絶対に国産または同盟国製のLIBでなければならない理由

【写真4】すでに10年以上前からこのような電池内蔵式の中国製サーバーは日本で使われてきた。「当時の製品は作りがていねいで修理しやすい」とも聞く。薄利多売のための大量生産が始まる前である。

住民基本台帳や年金などのデータベースや各省庁が使うサーバー、自衛隊の戦術システムや対空監視レーダーサイトといった用途に使うBESSの場合は、絶対に国産または同盟国製のLIBでなければならない。サプライチェーンの中に中国を入れてはいけない。欧米ではここが厳しく管理されている。

最大の理由は、中国製インフラ機器に「バックドアがある懸念」がたびたび問題視されてきたことだ。研究者諸氏は「中国製のLIBやBMS(バッテリー・マネジメント・システム)をバックアップに使ったとしても系統電源を乗っ取られる危険性はない」と言うが、「情報収集なら可能」という。

たとえば、LIBが補助電源として作動する地域や時間帯のデータは収集できる。これは「もっとも効果の大きいサイバー攻撃作戦」の立案に使える。そのためEUは「サイバーレジリエンス法(CRA)」で輸入機器のセキュリティ要件を強化した。日本にも同様の枠組みが求められるが、まだ手が着いていない。

「系統電源と接続されているDER(Distributed Energy Resources=個人などが所有する分散型のエネルギー源)のLIBを一斉に作動させて系統に負荷をかけ、電圧フリッカーや保護しきい値超えの状態にすれば、一部区間をごく短時間だが停電させることはできる。実際の系統電源にはさまざまなセーフィティ機構が備わっているが、旧式のヒューズが混在していたり、BESSからの大量逆流を故意に制御されたりすると、100%安全とは言えない」

ある専門家はこう述べた。LIBとセットで出荷されたBMSにバックゲートが仕込まれていたとしても系統電源への有効な攻撃には使えない。しかし、やり方によっては、混乱程度は起こせるし日々のデータ収集は可能だ、と。

日本の一般電気事業者10社(北海道/東北/東京/北陸/中部/関西/中国/四国/沖縄)は「安い」という理由だけではBESSやサーバーなどの購入機種選定を行なわないだろうが、問題はそれ以外の「新電力」勢だ。法的に社会的責任が明確化されていない。

もちろん中国製に頼らない方法はある。まず、住友電工のRF(レドックスフロー)電池だ。純日本発の技術であり、すでに国内外で商用運転を開始している。大容量・長寿命でリチウム資源に依存しない。出力密度はLIBより低いものの、BESSでの4〜10時間級の長時間ストレージとして使える。チャイナリスクが低い商用技術という点で最有力候補だ。

一択ではサプライチェーンリスクがともなうから、東芝のSCiBも使う。LTO(チタン酸リチウム)を負極に使い、有効充放電サイクルは1万回を超える。熱暴走の危険性は極めて低い。鉱物資源は韓国との連携で非チャイナ品を確保する。また、東芝が開発中のチタン酸ニオブ電池もチャイナリスクが低い。

もうひとつ、有効な手段がある。ICE(内燃機関)の利用だ。発電用なら燃料消費効率のよい回転域だけを使える。完全にCN(カーボン・ニューとラリティ)を求めるなら、定置用ICEをCNF(カーボン・ニュートラル・フューエル)で運転すればいい。大気中のCO2 (二酸化炭素)を捕集するDAC(ダイレクト・エア・キャプチャー)と、再エネで発電した電力で水を電気分解して得るH2(水素)から作る合成燃料、いわゆるe-フューエル(e-Fuel)だ。

これからe-Fuelは国家安全保障の領域で必要になる。自動車で使えるほど安価にならないとしても、UPS用との定置用ICEなら、ICEそのもののコストと現在試算されているe-Fuelの調達コストの合計は、BESSよりはるかに安い。しかもチャイナリスクはゼロ。ガソリンのエネルギー密度は、どんなに控え目に見積もってもLIBの100倍以上である。

