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自衛隊新戦力図鑑

レーダー照射に込められた敵対的意図

事件が発生したのは、沖縄本島南方の太平洋上。防衛省の発表によれば、中国海軍の空母「遼寧」から発艦したJ-15戦闘機が、領空侵犯に備えて警戒にあたっていた航空自衛隊那覇基地所属のF-15J戦闘機に対し、2回のレーダー照射(うち2回目は30分間にわたり断続的に照射)を行なった。

統合幕僚監部が7日に発表した「遼寧」艦隊の航路。宮古海峡を通過し、6日に沖縄本島南方でJ-15戦闘機を発艦させた。公海上ではあるが日本の防空識別圏のど真ん中であり、航空自衛隊那覇基地よりF-15J戦闘機が緊急発進し、対領空侵犯措置にあたった(画像/統合幕僚監部報道発表)

さて、そもそも「レーダー照射」とは何だろう? 戦闘機用のレーダーには、広く周囲の状況を見る「捜索モード」と、攻撃時に狙いを定めるための「追尾モード」があり、後者は明確な攻撃準備動作とされる。多くの報道では、この「追尾モード」の照射を受けたとしている。ただし、現代戦闘機の多くが搭載するAESA(アクティブ・フェイズド・アレイ)レーダーは、異なる諸元のレーダービームを同時に使い捜索や追尾など、複数の機能を並行して実行できるため、レーダー信号が区別しにくいとも言われている。

元自衛隊幹部は、防衛省の説明が「レーダー照射」の詳細に触れていないことから、(仮に今回の中国機がAESAレーダー搭載のJ-15T型であったならば)自衛隊側のレーダー信号の識別が充分でない可能性を指摘する。また、識別には過去の電波情報の蓄積が重要となるが、昨年配備が明らかになったばかりのJ-15Tについてデータが乏しく、信号の識別に影響を与えていることが考えられる、とも。

2020年に自衛隊が撮影した空母「遼寧」。中国初の空母として2012年に就役した。2016年には初めて宮古海峡を通り太平洋に進出し、以後2番艦「山東」も含めて、たびたび太平洋の展開している(写真/統合幕僚監部報道発表)

では、防衛省の抗議は言いがかりなのか? 元幹部は明確に否定する。「事件当日、空母『遼寧』は自らのレーダー情報にもとづいてJ-15の管制を行なっていたはずで、航空自衛隊機も同艦のレーダーに捉えられていたでしょう。そのような状況でJ-15が不必要・目的不明のレーダーを一定時間照射したことは、識別の有無にかかわらず、敵対的意図のある行為とみなすことができます」。

広東省珠海で開催されたエアショーに地上展示されたJ-15T。折り畳まれた翼には中射程空対空ミサイル「PL-12」が装備されている(写真/筆者)

「明確な意図のもとに実行」

さて、中国軍機や艦艇による威圧的行動はこれまでも繰り返されてきた。これを「現場の暴走、スタンドプレー」と評する意見も多いが、元幹部は「明確な意図があると考えるべき」と述べる。

近年、日米連携の対中圧力が強まるなかで、「中国は『日本が近づけば、本気を出すぞ』という強い姿勢を見せることで、日本側を萎縮させて日米連携を弱めることを狙っている」と、彼は分析する。そして、「今回のような直接的軍事行動にいたらない『グレーゾーン事態』を積み重ねることで、東シナ海や西太平洋における中国の軍事的プレゼンスの既成事実化を図っている」と、一連の行動の背景にある中国の意図を説明してくれた。

昨年の珠海エアショーでは、空母の甲板を模したディスプレイの上に、最新鋭のJ-35ステルス戦闘機を始め、J-15などの大型模型が展示され、中国の海洋進出への意欲を感じさせた(写真/筆者)

今回の「レーダー照射」事件は、単なる偶発的トラブルではなく、大きな積み重ねの一段階に過ぎない。今後も同様の事態が継続していくものと考えて、日本は対処を考えなくてはならないのだ。

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