屋内長期保管車を路上復帰!
長く乗るための一手として選んだ3S-GEスワップ!
「大衆車より上、クラウンより下」。そんな“中の上”という絶妙な立ち位置を好む日本人の気質に寄り添うかたちで、トヨタが展開したのが(コロナ)マークIIだ。その3代目として1977年に登場し、販売チャネルごとに兄弟車展開を進める中で誕生したのがチェイサーである。

草刈正雄をイメージキャラクターに起用するなど、アダルトなパーソナルカー路線で売り出された初代チェイサーには、4ドアセダンに加えて2ドアハードトップも設定され、スポーティなイメージも併せ持っていた。一方で、丸型4灯ヘッドライトから転じた独特のフロントマスクは、いつしか「ブタ目」という愛称(?)で呼ばれるようになる。ディスられているようでいて、実はクルマ好きの間では今なお親しまれている呼び名だ。



今回紹介するのは、その初代チェイサーの2ドアハードトップ。オーナーの父親が、息子の免許取得を記念して探し出し、手に入れた1台だ。免許取り立ての若者にこの世代のクルマは荷が重いのでは……と思いきや、クルマ好き、チューン&カスタム好きの家庭で育った息子にとっては、むしろこれ以上ない贈り物だったという。
車両はいわゆる“納屋物件”、近年の言葉でいえばバーンファインド。良好な環境で長年保管されてきた個体で、外装は軽く磨きをかけただけのオリジナルペイント。走行距離は3万5000kmと少なく、内装も驚くほど良好なコンディションを保っている。取扱説明書や新車時から貼られたディーラーステッカー、当時のJAF連絡先ステッカーまで残っているのだから、その素性の良さがうかがえる。
とはいえ、長年眠っていた旧車がそう簡単に路上復帰できるほど甘くはない。購入した業者の手で一度はエンジンがかかり、車検が取得できる状態までは整備されたものの、実際にはアイドリングが不安定ですぐに止まってしまったり、テスト走行中にマフラーが内部腐食で折れてしまったりと、いかにも旧車らしいトラブルを次々と経験することになる。
キャブレターの清掃や調整、各部の点検整備を行っても、どうしても不調の根本解決には至らない。そんなときに紹介され、たどり着いたのがOMRの大坪さんだった。

車両の状態を確認した大坪さんが提案したのは、エンジン換装という選択肢だった。仮に今回調子が戻ったとしても、今後再び不調が出た際にはパーツ供給の問題に直面し、修理不能になる可能性が高い。長く乗り続けるための“延命策”としての提案でもあった。

このチェイサーは、もともと4気筒2.0Lの18R-Uを搭載するグレード。M型6気筒エンジン車の設定もあったことから、OMRでは1JZや2JZへの換装も提案したが、オーナーの希望は「元車と同じ4気筒」。そこでドナーとして用意されたのがアルテッツァで、デュアルVVT-i付きの3S-GE BEAMSとアイシン製6速MTの組み合わせが選ばれた。
搭載された3S-GE BEAMSは、現代の基準で見れば突出したパワーを誇るわけではない。しかし、軽量な昭和のボディとの相性は抜群で、キビキビとした走りを楽しませてくれる。エンジンルームのスペースにも余裕があり、将来的に過給機によるパワーチューンといったアップデートも視野に入る。

エンジンとミッションは搭載前にタイミングベルトやゴム類など消耗品をリフレッシュ。一方で、車両側の燃料系は想像以上に深刻だったという。燃料タンク内部のサビが剥がれ落ち、フィルターやラインを詰まらせていたことが、エンジン不調の大きな原因だった。インジェクション化にあたり燃料系はシステムを一新し、タンク内部も処理を施して仕上げている。

純正マフラーは内側から腐食が発生し折れてしまっていたため、ステンレスで破損部分を作り替えて対応している。

外観はノーマルライクを基本に、細部でこだわりを見せる構成。ベースはSTDバンパー車だが、当時の衝撃吸収バンパー(通称ビッグバンパー)のイメージを再現するため、もう1台車両を購入してバンパーを入れ替えたという。リップスポイラーでさりげなく引き締めつつ、フェンダーミラーまで含めて雰囲気はあくまで当時風だ。

足元にはSSR マークIIの14インチと、復刻されたアドバンHFタイプD(205/60R14)を組み合わせる。程よい車高と出面にまとめられているが、サスペンションのフィールにはまだ課題があり、今後セットアップを煮詰めていく予定だという。



室内も変更は最小限。当時のラジオやカセットデッキはそのまま残され、シフトレバー位置はリンク加工によって自然にボディへ合わせ込まれている。アクセルペダルは、アルテッツァ用スロットルセンサーを使用する関係で、オルガン式から吊り下げ式へ変更。純正タコメーターが不調のため、現在は暫定的に社外品を装着している。
なお、現状はパワーステアリングなしだが、操作に困るほど重くはないという。ただし、ボールナット式ラック特有の曖昧なフィールは否めず、将来的にはアルテッツァ用への変更も提案されている。

父から贈られたこのチェイサーは、免許を取ったばかりの若葉ドライバーにとって、単なる移動手段ではない。ここから先、少しずつ自分の色に染められながら、新たな歴史を刻んでいく1台となりそうだ。
●取材協力:OMR 愛知県安城市尾崎町上大縄46 TEL:0566-98-4206

