レクサスの走りの代名詞である“Fスポーツ”が終焉を迎える可能性があるようだ。とは言っても、それは従来の発想での話である。20年以上の経験を持つベテランジャーナリストであるクリス・チルトン氏によるレクサス“Fスポーツ”の将来展望のレポートをお届けしよう。

レクサスIS 500F

レクサスの渡辺隆史社長は、将来のモデルではソフトウェアの操作によって“F”の特性を実現させる可能性があると示唆しているように思える。

レクサス RC-F

少なくとも今のところレクサスは、個別のモデルとしての“F”パフォーマンスバッジの展開に終止符を打つ準備を進めているようなのだ。また最近の報道によると、レクサスのパフォーマンス部門から今後発売されるモデルは、BMW Mのライバル車から、電気自動車やハイブリッド車に搭載されるシンプルなドライビングモードへと進化する可能性があるという。

RC Fの轟音やLFAの甲高い音に魅了されたことがある人にとっては、このニュースは寂しいものになるかもしれない。これらの車は、BMW MやメルセデスAMGといったブランドと熾烈な競争を繰り広げたレクサスの真価を明確に示し、ラグジュアリーや洗練性だけにとどまらないレクサスブランドの真価を証明してきたからだ。

レクサスの渡辺隆史社長はオーストラリアの『Drive』誌に対し、「運転の楽しさ、エモーショナルな側面は、私たちにとって依然として非常に重要です」と“F”モデルの持つ価値について述べたようだ。さらに、「ラップタイムをコンマ数秒短縮する以外にも、レクサスには(ブランド)イメージ向上と顧客獲得のためのアイデアは数多くある」と明言している。

レクサスは先日開催された『ジャパンモビリティショー2025』で、これまで見たことのないものをいくつか披露した。ステアリングホイールに“F”ボタンを備えた奇抜な6輪ミニバン『LS』もその一つで、これはレクサスの今後の方向性を示すものとなるかもしれない。

「レクサスが十分に認識していることの一つは、これまでの伝統的な“F”モデルは、サスペンション部品、ショックアブソーバー、スプリングといった特別なハードウェア、つまり専用部品によって構成されていたということです。しかし将来的には、SDV(ソフトウェア定義車両)へと進化していくでしょう。これは、先進技術を通してどのように価値を提供していくかという、新たな要素をこの全体にもたらすことになるでしょう」と渡辺氏は語っている。

この考え方は、パフォーマンスがコンポーネントではなくコードによって定義される可能性があるという、レクサスの最近のコンセプトにも直接反映されているようだ。

「6輪ミニバン『LS』のステアリングホイールに装備されたボタンは、“F”モードをソフトウェアで表現しつつも、ブランドのスポーティさを継承するという、今後の進化の可能性を示唆しています。これもまた、私たちが目指す方向性を示す好例です」と付け加えた一方、高性能マシンに再び“F”バッジを使用することを明確に否定はしなかったようだ。新たな例となる有力候補は次期スーパーカーの『LFR』だと思われるが、実際、“F”モデルの追加については「具体的な製品計画は無い」と語っている。

そして最後に、「私たちは制約を受けません。“Fモデルらしくなければならない”などと押し付けるつもりはありません」と説明し、「つまり、“これを提供したい”、“これが形になった”、“これが最終結果だ”といった段階を経て、最終的に決定されるのです」と締めくくっている。