増え続けるカーコレクション

米国・カリフォルニアを拠点に建築家として活躍するスティーヴン・ハリスは、増え続けるカーコレクションを収蔵するため、地下ガレージを備えた邸宅をデザインした。
ガレージをメインにした邸宅を建てた、米国・カリフォルニアを拠点に建築家として活躍するスティーヴン・ハリス。

道路側から見ると、米国カリフォルニア州のランチョ・ミラージュにあるスティーヴン・ハリスの邸宅は、50年にわたる建築家としてのキャリアを象徴するかのようにも見える。平屋建ての建物はフラットルーフと大きな窓を備え、豊かな緑の芝生の中に佇み、遠く霞むサン・ハシント山脈を背景にする。

しかし、地上に見える姿はこの建築物の一部に過ぎない。ハリスが所有する静かな隠れ家の地下には、ひとつの秘密が隠されている。貴重なポルシェで満たされた地下ガレージだ。ハリスはこのガレージに、約20台のスポーツカーを保管。貴重な「356 カレラ」から最新の「911 S/T」(992型)まで、ポルシェの歴代パフォーマンスモデルが取り揃えられている。

ハリスがこの家を建てたのは、自身のカーコレクションのためだ。建築家として名を馳せた彼は、かつて道路を挟んだ向かい側に住んでいたが、増え続けるクルマの置き場に困ってしまった。そこで、巨大な地下ガレージを中心に据えた新居を建てることにしたのである。

叔父の356で知ったポルシェの魅力

世界的な建築家スティーヴン・ハリスが、ポルシェ・コレクションを収める地下ガレージを備えた邸宅を披露してくれた。
ハリスは、叔父が購入した356でポルシェの魅力に触れ、大学時代は父の911 Sでドライブを楽しんでいる。

フロリダ北部で育ったハリスが、ポルシェに魅了されたのは8歳のとき。叔父が356を購入したのがきっかけだった。「今でもその匂い、音、すべてを覚えています。完全に、ポルシェに夢中になってしまったんですよ」と、ハリスは懐かしそうに目を細めた。

その数年後、ハリスの父が、1967年型「911 S」を購入。大学生になったばかりのハリスは、なんとそのクルマで運転免許試験を受けることを許された。

「大学への通学の足として、『毎日オフィスまで走らせてばかりだと、エンジンのプラグがかぶるから、僕が学校へ持っていったほうがいい』と、父をどうにか説得したんです(笑)。そして父は許してくれました。それが私のポルシェへの執着の始まりです」

ハリスは名門イェール大学で哲学を学び始め、次に美術へと進み、最終的に建築へとたどり着いた。卒業からわずか2年で教壇に立ち、以来48年間大学で教え続けている。

同時に建築家としても大成功を収めていたため、多忙を極めたハリスが、ポルシェの世界に没頭するまで20年以上もかかったという。356と911への情熱を再燃させ、慎重かつ徹底した購入プロセスを取りつつ、やがて世界でも有数のコレクションを築き上げることになった。

「1台買ってまた1台、そしてまた1台と増えていきました。356を調べていくと、4基のカムシャフトを持つ、つまり伝説のフールマン・エンジン搭載モデルに行き着くわけです。そこで、20年前からこれらのカレラ系モデルを集め始めました」

「当然911に目を向けるようになり、私にとって“究極の初代911”は1973年型カレラRS 2.7だと、考えるようになりました。それを手に入れたら、その後911 SC RSや、964世代の911 RSの存在を知り……まあ、私は少し執着気質なんですよね(笑)」

ミュージアムでなくあくまでもガレージ

世界的な建築家スティーヴン・ハリスが、ポルシェ・コレクションを収める地下ガレージを備えた邸宅を披露してくれた。
ハリスは、自宅を作る際、ガレージから設計をスタート。整備性や入れ替えのしやすさを第一にデザインされている。