ただし、e-Fuel製造でチャイナリスクをゼロにするためには、再エネは中国製機材がまだ出回っていない地熱を利用するしかない。あるいは太陽熱だ。PV(太陽光)パネルと発電用大型風車は中国製ばかりになった。

今年7月、中国はLFP/LMFPカソードなど8種類の電池関連技術を輸出管理の制限リストに追加した。先端技術の海外移転にはライセンスが必要になった。最新世代のLFP技術を使った非中国製セルを日本国内で作るとしたら、時間もコストも相当にかかる。現実的ではない。「まだ大丈夫」と中国製品に頼っている場合ではない。

高市総理の発言に対し中国が執拗に反発するのはなぜか。それはメンツだけではなく、日本人の日常生活がすでに中国製品なしでは成り立たないと言う事実を中国側が充分に承知しているためだろう。日本へ観光客を運ぶ飛行機を止め、中国人の日本行きを自粛させているだけなら、まだ日本経済への影響は小さいが、これが日本への輸出全面禁止へと移行したら日本はひとたまりもない。

今年5月に米・トランプ大統領は突然、中国との関税掛け合い合戦を一時中断した。最大の理由は「9月の新学期シーズン前の商戦からノートもTシャツもスニーカーもなくなる」という懸念だった。そのあとの感謝祭とクリスマス商戦も中国製品がないと成り立たない。米国は深刻な中国依存症であり、それはトランプ政権もわかっていた。低付加価値製品の製造を中国に任せ、自らは高付加価値製品で潤ったグローバリゼーションという名の「製造放棄」がもたらした代償である。

LIBとPVパネルでの敗戦の精算だけはしておかなければならない

日本はどうか。もし、中国からの輸入が途絶えたなら、まず2〜3週間でスーパーの冷凍食品と野菜が品薄になり100円ショップの棚はスカスカになる。4〜5週間で自動車部品が足りなくなり自動車の車両工場が操業停止。2カ月強で医薬品と衣料品、靴、文具が品薄になり価格が高騰。3カ月で消費に打撃がおよび半年で景気は確実に悪化……。

日本は日常生活と産業の両方を中国からの輸入品に依存している。バブル崩壊以降、自社の利益しか考えなかった日本企業と、それを放置してきた行政と歴代政権によるツケだ。中国製品途絶で日本国民が支払う代償は景気悪化だろう。

もちろん、中国企業も日本向け輸出がゼロになったら困る。死活問題だ。しかし中国政府は、以前の「学習塾禁止」のように、とんでもない号令を突然かける。それができる国なのだ。メンツもプライドも高い。中国で事業を行なうすべての企業は、たとえイヤでも中国政府には逆らえない。

せめてLIB、PVパネル、発電風車の3品目を日本は国内調達に切り替えるべきだ。かつてこの3品目は世界的にも日本製が高いシェアを確保していたから、まだ技術は手の内にある。鉄鋼とアルミは自前で作れるし、ベアリングも国内にサプライチェーンがある。樹脂類とガラスも国内で完結できる。資材は心配ない。

ただし、日本の素材産業が健康であるうちにLIB、PVパネル、発電風車に代わる自前の再エネ関連システムを対中国の防波堤として用意しなければならない。LIBとPVパネルで負け戦に終わったいまの40歳代以上の世代は、日本の次の世代のために敗戦の清算だけはしておかなければならない。

すでに国内で使われている民営向けの中国製BESSやUPS内蔵サーバー【写真4】などは仕方ない。しかし、これから将来に向けて、高度製品での中国サプライチェーン依存度を高めることには再考が必要だ。サプライチェーンは東南アジア、オーストラリア、インドなどに分散すべきである。

思い浮かぶものはICE、e-Fuel、太陽熱・地熱発電設備、まったく新しい蓄電池、それと核融合技術だ。電池攻防戦の緒戦をリードしていたのに日本はジリ貧に陥った。この失敗とPVパネルでの失敗というふたつの汚点を繰り返してはいけない。まずは国内の日系資本データセンターや官公庁、自治体、大学などのUPSに中国製LIBを入れないことを徹底すべきである。これが21世紀電池攻防戦の教訓である。