■人気のパルサーにライトバン追加

1978年(昭和53)年11月6日、日産自動車は同年5月に「チェリー」の後継としてデビューした小型FF車「パルサー」の商用車「パルサーバン」を追加した。パルサーは、当初4ドアファストバックのみだったが、4ヶ月後に3ドアハッチバックとクーペがラインナップ加わり、11月のこの日「パルサーバン」が追加されたのだ。
チェリーF-IIの後継車としてパルサー誕生

1978年5月に、日産初のFF小型車「チェリー」の2代目「チェリーF-II」の後継モデルとして「パルサー」がデビューした。“パルサー・ヨーロッパ”のキャッチコピーの通り、欧州車を意識したシャープな直線基調のスタリングが特徴だった。

当初、ボディはチェリーF-IIを継承して2BOXの4ドアファストバックのみ。ユーザーの多様化に対応するため、4ヶ月後にスポーティな3ドアハッチバックとクーペがラインナップに追加された。特にクーペは、チェリーのスポーツ仕様として人気があった「チェリーX-1R」の実質的な後継として注目された。

パワートレインは、昭和53年排ガス規制をクリアした最高出力70ps/最大トルク10.2kgmを発揮する1.2L 直4 OHV、80ps/11.5kgmの1.4L 直4 OHVの2種エンジンと、4速および5速MTの組み合わせを基本とし、1.4L搭載モデルには“日産スポーツマチック”を設定。スポーツマチックは、2ペダル仕様のいわゆる自動MT、駆動方式はFFである。

車両価格は、1.2L車が77.4万円~87万円、1.4L車が94.5万円&101.3万円に設定された。欧州車風のスタイリングと俊敏な走りのパルサーは、日欧で人気を獲得し、ワールドカーとして順調な販売を続けた。

商用車バンも追加してワイドバリエーションに
パルサーシリーズには、半年後の同年11月のこの日、新たに4ドア「パルサーバン」が追加された。多様化する商用車需要に対応した開発であり、最大の特徴は荷室の低床化によって使い勝手と優れた積載性を実現したことだった。

当時、リアサスペンションはコストや耐久性に配慮してリーフ・リジット式とするのが一般的だったが、パルサーバンではフル・トレーリングアーム式独立懸架を採用。このスペース効率に優れたサスペンションの採用によって、超低床パッケージが実現されたのだ。

スタイリングは、乗用車と同様のウェッジシェイプを特徴とするスタイリッシュなサイドラインで、リアは低床を強調した個性的なデザインが採用された。またインテリアはワゴン風の雰囲気を持たせ、基本装備は乗用車と同等にされた。

パワートレインは、乗用車と同じ1.2L/1.4Lエンジンと4速MTの組み合わせ。車両価格は、66.7万円~84.2万円に設定された。当時の大卒の初任給は10.3万円程度(現在は約23万円)なので、単純計算で現在の価値では約149万円~188万円に相当する。

商用車としての利便性の高さだけでなく、さらにFFの特徴を生かした優れた居住性や乗り心地、燃費性能を誇ったパルサーバンは、商用車として高く評価された。
その後パルサーバンは、サニーバンなどとADバンに統合
パルサーバンは、2代目となる1982年10月に「パルサーADバン」と改称。5代目サニーをベースにしており、リアサスペンションは、フル・トレーリングアーム式独立懸架から再び耐久性とコストを重視してリーフ・リジット式に変更された。
パワートレインは、最高出力75ps/最大トルク10.7kgmの1.3L 直4 SOHC、85ps/12.3kgmの1.5L 直4 SOHC、61ps/10.6kgmの1.7L 直4 SOHCデーゼルの3種エンジンと、4速/5速MTおよび3速ATの組み合わせ。
パルサーADバンだけでなく、サニーとバイオレット、オースターのバンもそれぞれ「サニーADバン」、「バイオレットADバン」、「オースターADバン」へと引き継がれ、パルサーADバンを含めて、これらは1990年には「ADバン」に統合された。
1982年から日産のライトバンとして43年間活躍してきたADバンだが、2025年11月に生産を終えた。生産を止めたのは、日産の業績悪化による車種整理やトヨタ「プロボックス」に販売面で圧倒され、販売が不振だったことが上げられる。
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ADバンの代替となるのは、ワンボックス型の「NV200バネット」と軽商用車「NV100クリッパー(スズキ:エブリィのOEM)」だろう。パルサーバンのようなセダン派生のライトバンに対して、ワンボックス型バンの方が搭載性や搭載量に優れ、また最近は走行性能や機動性でも遜色ないので、十分な代替の役目は果たせると思われる。
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