現在、ハリスのコレクションは50台以上。そのほとんどが356と911の競技用派生モデルだ。1973年式「911 カレラ RS 2.7」や「911 カレラ RS(964)」に加え、ペイント・トゥ・サンプルのシャルトリューズカラーを纏った「911 GT3 RS 4.0(997)」、ホモロゲーションのために、52台のみ生産された希少なライトグリーンの1974年型「911 カレラ RS 3.0」、「911 GT2(993)」、さらには「911 GT2 RS(997と991)」もある。

コレクションに共通するのは、「妥協なく、明確な目的のために作られた」ということ。その哲学はハリスの建築にも色濃く反映されている。

「私は建築の“流行”というものを疑っていて、機能性に基づいて物事を考える傾向があります。ポルシェの魅力のひとつは時間をかけてゆっくり、正確に進化していくこと。余計な装飾がなく、部品点数も最小限なんです」

彼の建築もまさに同じ原則に従っている。すべての構成要素には意味があり、構造上であれ景観との関係性であれ、明確な役割を持つ。

「私は自分の仕事が『努力を感じさせない、必然性のあるもの』に見えることを目指しています」

ハリスのガレージも機能性を重視して設計されており、整備や走行のため、すべてのクルマへと簡単にアクセスできるようになっている。車両は左右に分かれてわずかに斜めに配置され、どのクルマも別のクルマを動かさずに出し入れできるように設計された。

「この家を設計する際、まずガレージから始めました。構造に必要なスパンや柱の位置は、柱と柱の間に車を2台置けるように決めました。ここはガレージであって、ミュージアムではありません」

ガレージのために生まれた家

世界的な建築家スティーヴン・ハリスが、ポルシェ・コレクションを収める地下ガレージを備えた邸宅を披露してくれた。
ハリスは、今もほぼ毎日ポルシェをドライブ。クルマの出し入れがしやすいように、ガレージ優先で邸宅をデザインした。

地上階のガレージは建築規制により3台分までしか許可されていなかったため、そのうちひとつは地下ガレージへ車両を降ろすエレベーターとして使用。これにより、ハリスはどのクルマでも、すぐに外に出して周囲へと走りに行ける。唯一の問題は「どれを選ぶか」だ。

「ほぼ毎朝、日の出前にドライブに出かけています。パームデザートからアイデルワイルドへ向かう、ステルヴィオ峠のようなワインディングロードを上ったりもしますね。ルート74では、911 GT2 RSは速すぎるし、1957年型356 A カレラ GT スピードスターは遅すぎる……。どのクルマを選ぶかは、バランスと気分の問題です」

「私は今でも西海岸で4〜5つのプロジェクトに携わっていて、パームスプリングスから現場までクルマで移動します。非効率なのは分かっていますが、ドライブが好きなんです。大抵は新めのクルマを使います。27マイルしか走っていないクルマを残して死にたくないですから(笑)」

日常の移動だけでなく、様々なロードイベントにも参加。タフな「北京〜パリラリー」には356で参戦し、同じクルマで、南米を約1万6000kmを走破するラリーも走り切った。ただ、これほどポルシェに献身的に接し、収集家気質であるハリスにとって、お気に入りの1台を選ぶのはほぼ不可能だ。

「911 カレラ RS 2.7は本当に完璧なバランスのクルマです。最速でも最も過激でもありませんが、運転が純粋に楽しい。964の911 カレラ RSもお気に入りのひとつです。私にとって、あれこそ『神が意図したアナログ』です。パワーステアリングもなく軽量。見た目は普通のモデルと変わりませんが、少し車高が低くてホイールがマグネシウム製。これは4台持っています」

しかし、ハリスは自分をコレクションの“所有者”とは思っていない。「私は自分を“管理者”だと思っています。これらのクルマを大切に管理して、いずれ次の誰かへと引き継ぐつもりです」と、肩をすくめた。そして、この“管理者”という肩書きは、ハリスの自宅誕生の経緯にこれ以上ないほどよく表れている。

「これは“地下室のある家”じゃないんですよ。むしろその逆です。ガレージが先で、家は後なんです(笑)」

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