全高1545mmで機械式駐車場に対応。アーバンSUVの新しい価値

日本においてコンパクトSUVというカテゴリーを切り開いたモデルが、ホンダ・ヴェゼルだ。
あらためて、そのヒストリーを振り返ると、初代の誕生が2013年12月で、スポーツテイストを高めた「RS」グレードが追加されたのはモデルライフ途中の2016年2月だった。
現行の2代目にフルモデルチェンジしたのは2021年4月。デビュー当初は、バンパーとグリルがシームレスにつながっているフロントマスクに賛否両論はあったものの、ヴェゼルの新しい顔として馴染んできている。
2024年10月にはマイナーチェンジを実施、アウトドアテイストを強めた「e:HEV X・HuNTパッケージ」を設定。もともと都会派SUVとして確固たるブランドイメージを築いてきたヴェゼルの守備範囲が広がった。合わせて、走りについても芯の強いものに進化している。

そして、2025年10月に2代目としては初めて設定されたのが「RS」グレードだ。正確なグレード名はe:HEV RSであり、ハイブリッド専用グレードとなっている。また、初代ヴェゼルのRSはFWDだけの設定だったが、新しいヴェゼルRSにはAWDが設定されている点も特徴的といえる。
その開発コンセプトは「アーバン・スポーツ・ヴェゼル」。もともと都市型SUVとして定評あるヴェゼルを、より都会派に仕上げていると理解できる。
最大のポイントはサスペンションやアンテナの変更などによって全高を1545mmへと低めたこと。余裕をもって1550mmを下回ったことにより都市部に多い機械式駐車場の多くに対応できるシルエットになった。この低い全高はAWDでも共通。フルハイブリッドのSUVモデルで、1550mm以下の全高というのは貴重な存在だ。
まさに都市型SUVの新しい価値を引っさげて「RSグレードが帰ってきた」のだ。





標準モデルと比較するとスポーツ性が明らかになった

最近のデータによると、ヴェゼルの中で販売比率が7割という売れ筋グレード「e:HEV Z」のFWDは3,268,100円。それに対して、新設定された「e:HEV RS」はFWDで3,748,800円。価格差は約48万円であり、この違いはAWDでも同様だ(e:HEV Z・AWD 3,488,100円、e:HEV RS・AWD 3,968,800円)。
はたして、これだけの価格差に見合うだけの価値を新生RSは持っているのだろうか。

ホンダのファンならご存知の通り、「RS」グレードはパワートレインには手を入れず、スタイリングやシャシーセッティングで標準系グレードと差別化している。つまり、絶対的な加速性能や最高速は同等であり、ハンドリングとスタイリングのグレードアップにより48万円の価値を生んでいるのかどうかが、気になるところだ。
もっとも、「RS」グレードには、ホンダコネクトナビやETC2.0車載器、スマートフォンのワイヤレス充電器などが標準装備されている。これらは標準系グレードではオプション設定であることを考えると、実質的な価格差は25万円程度と計算できる。

外観の違いをまとめてみよう。
ブラックのハニカムデザインという古典的なスポーツテイストとなった専用フロントグリル、ブラックのドアミラー、そして前後に配された伝統のRSエンブレムが備わる。専用デザインの前後バンパーもアーバンスポーツのコンセプト通りにロー&ワイドを強調するデザインで、バンパーの違いにより全長は標準系の4340mmから4385mmへ45mmほど伸びている。また、バンパーおよびドアに装着されたダーククロムのガーニッシュもアーバンSUVらしさを強調するエクステリアの差別化要素だ。
しかしながら、こうしたエクステリアの差別化だけで25万円の価値を見出すというのは、正直いって難しい。




こだわりぬいた専用サスペンションはそれだけで選ぶ価値がある

やはり、ヴェゼルRSにおける最大のチャームポイントであり独自の価値を生み出しているのは、専用セッティングされたサスペンションにある。単純に数値で紹介すると15mmローダウンサスペンションであり、基本的なバネレートは変わっていない。タイヤサイズも、ここで比較対象としているe:HEV Zグレードと同じ18インチとなる。
しかし、RSのサスペンションを単なるローダウン版と理解するのは間違いだ。
今回、標準系とRSを同じシチュエーションで比較試乗することができたが、アクセルオフにしただけで標準系とRSの違いは明確だった。具体的には、強い回生ブレーキがかかったときのノーズダイブのフィーリングが異なる。RSのほうがフロント荷重をグッと受け止めている印象が強い。バネレートは変わっていないというが、ピッチ剛性は高まっている。
その秘密は、ヴェゼルRS専用ダンパー(ショックアブソーバー)が与えられていることにある。
ローダウンスプリングに合わせて、減衰力を生み出すバルブを専用セッティングしたというこだわりの逸品。それだけでなく、サスペンションの底付きを防ぐためのバンプストップラバーも標準系より15mm短い専用品となっている。つまり、ローダウンスプリングであってもサスペンションのストロークは同等レベルを確保しているというわけだ。
ただし、バンプストップラバーの硬度変更は、段差を超えるなど、サスペンションが底付きするようなシチュエーションでの硬さにつながっている面もある。しかしながら、バンプストップラバーが潰れない領域での乗り心地は、ローダウンサスペンションとは思えないほど良好。快適性については標準系のもつ良さをスポイルしていない。
都市高速でのゆるやかなコーナリングでも、RSという名前に期待するハンドリングを体感できた。
絶対的なロール剛性に圧倒的な差は感じられなかったが、ステアリングの初期応答から切り込んでいくフィーリングがシャープになった印象を受けた。このあたり、重心高が15mm下がっているメリットでもあるだろうし、電動パワーステアリングの制御プログラム変更によりセンター位置から切り始めたときのリニアリティを高めたという効果といえる。
まさしく「RS=ロードセーリング」という名前にふさわしい滑らかな走り味のローダウン仕様となっている。専用サスペンションの仕上がりと、前述したエクステリアの専用アイテムを合わせて考えれば、たしかに25万円の価値はあるといえるのではないだろうか。




ブラック基調のインテリアにレッドステッチ入りコンビシート

インテリアもRSの世界観を表現する専用アイテムが揃えられている。
ルーフライニングをブラックとするなど、黒の世界でまとめられたキャビンに赤いアクセントがRSの特徴だ。
本革巻ステアリングホイール、本革セレクトノブ、シフトブーツはいずれもレッドステッチ入りとなる。さらに、ドアアームレスト、アームレスト付きセンターコンソールボックスもレッドステッチ仕様だ。
インパネやドアライニングの加飾ガーニッシュもレッドであり、プライムスムース×ラックス スェード®×ファブリックのコンビネーションシートにもレッドステッチが施されるという徹底ぶりだ。
ヴェゼルe:HEV RSには、プラチナホワイト・パール/スレートグレー・パール/クリスタルブラック・パール/プレミアムクリスタルレッド・メタリック/シーベットブルー・パールという5色が用意されているが、インテリアにおける黒基調&赤アクセントにマッチするのは、赤いボディカラーだと思う。
まとめれば、内外装におけるRS専用アイテムによる差別化は期待通りにイメージを変えているし、専用ローダウンサスペンションの走り味は価格差以上の価値があるといえる。軽やかに都市を走り抜けるヴェゼルRSの走り味は、まさにアーバンSUVのひとつの理想を示している。




