シャシーはセルボ(セルボモード)とほぽ100%共用で、フロアは高さを変えるために上げ底。 前側は強化された波状鉄板で二重構造、 後側はウレタン成形パネルを強いて80mm嵩上げされている。

「軽なのに背が高い」「なんだか箱みたいだ」

初代ワゴンRが街に現れ始めた頃、多くの大人は少し戸惑っていたように思う。

ワゴンRは、それまでの軽自動車が持っていた“かわいらしさ”とか“控えめさ”とは、明らかに違う雰囲気をまとっていた。しかし目の当たりにすると、その印象はすぐに変わった。

シートは取り立てて大きいわけでも広いわけでもなかったが、フラットな状態に出来るなど、現在にまで続くシートアレンジの妙が光り、使い勝手は良かった。

ドアを開けて乗り込むと、思った以上に視界が広い。天井が高く、閉塞感がない。後席に座っても膝まわりに余裕があり、「軽だから仕方ない」という今まで当たり前だった諦めの感情がほとんど湧かなかった。

ワゴンRは軽自動車の立ち位置そのものを変えたクルマだった。それまで軽は、セカンドカーやご近所専用車として扱われることが多かった。だがこのクルマは、買い物、通院、送り迎えと、堂々と家族の日常を支えられる存在だった。

各ドアは大きく開く。実は右側後方ドアの無い4ドア車。右側後方ドアがオミットされたのはボディ剛性確保の目的もあるが、スズキによれば、子どもの不意の飛び出しに備えたためでもあるという。

派手さのない用事ほど、ワゴンRの出番は多かったように思える。エンジン音も走りも控えめだが、不満を覚えることは少なかった。必要な性能が、必要な分だけ用意されていたからだ。特に印象に残っているのは、病院の車寄せで見かけた高齢者の乗り降りだった。車高が高すぎず、低すぎない。ドアの開口も大きく、体をひねらずに乗れる。軽自動車が、ここまで“家族全員に優しい存在”になるとは思っていなかった。

①がステップ高さで315mm、②が着座位置625mm、③が天井で1420mm。

高速道路ではさすがに非力さを感じる場面もあった。それでも、無理をさせなければ、きちんと応えてくれる。ワゴンRは、使う側に過剰な期待を抱かせない。その正直さが、信頼につながっていた。

コクピットは極めてシンプル。それでもまったく過不足のない構成だった。

今の軽自動車と比べれば、装備も安全性能も控えめだ。それでも、初代ワゴンRが日本の家庭に与えた影響は大きい。「軽でも、生活の中心になれる」。その価値観を、静かに、しかし確実に広めた存在だった。

ワゴンRは特別な思い出を作るクルマではなかったかもしれない。だが、何気ない日常を支え続けたことで、いつの間にか家族の一員になっている…。今振り返ると、そういうクルマこそが、本当に記憶に残るクルマなのだと思う。

第1回:トヨタ カローラ(100系セダン/1991-1995(平成3-7)年)/家族のための「普通」という選択と正解 【あの頃、家にあったクルマ】

クルマの型式や性能は忘れてしまっても、「家にあったクルマ」の記憶は鮮明に残っている。エンジン音やドアの重さ、後席から見た風景には、当時の家族の距離感や生活の空気が刻まれている。かつてクルマは、単なる移動手段ではなく、家庭の時間を支える存在だった。記憶に残る「家にあったクルマ」を振り返ってみよう。