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自衛隊新戦力図鑑

極超音速ミサイルやレールガン、レーザー砲を搭載

第二次大戦以降、海軍水上艦艇の中心が空母へと変わるなかで、戦闘艦の主力は空母を護衛する数千トン級の駆逐艦となり、戦艦や巡洋艦といった艦種は消滅していった。90年代まで戦艦を運用していたアメリカですら、60年代には半ば退役状態となっている(80年代に一時的に現役復帰)。そんな「過去の遺物」とも言うべき戦艦の復活をトランプ大統領が宣言した。自らの名を冠した「トランプ級戦艦」だ。

全長256~268m、排水量35000トン以上というスペックは、大戦期の戦艦に匹敵する。一方で主兵装は、かつての大口径火砲に代えて、核および極超音速ミサイルを搭載する。そのため艦種分類は「戦艦(BB)」に「誘導ミサイル」を意味する「G」を加えた、「ミサイル戦艦(BBG)」となっている。

陸海空自衛隊の装備・能力。組織が大きく変わろうとしている! 今号では、自衛隊初となるSTOVL機による部隊編成に向けた訓練をレポート。陸自では、普通科舞台に導入されている新型装輪車両を解説。海自では、新編された水上艦隊がどう戦うのか解説。また、尖閣諸島周辺への中国公船による接近と領海侵入に海上保安庁はどう立ち向かっているのか徹底解説します。

副武装も現代的だ。艦首に32メガジュール級のレールガン(電磁砲)を1門、艦の中央部に300キロワット級(または600キロワット級)のレーザー砲2門など、これまでにない兵器の名が並ぶ。トランプ級戦艦は、最新かつ現代化された武装を備えた巨艦と言えるだろう。トランプ大統領は得意げに「従来の戦艦の100倍の強さだ」と語っている(なお、“100倍”の根拠は無い)。

「デファイアント」の側面からのイラスト。大口径の主砲塔を複数備えていた大戦時代の「戦艦」とはまったく異なる外観だ。対レーダー・ステルス性も考慮され、多くの傾斜した平面で外観が構成されている(画像/アメリカ海軍)

「アメリカ海軍の戦力整備を圧迫」専門家は指摘

トランプ大統領らしい「派手な戦闘艦」ではあるのだが、気になるのは実用性の有無だ。現代に「戦艦」が復活する意味があるのだろうか? 地経学研究所研究員補で海軍の軍備に詳しい井上麟太郎氏は以下のように話す。

井上「脅威の能力向上にともない、対抗するためのミサイルが大型化し、さらに大規模な電力供給を要する次世代搭載品の導入が本格化するなかで、艦艇の大型化は各国で避けられない流れです。トランプ級BBGは、まさにこうしたトレンドの表れといえます。アメリカ海軍は2021年に、極超音速ミサイルやレーザー防御システムなどを搭載する満載排水量13500トン級の次世代ミサイル駆逐艦DDG(X)の開発・建造を発表しましたが、BBGはその3倍弱まで大型化しています」

アメリカ海軍が2021年に発表した次世代ミサイル駆逐艦DDG(X)のイメージCG。かつて数千トン級だった駆逐艦は、アーレイ・バーク級で1万トン近くになり、DDG(X)では𓔀13500トンまで大型化した。艦橋構造物や武装の配置を見ると、DDG(X)とトランプ級BBGはよく似ており、BBGを「拡大版」と呼べるほどだ(画像/アメリカ海軍)

井上「BBGは大統領の思いつきだけによるものではなく、海軍内で積み上げられてきた検討に基づいたものでしょう。海軍は2023年末以降に実施してきたイエメン沖での『繁栄の守護者』作戦などを通じて、各艦のミサイル搭載数を増強しなければ、来たる米中戦争において空母の護衛のみならず、個艦防空すら充分に遂行できなくなるとの懸念を強めました。その結果、前方で戦う水上戦闘艦の火力を強化するとともに、残存性を高める必要があると考え、『戦艦』の復活を決めたのです」

井上氏はトランプ級が、世界的な艦艇のトレンドに沿ったものだと述べる。一方で、以下のような懸念を示している。

井上「BBGの導入がアメリカ海軍にとっての最適解であるとは言い難いでしょう。『戦艦』の採用は、火力規模という中国軍がすでに優位にある土俵で競争することを意味します。また、アメリカの艦艇開発能力が低下するなかで新たな艦級に着手するリスクは大きく、莫大な予算と人的資源を要するため、仮に開発に成功しても、艦隊全体の戦力整備を圧迫する可能性があります」

近年、アメリカ海軍は新型艦艇の開発・建造で見直しや遅延を繰り返している。このようななかで、過剰な大型艦の新規建造が与える影響は決して楽観できるものではないようだ。

「デファイアント」のイラスト。トランプ級BBGは世界的なトレンドやアメリカ海軍の経験に基づく部分もあるが、一方で大型艦建造という負担が海軍全体に与える影響が懸念される(写真/アメリカ海軍)

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