「ブレーキLSD」とは?なぜブレーキをかけると前へ進む?

ブレーキLSDは、ブレーキをかけて空転を抑えるだけの機能ではない。デフの仕組みを巧みに利用してトラクション性能向上に貢献する。

「ブレーキ」はタイヤの回転を止める、あるいは減速させるための装置であることは誰もが知っているだろう。一方で、「LSD」はタイヤの空転を抑えて車両安定性を高めたり、クルマを前へ進めるための装置だ。

メーカーの説明によれば、ブレーキLSDとは「空転したタイヤにブレーキをかけ、空転していないタイヤに駆動力を集中させることで発進をサポートする装置」とされている。

ブレーキとLSDが及ぼす物理的な作用は、まったくの反対方向と言ってもよいだろう。それなのに、なぜ空転しているタイヤにブレーキをかけることでクルマが前へと進むのだろうか。

この一見矛盾した動作を理解するには、オープンデファレンシャルギアとLSD(リミテッドスリップデフ)の仕組みを知る必要がある。

「オープンデフ」と「リミテッドスリップデフ」の仕組み

オープンデフは片輪が空転してしまうと、反対側には駆動力が伝わらなくなってしまう欠点がある。

クルマの駆動輪間には、旋回をスムーズにするための「デファレンシャルギア(デフ)」が備わっている。

2WDの場合、デフは入力された回転を左右に分配すると同時に、回転差を吸収しながら左右に駆動力を等配分する役割を担う。

ただし、この機能が正常に働くのは、左右両輪がしっかりと地面と接して十分な抵抗がかかる場合に限られる。滑りやすい路面などで片方のタイヤが空転すると、もう片方のタイヤには駆動力が伝わらなくなってしまうのだ。

そのため、雪道などでスタックから脱出する際のタイヤを見ると、スリップしているタイヤだけが盛大に回転し、スリップしていない反対のタイヤは回らない状態となる。また、急なヘアピンカーブなどで内輪の接地荷重が減って空転を起こしてしまうと、クルマを蹴り出す外輪に駆動力が伝わらず加速できない状態を引き起こす。

こうした特性を持つ「オープンデフ」の欠点を解消するための装置が「リミテッドスリップデフ(LSD)」だ。LSDは、デフ内部にクラッチやギアなどの機構を組み込むことで、片輪が空転した際でも強制的に反対側へ駆動力を伝達できる。

つまりブレーキLSDとは、LSDのような複雑な機構を用いず、空転したタイヤのみにブレーキをかけることで擬似的な抵抗を作り出す機能だ。ブレーキを用いて、LSDのように反対側のタイヤを強制的に駆動できることから「ブレーキLSD」の名前で呼ばれる。

ただしメーカーによって名称や役割は異なり、「ブレーキLSD」の名称で個別機能として実装される一方で、横滑り防止装置の一部として機能が統合されている場合も多い。

「ブレーキLSD」はローコストで高い性能を発揮できる疑似LSD

ラリーやロッククローリングではトラクション確保のために、古くから左足ブレーキが用いられてきた。電子制御により空転したタイヤのみを個別に制動できるよう自動化した機能がブレーキLSDだ。

エンジン出力抑制のみによる従来のトラクションコントロールでは、制御が働くと失速感が顕著に現れる問題があった。

しかし、ブレーキLSDによるトラクションコントロールが備わったクルマなら、悪路での走破力に乏しいオープンデフであっても力強く前進することが可能だ。

クルマによっては、減速時にもブレーキLSD制御を用いて車両安定性や回頭性を高めるように制御される場合もある。

ブレーキLSDは、既存の車両制御システムが基盤となるため、大幅な重量増やコスト上昇を招くことなく実装できる点が大きな利点と言えるだろう。ただし、制御方法や性能限界、使用目的はメーカーや車種によっても大きく異なる。

とくにトラクションコントロールとしてのブレーキLSDは、ブレーキシステムの過熱などを避けるために、特定の走行モード選択時や一定の速度域などに動作範囲が制限される傾向にある。

またブレーキLSDは、LSDやデフロック、4WDなどの代替となるほど強力な機能ではないことは留意しておきたい。しかし、雪道やぬかるみなど日常的な用途でのトラクション確保には十分な性能を発揮してくれるはずだ。