オリジナルへの拘りより、“今の時代に合った楽しさ”を提案!
S&COMPANYが「TÜVクラシックカーガレージ認証」を取得
相変わらず旧車人気の勢いは留まるところを知らない。それは国産車、輸入車を問わず、「スカイライン」であればGT-Rは言うまでもなく、どの年式、グレードでも相当なプライスタグが付けられているし、「空冷ポルシェ911」は、まともに動くもので1000万円を切るものはまず見かけないような相場となってしまった。
この旧車人気の背景には、新車で乗りたいクルマが登場しないというボクら50代後半のような昔ながらのクルマ好きの思いもあるが、若い人たちの古い車種への憧れも大きく影響しているようだ。
言葉で表現するのは難しいが、世界が自由に夢のクルマを追いかけていた時代、日本がその先のことも顧みず発展だけを信じて良いクルマを作ろうとしていた頃、そんな時に生まれたクルマの勢いや、他とは違う個性を、現在の情報があふれる中に生まれ育った若者の中には、敏感に感じ取る人が少なからずいるからのようだ。
しかし、最初に述べたように、もはやおいそれと旧車に乗ることは費用の面でも難しいし、その辺りに詳しい「うるさい人達」から、「その乗り方は邪道だ」などと言われかねない。

そんな入っていきにくい旧車の世界を少しでも広げよう、と思って、エスアンドカンパニーは今回、日本で5社目となる「テュフ ラインランド ジャパン クラシックカーガレージ認証」を取得したという。
まず、テュフ(TÜV)とは何か? テュフは、ドイツ語の「技術検査協会」の頭文字から取ったもので、輸入自動車用品などでその文字を目にした人もいるかもしれない。
テュフラインランドは、1872年にドイツで、当時爆発事故が相次いだ「蒸気ボイラー」を検査するための「第三者機関」として誕生した。その本拠地はケルン市にある。そうして工業製品の規格を作り出し、その認証を与えるなどの活動を続けてきて、ドイツの車検制度、免許制度などもテュフが管理しているという。日本では警察が管理する分野をドイツでは中立の機関が行なっているのだ。ちなみにドイツ語で「テュフする」と言えば「車検を取る」、「テュフに行く」と言えば「免許を取りに行く」という意味合いになるほど浸透しているそうだ。
また、ニュルブルクリンクでのレーシングカーの車検、自動車事故の保険に対するアジャスター(日本では保険会社が自前でやっているのが現状)や、クラシックカーの査定(フレームナンバーとエンジンナンバーの適合認証)なども行なっている。
そんなテュフラインランドでは、適正にクラシックカーのレストアができる工場を有しているかを認証する機関でもあり、それが「テュフラインランドジャパンクラシックカーガレージ認証」だ。

「エスアンドカンパニー」が「マツダ」「ヤナセオートシステムズ(ヤナセクラシックカーセンター)」「郷田板金」「ネッツトヨタ富山株式会社(GR Garage富山新庄)」に続く日本で5社目となるその認証を取得。今回、テュフラインランドジャパンの栗田隆司さんから、エスアンドカンパニー代表取締役社長・鹿田能規さんへと認定証が手渡された。
例えばマツダは、NAロードスターやFD3S RX-7などで、ヤナセはメルセデス・ベンツやフォルクスワーゲンなどのかつて販売した車種で認証取得、といった具合に、基本的に大まかな型式ベースの車種毎に認証する。
認証のためには、レストアに対する知識や技術はもちろん、適切な設備が整っているか、部品の入手経路なども必要とされる。エスアンドカンパニーでも、フレーム修正等に関するものなど、一部設備の改修や導入が必要だったという。


そして、今回レストア認証を受けた車種はなんとフォード・エコノラインとフィアット・ムルティプラ。どちらも芸人の千原ジュニアさん所有だそうだ。大阪本店店長の高橋さんがジュニアさんと旧知で、彼好みの旧車の面倒を看てきたのがきっかけだそうだ。
車両の状態は両車ともに言うまでもなく完璧な状態。ボディの隅々に至るまで傷も錆もあり得ないし、エンジンはすぐに始動し、走り出すことができる。内装は必ずしもオリジナルを忠実に復元したものではなく、オーナージュニアさんの好みと現代の常識に合わせて仕上げているという。


