スズキDR-Z4SM……1,199,000円

ボディカラーは、スカイグレーとソリッドスペシャルホワイトNo.2の2色。前者のホイールのリムはDR-Z4Sと同様のブラックだが、後者は艶やかなブルーを採用。

スーパーモタード≒改造車という印象

日本におけるスーパーモタードブームの黎明期、1990年代をリアルタイムで体感したからだろうか、フロント:21インチ/リア:18(あるいは19)インチのオフロードバイクのタイヤを、前後17インチに変更した車両に対して、僕は“改造車”という印象を抱いていた。

もっとも、日本の4メーカーがそういった車両を普通に販売するようになった2000年前後以降は、僕のような考え方はする人は少数派で、オフロードバイクとは一線を画する、気軽さや機動力を備えたスーパーモタードを高く評価するライダーが増加。

事実、スズキが2005~2009年に日本で販売したDR-Z400SMは、開発ベースのDR-Z400Sを上回る支持を集めていたようだ。

そのあたりを踏まえて、スズキは2025年10月から国内発売を開始した新世代DR-Z4の販売台数を、S:400台、SM:800台に設定。

そしてかつてのDR-Z400とは異なり、2台のDR-Z4はほぼ同時期に開発されたようだが、やっぱり個人的には、SMはSありきのモデルで、SなくしてSMは語れない……と思っていた。

各車各様の足まわり

90×62.5mmのボア×ストロークは先代と同様だが、水冷単気筒エンジンは主要部品の多くを新作。ピストン形状やクランクケース内部構成の見直しによって、メカロスは最大で20%低減。

さて、この車両に興味を持っている人ならご存じのはずだが、DR-Z4SMはDR-4ZSの兄弟車で、水冷単気筒エンジンやスチール製セミダブルクレードルフレーム、S.I.R.S.:SUZUKI INTELLIGENT RIDE SYSTEMと命名した電子デバイス、アグレッシブな雰囲気の外装など、主要部品の多くを共有している(ただし、後輪の滑りを抑制するトラクションコントロールは各車各様)。

先代と同様の燃焼室中央に加えて、新型は左側吸排気バルブの間にスパークプラグを追加。いずれも着火性に優れるイリジウムを採用。クラッチはアシスト&スリッパー式。

では2台の相違点は何かと言うと、それは言わずもがなの足まわりだ。フロント:80/90-21・リヤ:120/80-18のブロックパターンタイヤを履くSに対して、SMはフロント:120/70ZR17・リヤ:140/70R17のオンロードタイヤで、フロントブレーキディスクは、S:φ270mm、SM:φ310mmというサイズを選択(リアブレーキディスクはいずれもφ240mm)。

先代とはまったく異なる構成のセミダブルクレードルフレームは、モトクロッサーのRM-Zを思わせる構成。アルミスイングアームはテーパータイプ。

そしてフルアジャスタブル式の前後ショックは、基本構成を共有しつつも、Sは未舗装路、SMは舗装路をメインとした設定になっている(前後ホイールトラベルは、S:280・296mm、SM:260・277mm)。

また、車体寸法に注目すると、Sの軸間距離・キャスター角・トレールが1490mm・27°30′・109mmであるのに対して、SMは1465mm・26°30′・95mm。

悪路走破性を重視するDR-Z4Sの最低地上高は、DR-Z4SM+40mmとなる300mm。

これらの数値からは、S:安定性重視、SM:旋回性重視というキャラクターが伺えるものの、よくよく考えてみると、Sはオフロードバイク、SMはオンロードバイクとしての魅力を追求しただけで、開発陣に車体寸法で2台の差別化を図ろうという意識はなかったと思う。

生粋のオンロードバイク?

前述した言葉を覆す展開だが、10月中旬に開催された試乗会でDR-Z4SMを体験した僕は、これはもはや“改造車”ではないと思った。

かつてのDR-Z400SMも含めて、これまでに体験したスーパーモタードの多くは、開発ベース車になったオフロードバイクに対する何らかのマイナス要素を感じたのだけれど(フロントフォークの急激なノーズダイブに戸惑ったり、旋回初期の前輪に落ち着きの悪さを感じたり)、DR-Z4SMにはそういう気配が見当たらない。

誤解を恐れずに表現するなら、生粋のオンロードバイクと言いたくなる乗り味なのだ。

いや、その表現は正しくないのか。豊富なサスストロークの効果で、スロットルやブレーキを使っての姿勢変化は生粋のオンロードバイクより起こしやすいし、重心の高さやマスの集中化が原因なのだろう、ハンドリングは生粋のオンロードバイクより格段に軽快。

ただしDR-Z4SMの乗り味は至ってフレンドリーだから、ライディングをアジャストする必要はまったくなかった。

とはいえ当初の僕は、前任車のDR-Z400SMより2ps低い38ps/8000rpmの最高出力に対して、そこはかとない疑問を抱いていたのである。

もっとも兄弟車のDR-Z4Sでオフロードを走った際は、38psで十分すぎると思ったものの、DR-Z4SMは基本的にオンロードバイクなのだから、欧州のA2ライセンスの上限となる47psを目指してもよかったんじゃないか……と(市場でライバルになりそうなKTMの兄弟車、390SMC-Rと390アドベンチャーRは45ps/8500rpm)。

全回転域がパワーバンド

ところが実際の走行中に、最高出力が気になる場面はなかったのだ。

その背景には、試乗日の天気がどしゃぶりの雨で、試乗の舞台が全開区間が短い茨城県のつくるまサーキット那須(全長は約1kmで、ストレートは約250m)だったという事情があるのかもしれないが、エンジンのおいしいところをしっかり使えるからか、物足りないという感情は湧いて来なかったのである。

