒の心配をほとんどすることなく、安心して走れたのだ。

もっとも当初の僕は安全策として、エンジン特性は最も穏やかなC、トラコンは最も介入度が高い2で走っていた。とはいえ、あまりにアクセルが開けやすく、あまりにブレーキがかけやすく、あまりに前後サスペンションからの情報がわかりやすいものだから、2本目ではB+1、3本目ではA+Gモードを選択。

トラクションコントロールはのレベルは3段階調整式で、SとSMでは味付けが異なる。Gモードは後輪のスピンの抑制よりも、車体を前に進めることを重視。

調子に乗って4本目で設定したA+トラコンオフは、さすがに僕の技量ではいかんともし難かったけれど、前任車とはまったく異なる、まさかの“乗れている感”を味わわせてくれたDR-4ZSが、僕はすっかり好きになってしまった。

すべてに立つ瀬がある3種のエンジンモード

中でも僕が感銘を受けたのは、3種のエンジンモードの作り込み。こういった機構には不要?と感じるモードが存在するのが通例なのに、DR-Z4Sの場合はA/B/Cのすべてに立つ瀬があって、少なくとも僕の場合は、Aに過剰という印象は抱かなかったし、Cに露骨な物足りなさは感じなかった。

SDMS:SUZUKI DRIVE MODE SELECTORのイメージ図。グラフを見ると、Aの低開度とCの高開度にピーキー?というイメージを抱く人がいるかもしれないが、そういう雰囲気はまったくなかった。

自分の普段の林道ツーリングに当てはめると、朝から昼くらいまではAとBを使い分け、心身が適度に疲労した午後はCを多用すると思う。

また、後輪の滑りを適度に抑えながらも、駆動力が途切れず、前へ前へと車体を押し進めて行くトラコンのGモード、ここぞという場面でしっかり踏ん張る一方で、オフロードバイク初心者でも馴染みやすそうな前後サスペンションのセッティングにも、僕は大いに感心。

今回の試乗会には、モーターファンの枠を使って女優・モデルの北向珠夕さんも参加。オフロードの経験はあまり多くないそうだが、DR-Z4Sの扱いやすさのおかげでエンスト・転倒は1度も無かった。

そんなわけで、DR-Z4Sは僕の次期愛車候補の1台になった。と言っても、クローズドコースだけではわからないことがあるので、今後は機会を見つけて、林道ツーリングを含めたロングランに使ってみるつもりだ。

80/100-21という前輪のサイズに変更はないものの、後輪は120/90-18→120/80-18に変更。純正指定タイヤはIRC GP410。同じブランドで方向性を明確にするなら、オンロード派にはGP-210、オフロード好きにはGP-21/22やGP-610がよさそうだ。

ライディングポジション

ライディングポジションはオフロード車の定番と言うべき構成。ただし着座位置を基準にして先代と比較するなら、ハンドルグリップ位置は28mm上方、ステップ位置は23mm後方に移動している。シート高は890mmで、身長182cm・体重74kgの筆者でも両足がベッタリではないが、車重が軽く(と言っても、先代の最終型より10kg重い151kg)、尻をズラしやすいので、数値から想像するほどハードルは高くないように思う。

ディテール解説

視認性に優れる計器は、シンプルなモノクロ液晶。右端の時計の下には、エンジンモードとトラクションコントロールのレベルを表示。ハンドルロックはヘッドパイプ右の別体式→イグニッションキーシリンダー一体式に変更。
日本仕様は、海外仕様の標準より座面が30mm低いローシートを採用。その背景には、足つき性に対する配慮に加えて、シート高は900mm以下というJASO規格に適合して日本の型式を取得するため、という事情があったそうだ。なおSMのシートを転用すれば、座面高は海外仕様と同じ920mmになる。
車載工具ボックス?と誤解する人がいそうだが、シート後方の左側に備わる樹脂製の部品は、蒸発したガソリンの大気開放を抑制するキャニスター。
写真では取り外しているが、外周に備わるギザギザの攻撃性を考慮したステップは、ラバー脱着式。先代の幅が33mmだったのに対して、新型は49mmにワイド化。
オフロード車の流儀に従い、シフト/ブレーキペダルは可倒式。リザーブタンク一体型のリアブレーキマスターシリンダーは、モトクロッサーRZ-Mから転用。
90×62.5mmのボア×ストロークに変更はないものの、カムシャフトやバルブ、ピストン、クラッチなど、水冷単気筒エンジンは主要部品の多くを新作。点火はツインプラグ。
先代ではφ47mm正立式だったフロントフォークは、新型ではφ46mm倒立式に変更。トップには伸び側、下部には圧側ダンパーアジャスターが備わる。
ボトムリンク式という構成は踏襲しているが、リアサスペンションも先代とは別物。プリロード/伸び側/圧側低速/圧側高速ダンパーが調整可能。なお先代の前後ショックのブランドはショーワだったが、新型はKYBに変更。
先代のブレーキディスクがフロント:φ250mm/リア:φ220mmだったのに対して、新型はφ270m/φ240mm。
ブレーキキャリパーは先代と同様のニッシン。フロントは片押し式2ピストンで、リアは片押し式1ピストン。

主要諸元

車名:DR-Z4S
型式:8BL-ER1AH
全長×全幅×全高:2270mm×885mm×1230mm
軸間距離:1490mm
最低地上高:300mm
シート高:890mm
キャスター/トレール:27°30′/109mm
エンジン形式:水冷4ストローク単気筒
弁形式:DOHC4バルブ
総排気量:398cc
内径×行程:90mm×62.6mm
圧縮比:11.1
最高出力:28kW(38ps)/8000rpm
最大トルク:37N・m(3.8kgf・m)/6500rpm
始動方式:セルフスターター
点火方式:フルトランジスタ
潤滑方式:圧送式ドライサンプ
燃料供給方式:フューエルインジェクション
トランスミッション形式:常時噛合式5段リターン
クラッチ形式:湿式多板コイルスプリング
ギヤ・レシオ
 1速:2.285
 2速:1.733
 3速:1.375
 4速:1.090
 5速:0.863
1・2次減速比:2.960・2.866
フレーム形式:セミダブルクレードル
懸架方式前:テレスコピック倒立式φ46mm
懸架方式後:リンク式モノショック
タイヤサイズ前:80/90-21
タイヤサイズ後:120/80-18
ブレーキ形式前:油圧式シングルディスク
ブレーキ形式後:油圧式シングルディスク
車両重量:151kg
使用燃料:無鉛レギュラーガソリン
燃料タンク容量:8.7L
乗車定員:2名
燃料消費率国交省届出値:34.9km/L(2名乗車時)
燃料消費率WMTCモード値・クラス3-1:27.7km/L(1名乗車時)