現役時代も現在も異例の存在

慣れというのは恐ろしいもので、初見/初体験時に絶大なインパクトを感じても、数年後の印象が普通に転じることは珍しくない。そしてそういう視点で見るなら、ヤマハが1985~2007年に販売した初代VMAXは貴重な存在である。
少なくとも僕にとってのこのバイクは、現役時代も現在もずっと普通の真逆、異例なのだから。

改めて歴史を振り返ると、VMAXは登場時から異例のモデルだった。
1980年代中盤の大排気量大馬力車は系譜が存在するのが通例で、ホンダVF1000RはCB1100R、ヤマハFJ1100はXS1100、スズキGSX1150EFはGSX1100シリーズ、カワサキGPz900Rは空冷Z系の後継だったのだけれど、アメリカで大人気を誇るドラッグレーサーのイメージを取り入れたVMAXは、前任車が見当たらない、突然変異的な車両として現れたのだ。

もっともVMAXが搭載するV型4気筒エンジンは、グランドツアラーのXVZ1200ベンチャーロイヤル用をベースとしていた。とはいえ、VMAXはベンチャーロイヤルの後継車や派生機種ではないし、革新的なVブーストの導入とメーカーチューニングで実現した145psの最高出力と12.4kg-mの最大トルクは、同時代の大排気量車の基準を圧倒する、異例の数値だったのである。
ロングセラーらしらぬ資質

ロングセラー=走る場面や乗り手の技量をあまり問わないベーシックモデル。ちょっと大雑把な表現かもしれないが、ホンダCB-SFシリーズやヤマハSR・セロー、スズキSV650シリーズ、カワサキGPZ900Rといったロングセラーには、そういう資質が備わっていたように思う。ところが、生産期間が23年に及んだにも関わらず、VMAXは万人が好感を抱くモデルではなかった。

具体的な話をするなら、1980年代中盤の基準で考えても車体の安定感は万全とは言い難かったし、大柄な車格やエンジンの発熱量に違和感を覚えた人もいたに違いない。また、タイヤの選択肢が少ないことや航続距離が短いことを、疑問視する声も少なくなかったようだ。

つまりロングセラーという視点で考えても、VMAXは異例の存在だったのである。ではいろいろなマイナス要素を抱えるこのモデルが、どうして世界中の多くのライダーから支持を集めたのかと言うと……。

その理由は言わずもがな、他機種では替えが利かない、独創的で圧倒的なスタイルと走りだろう。いずれにしてもVMAXに魅了されたライダーにとって、前述のマイナス要素は取るに足らないことだったのである。

23年間で9万台以上を販売
さて、説明するのが遅くなったけれど、そもそもVMAXは、アメリカ市場の趣向を反映して生まれたモデルだった。USヤマハが本社に要求したのは、世界一のゼロヨン加速と“ブルート&マッチョ”なルックスで、1980年代のビッグバイクの命題だった最高速やツーリングでの快適性はほとんど度外視。
こういった無理難題はいかにもアメリカ人と思えるものの、当時のヤマハにはそれを受け入れる土壌が整っていたのだ。

と言うのも、まずVMAXの開発が行われた1980年代前半は、ヤマハを含めた日本の4メーカーが史上最高の収益を挙げ、年を経るごとに生産・輸出台数を更新していた時代である。
その勢いは1985年以降のドル安・円高傾向によって徐々に失われていくものの、当時の日本勢は新ジャンルに果敢に挑戦できる余力を持っていたのだ。そして余力と言えば、この頃のヤマハはビッグバイクの世界でひと息つけた状態でもあった。

1970年代中盤までのヤマハは、ビッグバイクの世界で他の日本の3メーカーに遅れを取っていたものの、1978年型XS1100の発売後は風向きが変わり、1980年代に入ると魅力的なモデルを続々と投入していた。
1981年には日本車発のリッターVツインスポーツとなるXV1000 TR-1、ナナハンらしからぬ小型軽量化を達成したXJ750E、1983年にはグランドツアラーのXVZ1200ベンチャーロイヤル、1984年には世界最速を目指したスポーツツアラーのFJ1100を発売し、さらにはジェネシス思想を注入した次世代スポーツバイクとして、FZ750を開発中だったのである。

これだけ強力な布陣が揃えば、随所に大胆な手法を取り入れたバクチ的なモデル、過去に前例がないストリートドラッガーも造れようというもの。
ちなみに当時のヤマハは、VMAXを北米市場のステータスシンボルと考えていたようだが、1986年には欧州、1990年には日本、2000年代には南アフリカでの販売が始まり、最終的な生産台数は23年間で9万台以上に到達。素性や構成を考えれば、その数値は異例と言って差し支えないだろう。

なお初代の生産終了から2年が経過した2009年、ヤマハは第2世代のVMAXを発売している。ただし、らしさを維持しながら全面新設計となった第2世代は、初代のようなロングセラーにはなれなかった。

その背景には、アメリカのサブプライムローンの破綻やリーマンショックがあったと言われているけれど、個人的には車格の大柄化と(車重は284→311kgに、軸間距離は1590→1700mmに増加)、価格の大幅アップが(2007年型の逆輸入車が103万5000円だったのに対して、2009年型は220万円。いずれも税抜き)、ネックになったのではないか……という気がしている。
主要諸元(1985)
車名:VMAX
全長×全幅×全高:2300mm×795mm×1160mm
軸間距離:1590mm
最低地上高:145mm
シート高:765mm
キャスター/トレール:29°/119mm
エンジン形式:水冷4ストロークV型4気筒
弁形式:DOHC4バルブ
総排気量:1198cc
内径×行程:76mm×66mm
圧縮比:10.5
最高出力:145ps/9000rpm
最大トルク:12.4kgf・m/7500rpm
始動方式:セルフスターター
点火方式:フルトランジスタ
潤滑方式:ウェットサンプ
燃料供給方式:φ35mm負圧式キャブレター
トランスミッション形式:常時噛合式5段リターン
クラッチ形式:湿式多板ダイヤフラムスプリング
ギヤ・レシオ
1速:2.529
2速:1.772
3速:1.347
4速:1.076
5速:0.928
1・2次減速比:1.775・3.666
フレーム形式:ダブルクレードル
懸架方式前:テレスコピック正立式φ40mm
懸架方式後:スイングアーム・ツインショック
タイヤサイズ前:110/90V18
タイヤサイズ後:150/90V18
ブレーキ形式前:油圧式ダブルディスク
ブレーキ形式後:油圧式シングルディスク
乾燥重量:262kg
使用燃料:無鉛レギュラーガソリン
燃料タンク容量:15L
乗車定員:2名
