スリップを知る者が語る冬の交通安全
滋賀県警×深田一希の異色コラボが実現!
2025年12月4日、正午前後の名神高速下り線・多賀サービスエリア。普段はクルマを停めることのない歩道付近にドリフトマシンが展示され、その周囲には多くの警察官の姿があった。

一見すると物々しい雰囲気にも見えるが、これは「令和7年 年末の交通安全県民運動~雪氷期間中における交通事故防止に向けて~」の一環として実施された交通安全啓発イベントだ。

この日、「1日高速隊長」に任命されたのは、滋賀県出身でフォーミュラ・ドリフト・ジャパンなど国内外で活躍する深田一希選手(BIGLOBE SSR team DUNLOP)。展示されていたドリフトマシンは、実際に深田選手が競技で使用している車両そのものだった。
ではなぜ、雪氷期間中の交通事故防止に“ドリフト”なのか。滋賀県内では冬季にスリップ事故が多発する背景があり、「滑る状況を競技としてコントロールするドライバー」であること、そして地元・滋賀県出身であることから、深田選手に白羽の矢が立ったという。

11時から行われた任命式の直前には、雪が舞う場面もあった。まさに企画の趣旨を象徴するような天候の中、高速道路交通警察隊、安全協会、NEXCO関係者らが整列。その中に現れたのは、普段のレーシングスーツとはまったく異なる、交通警察隊の制服に身を包んだ深田一希選手だった。
意外にもその姿はよく似合い、委任状とたすきを受け取ってスピーチ。直前まではやや緊張した様子も見られたが、本番では落ち着いた口調で挨拶を行い、会場からは拍手が送られた。

任命式後はレーシングスーツに着替え、啓発活動に参加。さすがに高速道路上での任務はなく、多賀SAの利用者を対象に、交通安全啓発グッズの配布が行われた。

ドリフトマシンの展示と、レーシングドライバーが1日高速隊長を務めるという非日常的な光景に足を止める利用者も多く、質問を投げかけたり、スマートフォンで写真を撮ったりする姿が目立った。深田選手は撮影にも気さくに応じ、終始和やかな雰囲気の中で啓発活動が進められていた。

また会場には、深田選手のスポンサーであるダンロップのブースも設置。スタッドレスタイヤやスリップサインの展示が行われ、こちらも多くの利用者の関心を集めていた。
ドリフトと交通安全県民運動。一見すると意外な組み合わせだが、スリップを知り尽くしたドライバーだからこそ伝えられるメッセージが、そこにはあった。偶然立ち寄った利用者にとっても、印象に残る交通安全啓発の1日となったに違いない。


「冬の路面では、急ブレーキや急ハンドルは絶対に避けてほしいですね。今回はパンフレットや安全対策グッズを配布しましたが、数には限りがあります。今後はSNSなどを通じて、安全運転の大切さを発信していきたいと思っています」と深田選手は語る。
ドリフト=危険、というイメージを覆すかのような今回の啓発活動。“滑ること”を熟知したドライバーの言葉だからこそ、冬の運転に向けたメッセージはよりリアルに響く。ハンドルを握る前に思い出したいのは、派手な走りではなく「止まれる準備」だ。
PHOTO&REPORT:近藤浩之