このあたりの話はなかなか表現が難しいのだけれど、最高出力発生回転数が8000rpmでも、DR-Z4SMのエンジンに回してナンボ的な気配はなく、全回転域がパワーバンドという印象で、3種が存在するエンジンモードのどれを選んでも、どこからどんなスロットルの開け方をしても、絶妙にして心地いい加速をしてくれるのだ。

もちろん、その加速はエンジンだけで語れるものではない。

程よい塩梅で後輪の滑りを抑制してくれるトラクションコントロールや(今回の試乗で使ったのは1と2のみで、滑りの許容範囲が広いGモードとオフは試す余裕がなかった)、臨機応変な動きの前後サスペンション、剛性の高さとしなやかを高次元で両立したセミダブルクレードルフレームなども、パワーバンドの広さスロットルの開けやすさに大いに貢献していると思う。

いずれにしてもDR-Z4SMは、これまでの僕がスーパーモタードに抱いていた概念を打ち崩す、フレンドリーにしてナチュラルで、それでいてエキサイティングな乗り味を実現していたのだ。そして今現在の僕は、レースに特化しないスーパーモータードとして、これはひとつの理想形ではないか……と、感じているのだった。

純正指定タイヤはオールラウンドスポーツラジアルのダンロップQ5Aで、サイズは先代と同じ120/70R17・140/70R17。

ライディングポジション

890mmのシート高とステップ位置はDR-Z4Sと同じだが、ハンドルグリップ位置が低いため、DR-Z4SMは戦闘的&オンロードスポーツ的な雰囲気。着座位置を基準にして先代と比較するなら、ハンドルグリップ位置は18mm後方、ステップ位置は20mm後方に移動している。足つき性は良好とは言い難いけれど(筆者の身長は182cmで、体重は74kg)、このモデルならではの運動性を考えると、その点に異論を述べるのは野暮な気がする。
 

ディテール解説

LEDヘッドライトは、1灯でロー/ハイを使い分けるバイファンクションタイプ。フロントウインカーには、ポジションランプの機能も備わっている。
左スイチボックス上部に備わるボタンは、エンジンモードとトラクションコントロールのレベル調整用。バックミラーの右にはヘルメットホルダーを設置。
右スイッチボックスに備わるのは、シーソー式のセル/キルスイッチとハザードボタン。スロットルバルブは電子制御式だが、ライダーの感性にフィットしやすいことや遊び調整が容易に行えることを考慮して、スロットルからスロットルポジションセンサーまでは、あえてケーブルを使用。
足つき性やJASO規格に基づく乗車姿勢基準を考慮してローシートを装備するDR-Z4Sとは異なり、DR-Z4SMは海外仕様と同じ標準シートを採用。両車は互換性があるので、SMにSのローシートを取り付けると座面高は860mmになる。
白熱球を使用していた先代と比較すると、LED化を図った新型の灯火類はかなりコンパクト。
エッジが利いたラジエターシュラウドのデザインは、先代とは完全な別物。ガソリンタンク容量は8.7ℓで、スズキの計算による航続可能距離は、DR-Z4S:241km、DR-4ZSM:250km。
水冷単気筒エンジンは、38ps/8000rpm・3.8kgf・m/6500rpmを発揮。現在の400ccクラスの基準では抜きんでた数値ではないものの、パワーの引き出しやすさはクラストップ……ではないかと思う。
先代と同様の構成を踏襲しているけれど、左右分割式ラジエターは冷却効率や他部品の配置を考えた新作。
伸圧減衰力が調整できるフロントフォークは、φ46mm倒立式。フロントブレーキディスクは先代と同様のφ310mmだが、フローティングピンを6→8本に増やしている。ブレーキキャリパーは、フロント:片押し式2ピストン/リア:片押し式1ピストン。
リアショックはプリロード/伸び側/圧側低速/圧側高速減衰力の調整が可能。リアブレーキディスクはSと共通のφ240mm。

主要諸元

車名:DR-Z4SM
型式:8BL-ER1AH
全長×全幅×全高:2195mm×885mm×1190mm
軸間距離:1465mm
最低地上高:260mm
シート高:890mm
キャスター/トレール:26°30′/95mm
エンジン形式:水冷4ストローク単気筒
弁形式:DOHC4バルブ
総排気量:398cc
内径×行程:90mm×62.6mm
圧縮比:11.1
最高出力:28kW(38ps)/8000rpm
最大トルク:37N・m(3.8kgf・m)/6500rpm
始動方式:セルフスターター
点火方式:フルトランジスタ
潤滑方式:圧送式ドライサンプ
燃料供給方式:フューエルインジェクション
トランスミッション形式:常時噛合式5段リターン
クラッチ形式:湿式多板コイルスプリング
ギヤ・レシオ
 1速:2.285
 2速:1.733
 3速:1.375
 4速:1.090
 5速:0.863
1・2次減速比:2.960・2.733
フレーム形式:セミダブルクレードル
懸架方式前:テレスコピック倒立式φ46mm
懸架方式後:リンク式モノショック
タイヤサイズ前:120/70R17
タイヤサイズ後:140/70R17
ブレーキ形式前:油圧式シングルディスク
ブレーキ形式後:油圧式シングルディスク
車両重量:154kg
使用燃料:無鉛レギュラーガソリン
燃料タンク容量:8.7L
乗車定員:2名
燃料消費率国交省届出値:36.1km/L(2名乗車時)
燃料消費率WMTCモード値・クラス3-1:28.8km/L(1名乗車時)