運良く、ムルティプラの後席に同乗試乗させていただいた。ムルティプラに乗り込んでまず驚いたのが、旧車の匂いがしないこと。1965年登録(製造はおそらく1959年以前とのこと)の車両にしては、旧車特有の錆とオイルと埃が混じったような匂いがしないのだ。
走り出しはごく普通。街中の流れにも素直に入っていけるし、ブレーキングも不安なく減速、停止する。なにより1950年代に設計されたとは思えないボディのしっかり感と乗り心地の良さには感動した。以前、フィアット500(現在のではなくルパン三世の愛車のほう)に試乗したことがあるが、スバル360のような「ミニカー」のものと思ったら全然違い、しっかりした「自動車」であるのを確認した経験があるが、フィアット600をベースに3列シートにしたムルティプラも、当時からミニマムだけどアウトストラーダを走り回っていたのだろうか。

ただし、この個体のエンジンは633cc、20psのノーマルではない。フィアット850クーペに搭載されるエンジンをベースに940ccまでボアアップしたものを搭載。キャブレターはウェーバーで、都内での流れ(ジュニアさんは現在の拠点は東京だそう)でも問題ないよう、中低速を重視したセッティングながら、100〜120km/h巡航でも問題なくクルージングできるよう仕上げたという。
しかし、エスアンドカンパニーがこれからムルティプラやエコノラインの専門店を目指すことはあり得ない。鹿田社長は何を考えているんだろうか?

「僕のまわりの若い人にも、“旧いクルマがカッコいい、乗ってみたい”って言う人が本当にたくさんいるんです。でもそういう人たちって、たとえば“ビス1本までオリジナルじゃなきゃダメ”みたいな、敷居の高いレストアを求めているわけじゃない。もっと気軽に、楽しく旧車に乗りたいんですよね。
だから、そういう人たちにも来てもらえるようなお店にしていきたいと思ってます。ちょうど今、SEMAショーが開催されてますけど、アメリカでも旧車関連の出展がすごく多くて、3Dプリンターなんかを使えば、熟練の職人じゃなくてもできることも増えてきている。そういう新しい技術も取り入れながら、レストアやメンテナンスのスピードアップを図って、もっと気軽に旧車を楽しんでもらえるようにしていきたいんです。
これまで旧車って、“価格も高いし、誰に聞けばいいかも分からない”っていうイメージがあったと思うんです。でも、まずはうちに来てもらいたい。そして、気軽に旧車で街乗りを楽しんでもらえるような、“旧車の主治医”みたいな存在になれたらと考えています」とのこと。

ムルティプラやエコノラインといった普通には知られていない、けれど誰が見てもブサ可愛い、カッコいいといった車種でもレストアできる。どんな車種でも相談してほしいという思いから今回のテュフクラシックカーガレージ認証へと繋がったわけだ。
ボクらが若い頃憧れて乗れなかった旧車には今でも乗りたいと思うし、同じようにそのクルマを今の若い人が憧れて乗りたいと思ってくれている。世代を超えて、共通の趣味や好みが合うというのはそれだけでも嬉しいが、それを実現させてあげたいと思う鹿田さんの思いと実行力にも頭が下がるし、共感する。エスアンドカンパニーは今回の認証取得を機に「S&COMPANY Classiche(エスアンドカンパニー・クラシケ)」として新しいレストアサービスブランドとして立ち上げた。彼らが次にどんな旧車を仕上げてくるのか、楽しみにしたい。
PHOTO&REPORT:小林 和久
●問い合わせ:エスアンドカンパニー 大阪府守口市南寺方東通3-15-17 TEL:06-6992-0003
【関連リンク】
エスアンドカンパニー
https://www.s-company.jp/
